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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第五章 戦争編

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戦士の意地

前回のあらすじ


『悪魔の遺産』で援護を続ける、晴嵐と亜竜種山賊。だが途中から亜竜種が調子に乗り始めてしまった。やや強めの言葉でくぎを刺すと、亜竜種山賊の顔が青ざめる。

 気が大きくなり、妙な万能感と高揚感に押され、冷静さを失っていた……その精神状態を『悪魔に取り憑かれる』と感じ、震える二人。今は必要な力でも、そのうち冷静さを失うに決まっている。状況が落ち着いたら、こんなものは捨てると二人は決めた。

『右翼側が持ちません! もう一ライン前線を下げます!』

「中央も負傷兵多数! くそ、亜竜種の戦士でも歯が立たないのかよ!?」

『射程と精度が違いすぎるのでス! 奇襲を決めない限リ、一方的に潰されてしまいまス!!』


 聖歌公国、第二防衛線――報告の中で、スーディア・イクスは唇を噛んだ。

 奇襲攻撃の部隊に編入を希望したが、上側にそれを却下。理由は彼が『盾の腕甲』の制御能力に長けている……この一点が目に留まり、防衛陣地側に配置されたのだ。


(戦士たちは……血を流しているというのに……!)


 戦争直前で起きた『武人祭』を思い出す。スーディアも参加した闘争の祭典で、亜竜種たちの実力は身に染みていた。亜竜自治区で生活していれば、彼らの精神性や練度の高さは、自然と肌で感じ取れる。

 スーディアは知っている。亜竜種の戦士たちは、並々ならぬ鍛錬を重ねて来た事を。ただ身体的に優れているだけではない。日々の研鑽けんさんと努力が、兵全体の質を高めていた事を。

 間違っても――ゴブリンに後れを取ることなど、逆立ちしてもあり得ない。体格も、知性も、その他諸々、あらゆる面でゴブリンが亜竜種に勝っている点などない。なのにどうして……と、理不尽に感じずにはいられなかった。


「くそっ……せめて――」


『盾の腕甲』を形成し、遠隔攻撃として射出する技――『空打』を構えてしまうスーディア。本当はこれをブチ込んでやりたいが、この技の難点が今の場面では致命的になる。発動後、防壁を弾丸として射出する性質上、使った後少しの間、盾として使用できなくなる欠点があった。

 防衛役として配置されているのに、守りを捨てては意味がない――……

 この役割が必要な事も、頭では分かっている。敵への攻撃は後衛の弓兵や投げ槍の部隊、そして潜伏し、奇襲で敵を削る部隊に任せるべきだ。自分たち前衛がいてこそ、彼らも役割に専念できる。なんとか堪えるスーディアだが、数名の亜竜種が飛び出してしまった。


「!? オイ! 何をして――!」

「見てられっかヨ! 亜竜種の戦を見せてやル!!」

「気持ちは分かるが落ち着け馬鹿者! 無駄死にする気か!?」

「このまま見ていられるかッ!!」


 血気盛んな若い衆だろうか?『盾の腕甲』をグローブ代わりにして戦う、ボクシング・スタイルの戦士が防護柵の外へ駆けた。最初の一人に続いて、我慢の出来ない、誇りを持つ者たちが続く。勝手な行動に走る部下たちに司令官は大喝した!


「命令を無視するんじゃない! 後でどうなるか分かっているのだろうな!?」


 指示を聞かぬ兵は使い物にならない。誰もがそれをわかっている。故に軍規の無視は重罰を科される事が多い。脅迫に近い恫喝を受けても……むしろ兵士は胸を張り、堂々と声を張り上げた。


「我々は臆病なトカゲではないッ! 勇敢な戦士ヲ……尻尾を切って逃げる事モ、尻尾を巻いて逃げる事も良しとしなイ! ならばここで意地を見せるッ!!」

「誇りに殉じるのも良いが、時と場合を考えろ大馬鹿野郎!!」


 闘争に敬意を持つ、亜竜種の思想と文化……彼らにとって『ゴブリン相手に』『防衛陣地で引きこもり』『他の部隊による事態解決を待つ』今の状況は……鍛錬を積んでいればいるほど、高潔な戦士であればあるほど、我慢がならない。それが過ちと薄々感づいていても、一部の兵士は止まれなかった。

 何名かが無謀な突撃を始めた次の瞬間――乾いた炸裂音が殺到した。防護柵にも着弾し、一部の兵が悲鳴を上げる。されど、悲鳴を上げる余裕があるだけ幸運と言えた。

 何名か被弾し、飛び出した馬鹿者が怯んだ。だが――攻撃を受けたに違いない者の一部は、全く怯まずに敵へ向けて突貫していく。


「防げた!? どうなって――」

「ウオオォオォッ!!」

「なんダ……『悪魔の遺産』モ、恐れるに足らずではないカ!」

「よぅシ! 我らもかの勇者に続――」

「続くなバカタレ! ここを守らねば誰が後衛を守るのだ!? 誰が負傷兵や非戦闘員を守るのだ!? スタンドプレーもいい加減に――ああ馬鹿! これ以上の身勝手な突撃は厳罰に処すぞ!?」


 必死に上官が停止命令を出す中、止まれない大馬鹿どもが防御陣地から討って出る。その一団の中には、亜竜種以外の面々もいた。――青く美しい刀身のレイピアを持つ、オークの若者の姿もある。


(――彼らを死なせちゃいけない!!)


 他の者たちが功を焦ったり、民族として、戦士としての誇り故に突撃をかけたのに対し、スーディアの精神は『幾分か』冷静だった。

 戦線に出た、勇敢な戦士たち。その犠牲を少しでも減らすために、彼らを守る為に、スーディアも彼らの脇を固めるために。

 ――敵の攻撃を弾けた構えを、スーディアは一瞬だが観察していた。

 彼が習ったボクシング・スタイルの亜竜種たち。いつでも『空打』を放てる体勢で、盾の腕甲を両腕に展開していた者が、敵の凶弾を弾き返していた。

 偶然だったのだろうが……恐らく『弾丸として射出前』の状態、つまり『盾の腕甲』の防壁を圧縮中、防壁の密度を上げていれば防げる。体を守る範囲は狭くなるし、展開中に集中する必要がある。簡易的に発動する魔導式でも防ぐことは難しいだろうが……スーディアの盾の腕甲は、使用者の思念を反映しやすい魔術式だ。


(後は――敵の呼吸と殺意を読む!)


 攻撃までの動作が短いが、飛んでくる前に『悪魔の遺産』の方向へ『盾の腕甲』を展開していれば防げる。

――呼吸を読んで、避けるしかなった時期に比べればマシだ。

 まるで経験者のような感想を浮かべ――スーディアの手元に衝撃が来る。

 厚く展開した『盾の腕甲』が、敵の弾丸を防ぐ。

 ――静かに息を吐いた若いオークは、少しでも戦士を死なせないために、全力を尽くした。

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