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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第五章 戦争編

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『彼』と血の記憶と、奇跡の再現

前回のあらすじ


 突撃した大馬鹿者どもを尻目に、侍の男、イッシン・ホムラもその技を振るう。その最中で、妙に自分や周囲の勘が冴えている事に気が付いた。目線の先には、いつもと雰囲気の異なるスーディアがいる……

 懐かしい。と『彼』は思っていた。

 スーディアには……それが誰の思いなのか、いまいちよくわからない。けれど、自分の血が……遥か昔から連なる血筋が、その光景と空気を記憶していた。

 あの時もそうだった。遠い遠いあの日の『千剣の草原』もこうだった。

『悪魔の遺産』で武装した敵の群れ。恐れながら、理不尽に迫られながら、それでも立ち向かう勇敢な戦士達。違いはいくつかあるけれど、この光景もまた……幾度となく繰り返される風景の一つだった。

 けれど、そこに虚しさは覚えない。

 失われたモノもある。変われなかった人もいる。それでも――生きるために、守る為に、そして次へ進むために、今この場で全霊を尽くす人々の、なんと力強い事か。

 変化して消えていくモノもあれば、変化して進歩していくモノもある。遥か昔に重なる光景は、『彼』の知る物と同一ではない。


 あの時は同族オーク相手だったが、今の手勢はゴブリンに変化している。『黒幕』はかつてのように、創造した生命に反逆される事を恐れたのだろう。武器もかつての『悪魔の遺産』と比べれば、大きく性能が低下している。過剰な火力と知性を持たせない事で、反乱を事前に抑止したのだろう。

『黒幕』は変われなかった。

 千年の時間があっても『黒幕』は『黒幕』のままだった。

 この世界と対話し、向き合う事を拒絶したまま……今もあの森の奥で、良からぬ企みを続けている。彼らとユニゾティアは――決して、分かりあう事は出来ないのだろう。

 だから抵抗する。だから戦う。時間を掛ければ、本当に深く、じっくりと腰を据えれば対話は可能なのかもしれない。けれど犠牲者を生み、自らの我欲だけで生き続ける彼らを受け入れる余地はもう、失われてしまった。


「――……」


『彼』は、このめぐり合わせに感謝する。スーディア・イクスが所持する剣は『彼』が愛用していた剣と同一。

 真龍素材武器・『青薔薇ブルーローズ』は『彼』以外に反応を示さない。長年に渡り、使い込まれた輝金属は――使用者の波長を覚えて、当人以外に使用不能になる事がある。クローンに近い形で生殖するオークの特性が……今回は良い方面に働いた。

『彼』の思念を受けた剣が、淡い輝きと共に力を増幅する。

 そして『彼』が増幅した気力を用いて――『聖歌の歌姫』が作り上げた『疑似集合無意識かのじょのミーム』へ周囲の人間ごと接続する。

 かつて無垢だった『彼』は、意識さえ空白に近い存在だった。

 意識が空白に近いが故に――『集合無意識を、意識的にコントロールする』という矛盾を可能にした。罪と祝福を、歌と共に散布した『聖歌の歌姫』より、その権能のランクは三つほど下がる。

 しかし――常人からしてみれば、大変な奇跡の行使に他ならなかった。


 対象は『戦闘行為中の、聖歌公国に味方する者、属する者』

 効果は『対象全員の意識と精神を、疑似的にリンクさせる』

 ソレは今までも、微弱にだが発動していた。

 例えば、侍の切り込むタイミングに合わせて、終末から来た男が火線をそらしたり。

 逆に彼が狙われた所で、突撃した亜竜種の戦士がカバーに入ったり。

 立体旗ホロフラグでの連携とは違う。精神を強引に高揚させるのでもなく、互いに言葉を交わしているのでもない。互いの情報、互いの意思、互いの感情を淡くだが『共有』する。生命が、精神の奥底で繋がっている……目には見えない集合無意識パスを通して。

 それを『彼』の魔法は……いや『彼』の剣と『聖歌の歌姫』の名残りが反応し、彼女の奇跡を、ごく小規模で発動していった。

 ――ムンクスが限定的に再現した権能……『ユニゾン・ゴーレム』と同じ情報と感覚リンクを。


 人の体は、別々の器官で構成されているが――

 そのすべての細胞と器官、あるいは部品がかみ合って……一つの巨体、一つの生命として共同生活を送っている。

 今戦場にいる彼らは、まさしくソレだった。

 別々の生命、別々の人物が、まるで巨大な一つの生命のように連動する。全く別々のはずの集団が、種族も生まれも、年齢さえ超えて『他者の感覚を共有』していた。


 臆病な亜竜種の『悪魔の遺産』が吠えると、ゴブリンの頭が弾け飛び、再装填に入る。

 その隙を狙うゴブリンの腕に、盾の腕甲の応用技が着弾し腕をへし折った。

『空打』を放ち盾を失った仲間の前に、トンファー使いの亜竜種が『鎧の腕甲』を重ねて、強度を上げた障壁を張り二発防ぐ。

 三発目を受け止めるとひび割れ、危険を察した別の『盾の腕甲』を持つ兵が、破壊される前にカバーに入った。

 彼らに攻撃を続けるゴブリンの一団に、侍が詰め寄り一閃。まとめて首を撥ね飛ばし――その背中にいた一匹に、防衛部隊が放った弓矢が殺到し命を奪った。


 あまりに――それはあまりに一方的な光景だった。先ほどまで『悪魔の遺産』を恐れていた兵たちの、突然の猛攻。ゴブリン達も『勝てない』と察したのか、仲間内で喚き始めたその時。

 ――彼らの胸の中心が、急にボコボコと音を立てて歪み始めた。


「ギャッ!? ギャァァアッ!!??」


 まるで、使えない道具を処分するかのように。

 まるで、何かを覆い隠そうとするかのように。

 次々とゴブリン達の体が膨れ上がり、本人の意思に関係なく膨張する。

 体を内側から無理やり広げられ、限界を迎えた紫色の小人たちが……空気を入れすぎた風船のように爆ぜた。

『黒幕』が……成果を上げられなければ、処分できるように仕込んでいたのだろう。


 戦闘の余韻に、じっとたたずむ『彼』は……古い戦友が近寄る気配を感じていた。最後に顔だけ見てから、完全に意識を返すつもりでいた。今日を最後に『彼』の意思は、深い眠りにつくだろう。

 だがそれでいい。自分はとうに死んでいる。この体は複製を繰り返しているけれど、その意思と行動は本来……当代の『スーディア・イクス』に委ねるべきだ。今回は『黒幕』の理不尽から、この世界の優れた戦士を失わせる訳にはいかない。ある種の特例措置に過ぎない。近づいてくる、懐かしい足音に……『彼』は顔をゆっくりと向ける。


「君ハ……ソウカ。君ハエクスノ――」


 白い鱗、赤い瞳の亜竜種が『彼』を見て瞳孔を見開く。

 何か伝えようとしたその時、一発の銃弾が『彼』を貫いていた。

用語解説――はお休み


 ただし、今回の現象や表現された事柄は、本作の核心に限りなく近い。本当に『彼』がズルした回ですから、忘れてもいいし覚えていても……好きに楽しんでくださいな。

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