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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第五章 戦争編

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悪魔の誘惑

前回のあらすじ


惨状の中、生き残った亜竜種山賊に話を聞く晴嵐。遺産の呪いについて、そしてこのテント内で何が起きたかを聞く晴嵐。気弱そうな亜竜種は、戦力として使えるが微妙だ。ここで待っていろと言ったが、亜竜種は同行すると返した。


 前線で耐える聖歌公国本隊と、交戦中の『悪魔の遺産』で武装したゴブリン達。その背後や側面から奴らの背中を銃撃する。それが晴嵐の狙いだった。

 人手を欲し、まだ抵抗する人間の気配のあるテントに来てみれば、いたのは臆病な元山賊の亜竜種。窮地こそ抜けたが、気弱な性分は抜けていない。信用できるかも怪しく、晴嵐は置いていくつもりだった。

 が、彼の予想に反して、亜竜種は同行を申し出て来た。


「コ、これが有ればぼくだって戦えまス。使い方も一応は分かりますシ……」

「お前……忌避感ないのか?」

「そんな事言ってられませんヨ! 向こうは遠慮なんてしてきませン!!」

「……まぁな」


 この山賊は……あまり良い性根ではないが、故に実直な評価を『悪魔の遺産』に対して下していた。

 いくら自分たちが恐怖し、忌避していようが……相手は遠慮なしに『悪魔の遺産』をブッ放してくる。凶悪な脅威に対抗するには、同じ武器を使うしかない。全く同じ判断を下した晴嵐は、反論を失ってしまった。

 ……苦し紛れに、別の選択肢を提示してみる。


「今ならここから逃げられるぞ。こんだけ死んでいるなら、一人ぐらい逃げてもわからん」

「ぼくはバレると思いまス。尋問見てたしわかるでしょウ?」


『狂化』の事情聴取の際……この亜竜種は従順で情報を取りやすい人物だった。確かに注目を受けていた気もする。他の山賊ならともかく、亜竜種の脱走はバレる危険は高い。

だが戦う危険を冒す理由がわからない。戸惑う晴嵐に対して、亜竜種は震えながら「それニ……」と周辺に目を配らせて続けた。


「この惨状ヲ、ぼくがやったって思われたくないでス……」

「いや誰が見てもゴブリンが犯人じゃろ……」

「でモ……信じてくれないかもしれなイ。聖歌公国の人たちかラ……信用がない事ぐらイ、わかりまス」


 自虐気味の言葉に、男は何も言い返せなかった。すべての道理が通っているかは怪しいが、心情や考え方の筋としては、わからなくもない。

『お前を信用しきっていない……』という態度は、相手に対して隠しきれるものではない。直接言われずとも目線や言葉、体から発する空気の冷たさで察せてしまう。


「だかラ……逃げずに協力すれバ、許されるかもっテ……ワンチャン恩赦もあるかなっテ、そう思ったんでス」

「…………なるほど。よくわかったよ」


 この時――晴嵐の心の中に浮かんだ悪魔のような選択肢は、亜竜種の男に想像もできないだろう。一瞬ハンドガンに籠った力を、ゆっくりと抜いて拒む。

 彼は今……『目の前にいる亜竜種を撃ち殺してしまえ』と言う選択肢を振り払った。

 この死体の山の中に、山賊の死体が一人分増えた所で分かりはしない。何より目の前にいる、性根の弱いこの亜竜種に、銃を持たせておくのが不安で仕方ないのだ。

 何かの拍子に、コイツは晴嵐に銃を向けるかもしれない。不意打ち一発、先制一発で相手を殺傷できる武器を、である。そんな不安要素を抱えたまま、戦闘行動に移る自信はない。一度交戦状態に入ったら、恨みっこ無しで背中を預けるしかなくなる。その前に――あらかじめ排除してしまった方が、自分は安全ではないか? そんな誘惑だ。


「あノ……?」


 固まった晴嵐に、無防備な目線を向ける山賊。信じることも勇気。腹をくくれと己を鼓舞し、亜竜種を連れていくと決める。ちらりと相手の『悪魔の遺産』に目を向け、晴嵐は尋ねた。


「……正しい使い方は分かるか?」

「えッ……? えぇト、敵に向けてココを引けば倒せル。使えなくなったら別のに入れ替えル……ですよネ?」

「とりあえず使うならそれでいい。ただ、注意点せねばならん事も多い。こいつは……ほんの些細な事故で、人を殺せてしまうからな」


 恐ろしさは重々承知。何度もコクコクと頷く亜竜種に、大事な注意点を伝えた。


「まず……こいつは攻撃したくない相手には絶対に向けるな。悪ふざけでも、絶対に危険だ。向けられた側は……いつ相手に殺されるか気が気じゃない。反撃されても文句は言えない」

「……そういえばあなたモ、ぼくに向けてませんでしたネ」

「……あぁ」


 心の中では向けていたがな……とは言えず、少し気まずい。止まった意味を悟られる前に続けた。


「それに……何かの拍子に暴発するかもしれん。ともかく、攻撃したくない相手、すべきではない相手には向けるな」

「ハイ」

「もう一つ……引き金の握り方だ。ココ。輪の中に指を入れていいのは、攻撃の直前、緊迫した場面に限定しろ。それまでは指を伸ばして、中には入れないようにしておけ」


 自分の銃器を見せて、人差し指を伸ばした状態を見せる。首をかしげる亜竜種に説明した。


「指入れたままだと……例えば体当たりか何か食らったとき、そのままうっかり金具に力が入ったら……」

「ア……攻撃しちゃうんですネ」

「そうだ。で、向いていた先が天井や地面ならいい。じゃが味方や自分の体だったら……」

「ひぇェ……」

「それを避けるために、必要以上に指をかけるのは避けるべきじゃ。分かったな?」


 コクリと従順に首肯し、改めて『悪魔の遺産』を見つめて生唾を飲む。その恐ろしさと性能を体験している者に……すでに半分、偏見から抜け出している者に『銃』の本質を男は告げる。


「こいつは……使う者に関係なく、手軽に簡単に人を殺せる力を与える。ゴブリンが握ろうが、お前さんが握ろうが、わしが使おうが殺傷力は変わらない。だが……簡単だからと言って、甘い気持ちで使おうとするな。コイツは一つ誤るだけで、致命的な事になる」

「そウ……ですネ……」


 沈痛な面持ちは、この武器の恐怖を知ったからか真摯に見えた。これなら大丈夫そうか……とひとまずは信用し、亜竜種に手を貸し立たせる。


「まずは、奴らからマガジンを……コイツ用のカートリッジをいくつか取る。その後は背後から、調子に乗ったゴブリン共をブチ殺すぞ」

「……ハイ!」


 まだ抜け切らない恐怖の中、それでも立ち向かおうとする意志を宿し、亜竜種が立ち上がる。

 二人がテントから出た時――山賊の死体の山が、わずかに動いた気がした。

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