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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第五章 戦争編

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各隊苦戦

前回のあらすじ


テント内で隠れろと言う晴嵐と、こんな場所にいたくない亜竜種。背を預けるのに不安要素が多く、いっそ殺してしまおうかとも頭をよぎる。悪魔のような選択肢を振り払い、銃の……『悪魔の遺産』の操作方法を伝え、二人は武器を手にテントを出た。

 去り際、死体の山が動いたことには気が付かないまま

 野営陣地内部に、敵の侵入を許した聖歌公国軍。だが敵の武装と種類を、判別することはできた。時間も短いとはいえ、防衛線を敷くこともギリギリ間に合った。なのでなんとか、戦闘には持ち込めた。奇襲で一息に潰される事は避けれた。なれど……炸裂音鳴り響く戦場は、まさしく地獄の窯の如く、戦場の音で煮えたぎっている。


「旗持は移動の際、細心の注意を払え! 奴ら優先して狙ってくるぞ!」

「は、はっ!」

『第一防衛線、右翼側から撤退報告がありました! 再編成をお願いします!』

『中央は敵攻勢が激化! 弓兵部隊だけでは手が足りん! オイ亜竜種! 投げ槍を使える奴! なんでもいいから敵にブン投げてくれ! 好き勝手やらせるな!』

「『トルピード』の使用経験がある者! 弓兵の射かける位置に攻撃できるか!?」

「やってます! ただ、敵に打撃があるか……手ごたえがないんですよ!!」


 時間は夜。魔法の旗やかがり火こそあれ、視界はかなり悪い。敵から身を隠すために遮蔽物も配置した以上、相手の状況が確認しにくいのだ。じれったくなった武官が、上空に声を張り上げる。闇夜を飛ぶ空戦部隊に向けて、何とかならんかと叫んだ。


「敵の上空に張り付けないのか!? それが空戦部隊の本懐だろう!?」

「無茶を言わないでくださイ!『悪魔の遺産』は対空性能もあるのでス! 無理して五名が撃ち落されましタ!! 接近は不可能でス!!」

「ちきしょうが……!」


 相手が近接武器や、輝金属の魔法、弓兵などがいたとしても……空対地で戦闘になれば、上空側が圧倒的優位に立てる。視界の通しやすさや、注意すべき方向が断然異なる。また上方向への攻撃に地上側が難儀するのに対し、上空からは打ち下ろすだけで済む。

 その条理さえ……『悪魔の遺産』は覆してしまう。現に水平方向からの攻撃でも、その射程距離と威力に悲鳴を上げているのだ。破壊力は空中でも健在だろう。むしろ遮蔽物がない分、地上から仕掛けるより危険まである。


「奇襲部隊は!?」

『帰還報告が非常に少ないです……察してください』

『…………無謀だったか?』

『誰かが矢面に立たねぇとじり貧だろ! それにゼロじゃないんだろ!? なら敵兵力は削れている! 諦めんじゃねぇ! ここで引いたら、負傷兵まで見殺しになっちまうぞ!!』


 旗持の一人が叫ぶと、兵士たちに活力が吹き込まれた気がした。

 ユニゾティアではポーションのおかげで、傷の治療は早い。が、負傷度合いによっては、完治までに時間がかかる。中には安静にすべき者も、当然いる。ここで軍が敗走すれば、動けない彼らは死ぬしかない。

 既に、捕虜や山賊がいたテントを放棄した聖歌公国軍だが――それは守るべき身内ではなかったからだ。過剰に攻撃や虐待する気はないが、自分たちの命を使ってまで、守る相手でもない。

 だが……今彼らの背中にいるのは、共に戦地で戦い、名誉の負傷を負った者たちだ。倫理的にも心情的にも、簡単に切り捨てる事は出来ない。空から情勢を見る空戦部隊が合図すると、遠距離攻撃をになう者が方向を変更した。


「――イッシンが仕掛けまス!」

「あの侍の御人か……」


 下げた戦線の途中、もぬけの殻に見せかけたテント内に……潜伏する部隊がいくつかある。ほとんど決死隊の彼らだが、かといって誤射の危険は避けたい。空戦部隊が上空から、奇襲部隊の合図を確認したら、一時的に攻撃を避けつつ強襲を狙っている。

 ――相手に指揮官がいれば察知されそうだが……ゴブリンにそれだけの知能はない。現に一部の隊は、敵勢力に損害を与えている。そのうちの一つ、傭兵上がりの侍の男、イッシン・ホムラは静かに闘志を燃やしていた。今までは気迫と共に一閃を繰り出していたが、今は鋭く呼吸するに留めている。


「ひゅっ!」


 和服姿に峰の青い太刀。一目で彼だと分かる装具で、テントの陰に忍んでいる。傭兵隊として参戦していた彼は、危険な敵陣営に飛び込むのを志願していた。


それがしは守勢で生かせる気質ではない。むしろ死地こそ花よ。『悪魔の遺産』は……どうあがいても、死ぬしかないときは、死ぬ。ならばせめて果敢に挑ませてもらおう」


 常に死中に活を求める姿勢は、彼の気質か侍のごうか。無謀に見えたその戦場で、侍は刀を用いて一撃離脱を繰り返す。

 刀は決して小型の武器ではない。にもかかわらずイッシンは敵に発見されずに、切り捨てては物陰に隠れ、ゴブリンの首を撥ねている。魔法めいた御業みわざだが、彼は少しだけ自らの技巧の用途を変えただけだ。


「侍の神髄は、静と動の瞬時の使い分けである」


 一瞬で最高速で踏み込み、切り捨て。

 一瞬でぴたりと刀を止め、その場に留まる。

 それを立ち回りに応用しただけの事。違いは加速の時間が伸び、物陰まで駆け抜けてから停止へと変更。つまり、全体的に動作が間延びしている。

 ただ――その分、イッシンへの負担は累乗していた。

 元々『一瞬』で済ませるから、体への負荷は許容範囲で済んだが。

 それが『数動作』となると、肉体への負荷は倍以上。

 即死の危険のある『悪魔の遺産』を相手にする緊張もあれば、目に見える以上に彼の立ち回りは危うい。


「さて……とおほど切り捨てたが……」


 物陰で呼吸するイッシン。次のゴブリンにどう切りかかろうかと考えていると、本陣から何かが投げ込まれる。何かが着弾すると、ゴブリンの一団が煙に包まれた。やかましい喚き声で鳴き、混乱を伝える。

 ――この間に、一息つく事が出来そうだ。一度刀を下ろし、わずかに体を休めようとしたその時……

煙は突如として、一つの火球へと転ずる。

 轟音と共にゴブリンが黒焦げとなり、イッシンは……いや、ほとんどの物はあっけに取られていた。


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