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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第五章 戦争編

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真実Ⅳ

前回のあらすじ


 吸血種たちは、今回の『悪魔の遺産で武装したゴブリン』の事件を検証する。かつての『悪魔の遺産』より性能が落ちている。淡々とした検証の中で、彼らは自分たちの事もかえりみた。

『レリーノ事件、未ダ尾ヲ引イテイルノカ?』

「…………まぁね」


 レリー・バキスタギス……数か月前、緑の国で明るみになった不祥事、その主犯格の名に英傑は俯いた。

 変わってしまった戦友。そして彼と共に備え、設立した吸血種私兵部隊も……私腹を肥やす為に増長してしまった。本来の役目は……今まさに、このような事態のためにあったのに。

 無言のままの英傑に対し、共に戦友だった男……ハクナ・ヒュドラも慎重に語り掛ける。


『アノ者ノ戦士ノ資質ハ、確カニ本物デアッタ。ダガ……磨カネバ腐ルノモ、道理デアロウ。千年ノ時間ハ、劣化ニ十分デアル』

「……意外と辛辣だね。僕よりハクナの方が、彼の姿を近くで見て来ただろう?」

『戦士ノ……否、アラユル技ハ研鑽サレ、更新サレル物。過去ノ栄華ニ酔イ、新タナ可能性ニ目ヲ背ケレバ……衰退ハ必然。コレハ万物ニ通ズル真理デアル。故ニ我モ戦場ニ赴キ、武ヲ磨クノダ』

「…………その指摘、間違ってないのが耳に痛いな」


 吸血種私兵部隊……レリー子飼いの吸血種たちは、非常に練度が低かった。城の地下で待機していた者たちは『ユニゾン・ゴーレム』によって鎮圧されたが……地形情報や数の優位は全く生かせていなかった。ゴーレムの主であるムンクスも、クソザコと評していた。

『黄昏の魔導士』が落ち込む中で、ハクナは一つ事実を示す。


『トナレバ……今回ノ案件デ、カノ部隊ガ戦地ニ赴イテタトシテモ、惨劇ヲ防ゲタカ怪シイ』

「そうだね。多少ここの被害者の数字が減る程度だろう。ムンクス君の『ユニゾン・ゴーレム』の配備が間に合っていれば、違っていたかもしれないけど」

『ソチラノ練度ハ良イノダロウ? 何故出陣出来ナカッタ?』

「政治的な理由だよ。吸血種のホストが空いたのに、ムンクス君や僕が出張ると印象が悪い。多分戦争をけしかけた老エルフ一派だって、今なら僕らが強く抑止できないから……って理由もある」

『……荒レテイルナ』

「当たり前だ。本当、全部ぶちまけて隠居したいよ……」


 頭を抱える『黄昏の魔導士』は……いつになく弱った口ぶりは、公の場では絶対に見せない姿だ。冗談交じりに口にする言葉だが、誰も本音とは受け止めない。当時の状況と、そして現在のユニゾティアに残る脅威を知っているからこそ……『黄昏の魔導士』の愚痴と鬱憤うっぷんを、ハクナは静かに耳に入れた。


「欲深き者どもの肉体は、確かに滅んだ。ミノル君の『異能審判ジャッチメント』の反応が消えた事から間違いない。そう思っていた」

『……我々ノ、最大ノ失態ダ』

「そうだ。『確かに肉体は滅んだ』けれど『魂を別の物に移し替えて』いたんだ。当時危険性が判明していなかった『憑依型ゴーレム』に……!」


 それこそが、ユニゾティア陣営最大の失態。千年前の戦争において彼らは『欲深き者どもの殲滅に失敗していた』のだ。


『ソシテ奴ラハ……密カニ『グラドーノ森深部』ヘ逃走シ……『コノ世界ヲ故郷ト思ウ者』ヲ、弾キ出ス結界ヲ張ッタ。自分タチノ文明ト、被造物ハ例外トスル障壁ヲ……』

「……ゴブリンを作った理由だって、一部とはいえ反逆されたオークより、知性や能力を下げて脅威度を下げただけ……まぁその名残で、オークは結界を突破できるのだけど……」

『コノ理屈ダト、獣人モ抜ケレソウナモノダガ』

「彼女らは早い段階で、ユニゾティア陣営についたからね。向こうも警戒して、結界の対象に取ったのだろう」


 これが真実……『欲深き者ども』は、千年前の敗北の際に、自分たちの肉体を捨て『憑依型ゴーレム』に魂を移し『グラドーの森深部』に逃走。

『結界』を展開し、不可侵の防壁を張って……千年経過した今でも、存在している。

 本来『レリー・バキスタギスの吸血種私兵隊』は、奴らに対する兵力だったが、完全に死に札と化し、不正の温床に。今回の戦争に、後釜の『ユニゾン・ゴーレム部隊』を派遣したかったが……政治的なバランスから、今回は見送った。それが裏目に出て、両軍に被害が出たと言えなくもない。

 今回の事件を、五英傑はこう締めくくる。


「今までは……結界を広げようとしたり、深部に近づいたオークを誘拐したり、記憶を奪う程度で済んでいたけど……今回のは明らかに『攻撃』だ。これは……本格的に奴らとの戦争も、想定しないとマズイかもしれない」

『ダガ、一定以上攻メ込ム事ハ出来ヌゾ? ソレニ……奴ラ不死身ダ』

「……そっちのトリックは、何とか暴いたよ。どうやら『意識データサーバー』……魂を保管する機械があって、ゴーレムの肉体に入っているのとは別に、魂を予備で保管している装置があるみたいだ。だから量産の利く機体を破壊しても、効果が低い。サーバーをハッキングするか、ウィルスを打ち込まないと……」

『何ヲ言ッテイルカハ不明ダガ……トモカク、目処ハ有ルノダナ?』

「……一応はね。この仕事を終わらせないと、僕も隠居が出来ない。この世界とのパスを開いた責任の一端は、僕にもある。ケジメをつけるまでは、いくらでも苦痛を請け負うさ」


 誰が見ても分かる強がりだった。痛々しい、とも感じる態度に、ふとハクナは彼に、ある出来事を話す。


『ソウ気負ウナ……義務バカリデハ持タヌゾ。ソレニ長生キモ存外、悪クナイ』

「ん? 何か良い事でも?」

『フフ……驚クナヨ? ……我ガ好敵手ノ子孫ニ会エタ』

「好敵手って……まさか『イノセント・エクス』の?」


 その名は、おとぎ話の中にしか今は残っていない。真の五英傑……オークの『無垢なる剣』の名だ。実在を知るのは、千年前の戦争を体験した者ぐらいだが……ハクナは彼に対する思い入れが強い。

 どちらかと言えば『ライバル意識』だが、その声色からして今も、憎からず思っている相手に違いない。同格の英雄である『黄昏の魔導士』にとっても懐かしい名だ。


「驚いた……てっきりエクス性のオークがいないから、ひっそり山奥で隠居して、そのまま死んだのかと……」

『我モ、アノ者ガ『歌姫様ノ奇跡』ヲ展開スルマデ、気付カナンダ。顔モ随分変ワッテイタカラナ……』

「待ってくれ、感覚リンクはかなり上等な輝金属でないと、触媒にすらできないけど……?」

『『青薔薇』ノレプリカヲ愛用シテイタ。波長ガ合ッタノヤモシレヌ』

「……まさかとは思うけど、それ『真龍素材武器』じゃないだろうね?」

『サァナ? ダガ案外……巡リ合ワセガアルヤモシレヌゾ?』

「ははは……まさか、ねぇ?」


 いつの間にか思い出話に変わり、談笑の空気に変わった。固い空気の続く会話に、二人とも疲れていたのだろう。


「その人物、なんて名前だい?」

『『スーディア・イクス』ト名乗ッテイル』

「あぁ……なるほど。やられた」

『ドウシタ?』

「僕の世界の言語だとね……同じ文字で『イー』と『エ』って発音する文字がある。アイツ……僕らにだけわかるような偽名を使ったんだね」


 しばしそうして、吸血種二人は談笑に耽った。

 その頃……一体の『憑依型ゴーレム』が、目覚めているとも知らずに。


用語解説 (超重要)


吸血種私兵隊


かつて事件を起こした、レリー・バキスタギスの吸血種私兵隊。彼らの本来の任務は『グラドーの森深部』に備える為だった。彼らがきっちりと鍛錬を続けていれば、今回の悲劇を防げたかもしれない。政治的な側面から、今回は代替えの部隊の配置が間に合わなかったようだ。


グラドーの森、深部の真実


 千年前、ユニゾティアと『欲深き者ども』の間で戦争があった。

 ミノルの異能力により、敵の肉体が滅んだ事は確認した。それでユニゾティア側は、すべてが終わったと誤認した。

 しかし『欲深き者ども』は『憑依型ゴーレム』に魂を移し生き延びていた。彼らは『グラドーの森深部』に逃げ延び、結界を張ってユニゾティア住人を弾き飛ばしている。

 ――まだ千年前の『欲深き者ども』は、滅びていない。グラドーの森深部で、ユニゾティアと敵対しているのだ。


 スーディア・イクスの真実


 彼は、存在が抹消された五英傑『イノセント・エクス』の血を引くオークである。消えた英傑は、仲間たちにだけ分かるような偽名で、子孫を残していた。

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