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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第五章 戦争編

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ホットラインの急報

前回のあらすじ


 緊迫した空気の晴嵐と亜竜種。けれど吸血種の武人は、両者に理解を示した。真に悪しきは『悪魔の遺産』であり、こんなものがあってはどうにもならない。彼の説得に応じ、両者は武器を無力化する。

 そして晴嵐は、倒れたオークに近寄る。馬鹿者め……と嘆く晴嵐だが、何の奇跡か生きていた。

 夜間遅くまで、聖歌公国軍は活動を続けるしかなくなった。

 獣道はあまりに暗く、見回りに出ていた者の捜索は難航。陣地内は『悪魔の遺産』で殺害された者と、ゴブリンの死体で溢れている。それに加えて『緑の国』からの夜襲を警戒せねばならない。さらに負傷者の手当てなどやることは山積みで、休む暇など誰にもなかった。


まずは無数に積みあがった死体についてだ。敵味方関わらず、そこら中に『悪魔の遺産』での死者で溢れかえっている。ゴブリンはともかく、兵士の亡骸は……本来であれば雑に扱うべきではない。

しかしすぐそこに……無数の負傷兵がいるとなれば、そうも言っていられない。死体はいずれ腐り、疫病や伝染病の温床になりかねない。やむを得ず聖歌公国軍は、すべての死体を陣地からやや離れた場所で、一まとめに焼却処理する事に決定した。

正規兵のみならず『不幸な横やり』で襲ってきた山賊、緑の国との交戦で捕らえた捕虜も巻き添えを食らって、何名も死んでいる。それらすべてを一まとめにして、共に処理するのは心苦しいが……そうも言っていられない。


「……すまなイ。戦士達ヨ……」


 また、新しく増えた負傷者に対しては、遺産の呪いにより治療が滞っていた。しかし一人の亜竜種が……『悪魔の遺産』を扱っていた元山賊が、おずおずと口にする。


「確カ……遺産の呪いハ、体の中に残った金属の塊を取りだせば大丈夫……」

「それ本当か? でももし呪いが有ったら……」

「……なラ、ポーションが使えないと死ぬような人デ、試すしかなイ」

「…………」


 実験台にするようで気乗りしないが……このまま見殺しにするぐらいなら、やってみる価値もある。助かる可能性があるのなら悪くない。

 また、意識を失った若いオークに、付きっ切りで構う一人の男がいた。


「まだ意識が戻らないのか……?」

「そのようだ。身体に負傷は見られないが、本当に『悪魔の遺産』にやられたのか?」

「服を見たじゃろ? あれは完全に……」

「確かに喰らった感じがしたが……ならなんで身体が無傷なんだ? まぁでも『悪魔の遺産』は、精神まで攻撃は出来ない筈……」

「……原因不明か」

「あぁ。ただ命はあるし、栄養を摂取させていればそのうち目を覚ますだろう」

「だといいがな……」


 そして各員が活動を続ける中、白い鱗の亜竜種の元に、一人の人物が恭しくこうべを垂れた。


「ハクナ様……重要な報告が有ります」

「何用カ?」

「本国より……首都ユウナギからホットラインでの連絡履歴ありました。火急の案件と思われますが……」

「報告ガ遅レタノハ、襲撃ノセイカ」

「はい。数時間前のようですが……こちらからお掛け直しては?」

「フム」


 吸血種ハクナは、周囲に目を配ってから専用のテントに歩み寄る。。ホットラインと呼ばれる緊急連絡用の道具は、国の要人や中枢の人間だけが保持する通信道具だ。直接遠隔から話し合う事が可能なソレは、動力の消耗も激しい。複数のカートリッジを装填して『ホットライン』を用意し、ハクナ・ヒュドラは『聖歌公国中枢部、現国王との会話』を始めた。


「済マヌクレナイ。極メテ危険ナ状況ニ居タ」

『そうでしたか……先にそちらから?』

「否。現在ハ打破シタ。問題ナイ。貴殿ノ要件ヲ聞コウ」


 現国王とハクナの仲は、親密とも言えず不仲でもない。淡々と交わす事務的な間柄だが、国王からの言葉には慎重さ……あるいは緊張感が含まれていた。


『ではお言葉に甘えて……先ほど『緑の国』からホットラインで連絡がありました。内容は『今回の戦争行為の、無条件での即時停戦を求める』と言う内容です』

「何……?」


 ハクナはいぶかしんだ。このタイミングで停戦を求める? ありえない。弱り目を叩くのは兵法の基本。夜が明ければ、向こうが徒党を組んで攻めてくる。これからどう迎え撃つべきか、将軍たちも唸っていた。ましてや向こうが宣戦してきた側だ。簡単に引っ込みがつく訳がない。

 唸るハクナに対して、国王はシンプルに、そして慎重に告げた。


『実は……緑の国陣営は『悪魔の遺産』で武装したゴブリン集団に、本陣を襲撃されたそうです。被害は甚大で、とても戦闘を続けられない。そして停戦しなければ、襲撃の犯人を聖歌公国側と断ずるとまで……不服でしょうが、どうか兵をお引き下さい』

「ナンダト!?」


 思わず声を荒げ、叫ぶハクナ。ホットライン越しに聞こえる相手は、やや勘違いしつつなだめるように言う。


『えぇ、屈辱的な言葉かと思いますが――』

「否デアル! 我ガ方モ同様ノ敵ニ、強襲ヲ受ケタノダ……!」


 今度は相手側が動揺した声を上げた。完全に予想外だったらしい。


『な……!? で、では、緑の国側とあなた方で同じ被害が……?』

「ウム……断ジテ良イ」

『……確かにそれでは、連絡の余裕など無いでしょう。向こうのあらぬ疑いも晴らせますが……しかしとなると、一体誰が? 誰が両軍に『悪魔の遺産で武装したゴブリン』をけしかけたのです?』


 ――てっきり『緑の国』の手で、今回の事件が起きたのでは? と疑っていた。

 が、向こう側も同じ敵に襲撃を受け、こちらを疑うなら白だろう。そもそもあれだけの数の『悪魔の遺産』の生産も運用も、国家ぐるみでさえ隠蔽は難しい。

 となれば――犯人は『奴ら』しかいない。


「……千年前ノ悪魔ドモメ」

『ハクナ様?』

「撤退ノ旨、了承シタ。緑ノ国トノ折衝せっしょうヲ頼ム」

『え? あぁ……お気をつけて』


 素直に聞き入れたハクナ様に、王は随分と気の抜けた返答を寄こした。説き伏せるのに難航すると、気を揉んでいたのだろう。

 ――かくして、緑の国、聖歌公国両軍は……突如として現れた『悪魔の遺産を装備したゴブリン』に打撃をこうむり、停戦及び撤退を余儀なくされる。

 その出所は……『表向き』不明とされたまま。


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