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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第一章 異世界編

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行き先を決めて

前回のあらすじ


 スーディアの剣について話し合う、晴嵐とラングレー。憶測は出たが、証拠は見つけられない。帰って来たテティとスーディアをからかいつつ、簡素なスープを啜る。一息ついた後、テティはオークの二人に今後を聞いた。村を通過する気配を見せる二人を、晴嵐が呼び止める。

「わしは斥候として、オークの集落を偵察する仕事で来た。その際期限を決められていてな。わしの行動に関わらず、三日後……いや一日経っとるから明後日か? に、軍隊を動かすらしい」

「……本当か?」

「あぁ。それどころか……わしが仕事を終えて村に戻れば、行動を速めるかもしれん。そんな状況で、オークが村に入ったらスパイと疑われるぞ」

「あー……オレたちにその意思はないが……そっか。そうだよなぁ……」


 晴嵐に疑惑を向けた軍団長の事だ。この時期村に出入りするオークを、素通しするとは考えにくい。軽い質疑応答で済めばいいが、拘束される危険もある。

 スーディアが気を使うしぐさの後に、晴嵐に問うた。


「しかし良かったのですか? 俺達に情報を流して」

「もうお主ら、あの群れと手を切ったのじゃろ?」

「……頼まれても戻らないね」

「じゃったら話しても問題ない。捕り物になってわしら二人に、あらぬ疑いをかけられても面倒じゃからな」


 そうだ。あくまで情報を流すのは……デメリットが生じない事と、このまま村に入られた場合、ややこしい事になりかねないからだ。他の意味はない。断じてない。少なくとも彼はそう思っている。

 晴嵐の心情を逆撫でる行為と知らず、スーディアは軽く頭を下げた。


「いえ……それでも助かります。ありがとう」

「……気にするな」


 真っすぐな瞳を直視できず、晴嵐は視線を逸らした。あまりに素直で、強い光を溜めた目は、汚れきった老人には眩しすぎる。奇妙な動作に眉根を寄せるが、余裕がないラングレーは気づかない。額を抑えて悩みこんでいた。


「となると……迂回しなきゃならないか。どういうルートで行くべきか……」

「そうね、亜竜自治区を通るルートがいいと思う。ここから南下すれば、遠くはないはずよ」

「ちょっと地図確認するか」


 ライフストーンを取り出す二人は、空間に大陸を浮かび上がらせた。

 遠目で晴嵐は注視する中、立体映像をいじって縮尺を変えていく。指差し、話し合いながら、オーク達とテティが進路を考えた。


「今の位置がここ……グラドーの森とホラーソン村の間ね。多分この辺り」

「方向も確かめた。合ってる」


 スーディアも石を浮かべて、今の位置関係を固めた。三人のやりとりを、口を出さずに晴嵐は観察を続ける。


「で、亜竜自治区は……緑の国よりは遠いか。でも行けない距離じゃねぇな」

「ポートを登録して、スーディア」

「ああ」


 宙に浮いた地図の何か所に、光の点が浮かんでいる。ちょうど村の位置や、都市部で光点が灯っていた。黄色い光と文脈から察するに、村にあった巨大な水晶体が『ポート』なのか? 南にある光の点を指で数度つつき、オークが動作を終えた。光の消えた石を浮かべると……指す方角が変化している。「これで良し」と緑色の肌の二人が、互いに頷き合った。

 一連の行動を見つめて、晴嵐は戦慄した。

 魔法という異世界技術の一端を、見せつけられたのもある。なのに……晴嵐には意図が理解できてしまった。それが恐ろしくてたまらない。

 今の彼ら行動は……終末世界、いや地球が文明を築いていた頃の事柄に例えられる。晴嵐はこう感じた。


“まるで……カーナビで地図を開いて、目的地を指定し、ナビゲートを始めたようだ”


 魔法か機械かの違いはある。けれどやっている事は変わらない。向こうの発想や技術が転用されているのか? しかし……いつ、誰が、どうやって?

 あるいは、全く関係がないのだろうか? 彼らは知的生命体だ。利便性のある道具や発想は、誰が考えても大体同じ結論に行きつく。地球人が思いついたのだ。この世界の人間が閃かない保証もない。

 冷静に考えれば、さほど驚くことでもないか。晴嵐は呼吸を整え、意識を三人へ戻す。


「場所は確認した……ここで別れた方がよさそうか」

「……だな」


 オーク達の行き先は定まった。晴嵐の情報もあれば、これ以上に村に近寄るメリットがない。名残惜しさを滲ませ、二人が立ち上がる。

 

「じゃあな。二人とも。次のポートに無事に着けたら、メールで送るぜ」

「うっかり忘れないでね?」

「するもんか! なぁスーディア」

「当たり前だ。……セイラン、あなたにも借りが出来た。また会える機会があれば、いずれ返させて欲しい」

「…………気にせんでいい。仕事をしただけじゃよ」

「ホント可愛くねぇなお前」


 ラングレーの口調に嫌味はない。晴嵐の言動に慣れたようだ。かく言う晴嵐も、若者の軽口に腹が立たない。むしろ一種の安堵が胸に広がって……それが、酷い違和感を生じさせる。

 言葉がつまり、声が出ない。気の利いた別れの言葉が……彼には出てこなかった。

 別れ際の寂寥に、足を深くとられる前に――スーディアが声を大きくして、背筋を伸ばした。


「二人とも……どうか達者で!」

「……お主らもな」


 湿り気を振り払う、覇気のある言霊だった。晴嵐の内面から気負いが消え、その瞬間だけ彼は素直に告げる。

 成り行きで手を組んだ二人が、人間二人の前から去っていく。

 様々な感情が渦巻く中……晴嵐は沈黙を守り、その背が消えるまで見送った。

用語解説


 ライフストーン(追加情報)

 画像含むメモ帳や、拠点の方角を示す石だが……さらに地図機能に加え『村や集落のポートを指定して、石の示す先を変更可能』のようだ。晴嵐は『まるでカーナビだ』と驚いている。

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