表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末から来た男  作者: 北田 龍一
第五章 戦争編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

369/740

遺産に取り憑かれた者

前回のあらすじ


 スーディア……いや『彼』の活躍により、立体旗もなしに聖歌公国の者たちは連携。ゴブリン達を押し返し、誰かの作為によってゴブリンの肉体が爆ぜ飛ぶ。『彼』に気が付いた吸血種、ハクナと目を合わせたその時……『悪魔の遺産』の破裂音が『彼』を打ちのめした

 その破裂音が響いた瞬間、周辺の兵士たちの頭は真っ白になった。奇妙な感覚に包まれていた彼ら全員が、全く同じタイミングで、同じ症状に襲われたのだ。

 何かで繋がれていた感覚が、急に千切れた。完成した一つのネットワークの外に放り出され、急な心細さが襲ってくる。自分の頭でうまく物事を処理できない。並列演算で見えていた物事が、急に一人ひとり、個人の視点に、強制的に戻された。

 ぐらりと揺れる世界。その中で――最初からネットワークの外にいた、身なりの悪い女がへらへら笑った。


「動かないでハクナ様? コイツが何か分かってるでしょ?」


 現れたのはエルフの女。右手に握るは『悪魔の遺産』。血に塗れた身体で、粗雑な衣装で下種に笑う。先端から湯気を揺らす鉄の塊は、『彼』を攻撃した余韻を吐いていた。このエルフの女が――若いオークに向けて『悪魔の遺産』を使って……

 目線だけで殺せそうな程の殺気で、ハクナ・ヒュドラは女を睨む。


「貴様――」


 今にも瞬時に間合いを詰めそうだった。だが足元で火花が弾けたせいで動けない。エルフの女は、吸血種の殺気を浴びても態度を変えない。傲慢不遜に『悪魔の遺産』を、古参の戦士に突き付けた。


「下手な気は起こさないで下さいよ? うっかり殺しちゃうかもしれないんだから……周りの人たちもそうよ? 変な事をしたら……ハクナ様の命はない」

「クッ……」

「武器も捨てて下さる? あなたに釵を握られていたら、生きた心地がしないもの」


 いくら生粋の武人と言えど『悪魔の遺産』より早く、投擲物は投げれない。相打ち覚悟なら不可能ではないが、こうもきっちり狙われていては打つ手がない。しぶしぶハクナは『水鏡の釵』を地面に置き、蹴り飛ばすしかなかった。

 エルフの女は、懐から二つ目の『悪魔の遺産』を取り出す。右手をハクナに、左手を周辺に向けて威圧し、さも愉快そうに女は高く嗤った。


「うふふふふ……あのハクナ様でも『悪魔の遺産』は怖いのかしら?」

「……当然デアロウ」

「あらあら素直ね。私はいい気分だけど。うふふふふ」


 距離は五メートルほど。『悪魔の遺産』はこの距離ならまず外れない。倒れたオークの若者をちらりと見るが、彼は意識を失ったままだ。

 周辺の兵も異常を察し、女とハクナ様を包囲する。しかし――動けないハクナ様と女の態度で、状況を理解していた。


「ハクナ様は人質よ? 下手な事しないでね? うふふふ……」

「このアマ……っ!」

「山賊一人なんかに脅されて悔しい? 悔しいわよねぇ? でもあなた達は『悪魔の遺産』を前にしてちゃ、言う事聞くしかないわよねぇ? さーて、どんな事要求しちゃおうかなー……?」


 邪悪そのものを顔に浮かべて、嗤う女に歯噛みする。何名かの兵が取り囲む中、一人の亜竜種が前に出た。――その手に『悪魔の遺産』を携えて。


「『遺産』を捨てテ!」

「!」


 女は険しい顔で亜竜種を睨み、同じ道具を向け合う。片方をハクナに突き付け、もう片方は亜竜種に。やがて相手が誰かを認知すると、女エルフは若干……親し気な笑みを浮かべた。


「あら? あなた山賊団のウィリーじゃない。物騒なあの人と別れたの? それとも……おっ死んだのかしら」

「何デ……なんで生き残っているんでス? あの牢屋の中の人はみんな死んだんじャ……」

「死体の下に隠れてたのよ。誰かさんと話していた時の……細かい操作方法も全部聞いていたわ。おかげて使える。ありがとうねぇ?」

「…………『遺産』を捨てテ。あなたは悪魔に取り付かれているんダ」

「悪魔なんていないわよ。これは私がやりたいからやってるの」


 不機嫌をむき出しにして、女エルフの山賊は武器を構える。亜竜種も向けたまま動けず、緊張が走る。じっと合わせた視線に、互いに互いが理解できなかった。


「なんでよウィリー? あなたそんなお上品な人じゃ無かったでしょう? やっと力が手に入ったのよ? 今まで……今まで散々私たちを見下してきた奴に、復讐できるのよ? コレがあれば」

「カートリッジが切れたらどうするんでス? この力は『悪魔の遺産』の力ダ。ぼくヤ、あなたが強くなったわけじゃなイ。これの補給のあても無いのニ、その後はどうするんですカ!?」

「どうでもいいわよ、そんなの」


 見たくない現実を振り切るように、女が喚く。


「だったらあなた許せる訳? 私たちを見捨てたお頭とか、散々頭が悪いとか要領悪いとか、上から目線で馬鹿にしてきた奴らの事。上の立場だからって、好き放題やって来た奴らの事許せちゃう訳?

 私は絶対許さないから。やり返すだけじゃ満足できない。倍返しよ。ば・い・が・え・し! この力があれば、クソッタレな人生を逆転できる。私の望むまま、好きに生きてやるんだから! あなただって『悪魔の遺産』を持っているのだから、そうすればいいじゃない。ここで殺しあうのはお互い損でしょ?」

「その過程デ……君は何人殺す気なんダ!?」

「さぁ? 私が幸せになれるならどうでもいいわよ」


『悪魔の遺産』に取り憑かれたエルフの女に、亜竜種の言葉は届かない。互いに武器を向け合ったまま、脅されたハクナと、周囲の兵員は固唾を飲んで見守ることしか出来ない。

 互いに『悪魔の遺産』を向け合ったまま、硬直した盤面に――破裂音が一つ響いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ