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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第一章 異世界編

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失われた憩いを

前回のあらすじ


 見回りをするテティの下に、スーディアが訪れる。周りに人がいないことを確かめ、二人だけの秘密の会話を始めた。終わり際にスーディアは『晴嵐もあなたと同じ境遇かもしれない』と伝える。テティは彼の言葉を胸にしまい、調理中の彼らの所に戻った。

 弱火に当てたスープは良く火が通り、食材の旨みと香りは周辺に満ちている。

 ベーコンと玉ねぎ、そして塩だけ簡素な調理でも、腹を空かせた者にとってはごちそうだ。お互いの活躍を称え語りつつ、ラングレーと晴嵐は、見回り中の二人を待った。

 様々な事柄を話し合ううちに、彼らは一つの疑問に突き当たる。


「しかし……どーやって大剣を切ったんじゃ?」

「実はオレにさっぱりでさ……相棒の、スーディアが剣を見つけた時も試したが、魔法は発動しなかったんだよ」

「何か、条件があるのかもしれん」


 洞窟から抜け出した際に見えた光は、やはり特別な何かが起きた瞬間だった。ところが二人のオーク達にも、その効果は初めて目にしたと言う。適当な推論をぶつけたが、ラングレーはまだまだ唸っていた。


「そっちはまぁ、多分そうなんだろう。肝心な条件はわかんねーけど。異常なのは出力の方だぜ。原理は想像つくが……」

「目星ついてるのか?」

「あー……素人の予測だけどな。性能はコレに近いと思う」


 ラングレーが懐から、火の出るナイフを取り出した。確かヒートナイフと呼ばれていた道具と記憶している。晴嵐が腕を組んで問う。


「あのレイピアも、火や熱に関する効果じゃと?」

「多分な……大剣の切れ目が『切れた』っつーより『焼き切れた』感じだった。あの……赤熱してるっつーか、半分溶けかけてるっつーか……」

「……若干じゃが、草が焦げておった。お主の予想は悪い線ではない。なんじゃが、いかんせん信じがたい。この目で結果を見ておってもな」

「同感だ。一体どうなっているのやら……」


 解けない謎は歯切れが悪く、オークの男は鍋を回して誤魔化す。彼らの基準でも異常な剣は、当然晴嵐にも正体は分からない。居心地の悪い沈黙が続くが、遠くから来る足音が空気を変えた。


「おーおー遅かったじゃないの?」

「メシは出来ておるぞ。座ると良い」


 見張りのテティとスーディアは、一言も話さずに距離を置いて座った。察したラングレーは天を仰ぎ、晴嵐は鼻息と共に器を用意する。


「ボスは倒せても、お姫様は口説けなかったみたいだな?」


 むすっとスーディアが顔を背け、晴嵐は意地悪くクックと笑う。不機嫌な彼と彼女に、優先して器を配った。

 二人とも無言のままだが、露骨な様子は演技くさい。ちらとテティの顔を伺うと、唇の端が震えている。何を話したのか知らないが、ラングレーの想像通りではなさそうだ。


「それぐらいにしとけ。そろそろ喰おう、ハラペコじゃ」

「おう。じゃ、いただきます」


 地球と同じ作法にぎょっとしたが、何食わぬ顔でスープを一口啜る。温かい液体が喉を通り、疲れた体の芯に滋養を届けていく。


「あ~……五臓六腑に染み渡るわい」

「大したモンいれてねぇのになぁ……今最高に生きてる気分!」

「そう? 結構薄味じゃないかしら」

「いや……少ししょっぱくないか?」

「涙拭けよ」

「…………ほっといてくれ」


 そっぽを向く動作も、やはりちょっと大げさに見える。ラングレーはつられているのかそれとも素なのか、人間二人に顔を合わせ肩を竦めた。

 気まずいような、微笑ましいような……焚き木を中心に温い空気が漂う。終末世界から失われた雰囲気に、しばし晴嵐はその身を委ねた。

 悪くない、と思う。隣人を信じるのではなく、疑い合い、裏切られるのが当たり前の世界からは、この光景は失われた景色だ。少なくとも晴嵐にとっては、ずいぶん昔の経験に思える。食事は栄養を取るだけの作業か、相手から情報を引き出すか……毒殺するかされるか、駆け引きの現場のどれかだった。

 気安い食事、気安い関係。シエラの事を散々に、内心批難していた晴嵐。けれど身を置いてみると居心地は良い。油断するなと囁く理性を無視して、具の少ないスープを味わった。

 四人で時間と、この空間を共有する。張りつめた神経がほぐれた頃、テティがオーク二人に質問した。


「二人とも……この後はどうするの?」


 問われた彼らの手が止まる。晴嵐は毛ほども気にしていないが、二人にとっては死活問題だ。剥げ頭を掻いて、ラングレーが解答する。


「そうさな……オレは聖歌公国の奥地に行くのが良いと思う。緑の国は、オレたちオークには風当たりが強い」

「緑の国は、エルフ中心の国家だものね……エルフか吸血種以外は、生きづらいって聞くわ。特にオークの扱いは酷いって」

「そう……なのか」

「オイオイスーディア。流石にそれぐらいは常識だろ……」


 呆れ顔のラングレーに、俯いたまま答えた。


「俺は、この場所で一生を終えたくないだけだ。外に行けるなら、どこでも」

「それでも、緑の国に行く選択肢はねーよ。テティの村抜けて、奥に入るのがベストだと思うが」

「いや……村を通るのはやめた方が良い」

「「「え?」」」


 三人に視線が、一斉に晴嵐に集中する。

 戻ってくる現実の感触。割り切れない現実が、彼らの往く手に立ちふさがっている。話しても良い情報をかいつまんで、オーク達の先に在る困難を、問題のない範疇で彼は明かした。

スーディアの剣について


 こちらの住人にさえ、原理不明の特殊な剣。ラングレーの観察によれば『高熱を発する剣』と推察が及んだが……やはり決定打はない。


緑の国


 エルフが中心の国家。特にオークには、生きづらい地域らしい。


聖歌公国


 ホラーソン村を含む公国。グラドーの森は、別の国との境目になっている。



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