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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第五章 戦争編

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結果論と水掛け論

前回のあらすじ


『彼』が悪魔の遺産に倒れる。呆然と見届けるしかないハクナ。引き金を引いたのは女エルフの山賊だ。生存者がいないように見えた惨劇のテントで、死体に紛れて生き残っていた。『悪魔の遺産』を二つ持ち、片方をハクナに向けて脅し、もう一つは周辺に向けて威圧する。亜竜種の山賊が飛び出し、遺産に取り憑かれている、武器を捨ててと訴えるが、女は遺産を手放さない。緊迫した画面で、炸裂音が一つ響いた。

 その炸裂音を聞いた瞬間……女エルフと亜竜種は、一瞬だけ錯乱しかけた。自分たちは『悪魔の遺産』を使っていない。意図せぬ暴発か? と恐れたエルフの女が、注意を逸らした。あくまで脅して要求し、何か危険が迫った時に使いたいのであって……ハクナ様を殺す気も、闇雲に誰かを殺す気はない。思わずハクナ様へ向けた『悪魔の遺産』に振り向く女エルフ。元山賊の亜竜種は反射的に『悪魔の遺産』に掛けた指に、力が入っていた。


(武器さえ落とせば――!)


 先ほど自分で口にしたように……女エルフが脅威なのは、武器が強いだけだ。ならば武器さえ叩き落してしまえば、彼女を殺さずに確保できる。同じ山賊仲間なのもあり、亜竜種には躊躇があったのかもしれない。甘い判断ではあるが、彼にはそれを通せる技量が存在していた。

 瞬時に、正確に、亜竜種は『悪魔の遺産』の狙いをつける。照準は女がハクナ様に向けた『悪魔の遺産』だ。あの至近距離の狙いを外さなければ、確実にあの御人が殺される。側面を見せる金属に向けて、真っ直ぐに叩き込んだ。


「当たレ!」


 気合と共にトリガーを引けば、道具は亜竜種の意思を完璧に代弁した。視認不能の飛翔体が、女エルフの『悪魔の遺産』の片方を弾き飛ばす。


「っ!?」


 女エルフの山賊が振り向いた。怒りに燃える眼差しと『悪魔の遺産』を亜竜種に向ける。反動で跳ねた『悪魔の遺産』は、窮地に活性化する全身が、限界値に近い能力を山賊亜竜種に与えた。

 亜竜種の体幹は『悪魔の遺産』を用いるにも適していた。三つある接地面が、強い反動を抑制する。しかしそれでもやや遅いか? 鉄の塊を向け合う二人。どちらが先に引き金を引くか――そんな勝負に見えたが、彼らより早く動く人物がいた。


「シャァッ!!」

「あっ!?」


 ハクナ・ヒュドラは、女が『悪魔の遺産』を離し、注意を逸らした瞬間に動いていた。

 距離五メートルで脅されていた、吸血種の武人。手に武器こそないが、素手の格闘も勿論ハクナは一級品だ。影を這うトカゲより早く詰め寄り、勢いそのまま体当たりを食らわせ、天を向いた女の『悪魔の遺産』が空中に一発、炸裂音を吐き出す。そのまま吹っ飛び、もう片方の『悪魔の遺産』まで手放した。


「やっタ!!」


 両手にあった『悪魔の遺産』を弾いた。これで女エルフの山賊は使えない。もう大丈夫、殺さずに拘束できる――そう思っていた亜竜種山賊の背から、炸裂音が三つ響いた。


「エ……?」


『悪魔の遺産』の使用音。音源は最初、女エルフが動揺した方向から。使ったのはやたらと物騒な気配を放ち、テントから同行を続けていたあのヒューマンだった。

 緊張した彼の手にも『悪魔の遺産』がある。何故か左手に妙な紙切れがあるが、そんな事はどうでもいい。彼が使用した『悪魔の遺産』が、女エルフの身体に穴をあけていた。

 三つ空いた穴は、すべて胸部に命中。血の海に倒れたまま、女エルフは動かない。彼が殺した――その事実に頭がかっとなり、亜竜種の山賊は男に『悪魔の遺産』を向けていた。

 淡々と、男が亜竜種に声を掛ける。悪魔の遺産は向けずに。


「――何をしている。冗談でも向けるなと言ったじゃろ?」

「――何をしたんでス! 殺す事無かったでしょウ!? 『悪魔の遺産』は取り上げたじゃないですカ! どうしテ!?」


 深い情があった訳ではない。けれど、知った顔を無慈悲に殺せるほど、亜竜種の山賊は腐っていなかった。『悪魔の遺産』に取り憑かれていたけれど、取り上げさせすれば大丈夫だと思っていた。

 なのに……男がそれを台無しにした。怒りに満ちた瞳に、男も強い言葉で反論する。


「あの女が懐に、三つ目を持っていたらどうなる? 両手のを吹っ飛ばしても、三つ目を隠し持っていたら反撃される。最悪それで一人死ぬんじゃぞ? その前に殺すしかない」

「…………」

「むしろわしが聞きたい。なんでお前、一発で頭をブチ抜かなかった? 手のを弾けるなら眉間だって狙えたじゃろ」

「殺さずに済ませるつもりだったんですヨ! だったら調べロ! 三つ目を持っているかどうかヲ――!」


 息の途絶えた死体を睨んで、亜竜種は吠えた。もしそれで『悪魔の遺産』が懐に無いようなら……と憤怒に染まる思考に、またしても男は反論する。


「それは結果論だ。あの場面で三つ目を持っているかどうかは、誰にも判別がつかん。三つ目の『悪魔の遺産』を持っているかもしれないし、持っていないかもしれない。じゃがこの女は『悪魔の遺産』で脅迫に走った。力の味を占めた以上何をするかわからん。確実に安全を取るなら……られる前にるしかない。違うか?」

「何が言いたいんでス!?」

「本当に持っているかどうかは、関係ないと言っている。可能性が……危険性があるならやるしかなかったじゃろ。コレは……『悪魔の遺産』はそういう武器じゃと、お前さんもよく知っている筈だ」


 ぎろりと、淡々と、合理的に、冷徹に。男は自らの判断を下した。必要な行いだったと主張する。恐ろしさを知るが故に、なるほど筋は通るのだろう。

 けれど……けれど、やはり殺さずに済んだのではないだろうか? あのまま抑え込めたのではないだろうか? そんな気持ちも亜竜種の中にはある。輪から指は抜いているけれど『悪魔の遺産』までは下せない。じっとにらみ合う両者の間に、白鱗の亜竜種が嘆息を漏らした。

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