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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第五章 戦争編

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遺産の呪い

前回のあらすじ


野営陣地内に戻った晴嵐は、ゴブリンに紛れて銃を使い、敵を排除していく。その中で、一つのテントから戦闘の気配を感じた。背後から急襲し、惨状と化した場所に声を掛けると、聞き覚えのある臆病な亜竜種の声がした。

「……わしが誰か分かるか? 間違ってソレをこっちに向けるなよ」


 返事はないが、呼吸音は静まりつつある。すぐに状態を確かめたいが、何かの間違いで撃たれてはたまらない。周りからゴブリンが顔を出すかもしれない。一応は警戒しつつ、元山賊が落ち着くのを待った。

 飛び出しはしない。銃も一応下げておく。慎重にゆっくりと体を出した晴嵐は、その惨状に顔をしかめた。


「こりゃ酷い。よく生きていたな……」


 牢屋の中身は、さながら血液風呂ブラット・バスと化していた。詰め込まれた山賊の死体に、無数の弾痕が見受けられる。隣の「緑の国の捕虜」も酷かったが、こちらの凄惨さはそれを上回る。

 その最奥で……血まみれのぼろ布を体にかけ、生き残りは銃を下げていた。というより、背を向けて嘔吐の真っ最中だった。

……無理もない。生存のために必死に銃を手に取り、亜竜種は何とか生き延びはした。全霊を賭した行動の最中は、脳内麻薬のアドレナリンが噴出している。興奮と銃声で押しのけていたが、助かった瞬間に気が抜けたのだろう。惨状を正しく認識してしまい、今更ながら恐怖と臓物の臭気にやられたのだ。


「……入るぞ」


 牢屋は開かれている。ゴブリンが開けたのか? 拳銃は握ったまま、ゆっくりと亜竜種に近づく晴嵐。顔から血の気が完全に抜けた亜竜種は、何とか呼吸を整えて晴嵐と顔を合わせる。


「助けに来てくれたんですカ……?」

「……人手が欲しかったのものでな」

「あノ……何があったのでしょウ? 牢屋にいたかラ、全然わからなくテ……」


 晴嵐は分かる範囲で、現状を亜竜種に教えた。悪魔の遺産を持った、ゴブリン集団の夜襲を受けている事。多くの見張りは殺され、陣地内部にまで侵入を許している事を。

 元々ひどい面だったのに、ますます顔色を悪くする亜竜種。土気色に近い顔に変わる彼に、晴嵐は質問を返した。


「酷な事を承知で聞くぞ。ここで何があった?」

「…………虐殺、でス」


 そんなことは分かっている……とは言えない。時間を使いたくないが、下手にゴネても危険だ。頭を抱え、鮮烈な記憶を口から吐き出す。


「あいつラ……遺産を持ったゴブリンがテントに入ってきテ、牢屋にいる人たちヲ……ボ、ぼくは怖くテ、これを被って部屋の隅で震えてテ……見てることしか出来ませんでしタ」

「………………」

「軽蔑しないんですカ?」

「馬鹿を言うな。多分、お前さんの行動が最善解じゃろう。他に何もできることはない。それでも流れ弾を……とばっちりを貰う危険もあったが、食らわなかったのか?」

「腕になんカ、傷が出来ていましたガ……」

「掠めただけか。運がいい。これならポーションで治せるじゃろう」

「ダメですヨ。遺産の呪いのせいデ……」

「あん?」


 相手が牢屋越しに銃撃してくる状況で、丸腰ではどうにもならぬ。姿勢を低くしてじっとしているのは、考えうる最適解だろう。ただ、狭い空間では跳弾や流れ弾も多い。腕にかすり傷だけなら幸運と言える。

 しかし遺産の呪いとは何なのだ? まるで『ポーションが使えない』と主張しているが……そんな効果は『銃』に存在しない。そのはずだが、誤解があっても困るので聞いておく。


「その呪いってのは何なんじゃ?」

「遺産で出来た傷にポーションを使うト……体の中から毒が回って死ぬんですヨ」

「……なんだそりゃ? かすり傷でもダメなのか?」

「詳しくは知らないですヨ! でモ、そう言う事があるっテ……ア! でも大丈夫な時もあるって聞いたようナ、そうでもないようナ……」


 証言が曖昧で困るが……何とか晴嵐は考える。銃と毒。あり得る症状としては――


「鉛中毒、か?」

「ナマ……何?」

「……ちょうどいい、少し死体を弄るぞ。きついなら下がっていろ」

「うえェ……」


 晴嵐も、本当はあまりやりたくないが……説明のためには仕方ない。弾痕があり、なおかつ貫通されていない死体を探し、そこから『潰れた鉛の塊』を穿り出す。血と油でべっとりなそれを、軽く顔をしかめて晴嵐は摘まみ上げた。


「……こいつが呪いの正体だよ。『悪魔の遺産』の攻撃で、体の中にコイツが埋め込まれているのが原因だ。体から摘出した後なら、ポーションを使っても大丈夫じゃろう。そうだな。例えば弓矢の矢じりだって、取り出してからポーションを使うんじゃないか? ……オイ、聞いてるか?」

「ウ……ゴメンナサイ。血の臭いガ……」


 生々しい内臓の臭いは、人によっては本当にダメだ。悪い事をしたと反省した晴嵐は、状況説明の続きを促す。震える声で、亜竜種は証言を再開した。


「それで血だらけになったのニ……あのゴブリン、牢屋を開けて入って来たんでス。そしテ……倒れている人に向けて攻撃ヲ……」

「とどめを刺しに来たのか? 相手は無抵抗だし、必要ないだろうに……」

「……あいつラ、嗤ってましタ。……ぼくらみたいニ」

「あん?」

「そノ……ぼくらって弱いじゃないですカ。だかラ、強い奴とか高貴な奴みるト……そいつらが無抵抗で好き放題出来るってなったラ、いじめたくなる時ってありませン?」

「………………」

「多分あのゴブリンらモ……おんなじなんでス。自分たちは弱イ。けれど今は『悪魔の遺産』があるかラ、弱い自分らが強い奴らを好き放題出来ル。それを愉しんでいたんでス……多分ですけド」


 吐き気がした。血の匂いではなく、そのドブじみた精神性の方に。男の表情に気づかないまま、亜竜種はちらりと視線を脇にそらした。


「それデ……布を被ってたぼくを見つけたコイツハ、『悪魔の遺産』をちらつかせてぼくをからかって来ましタ。けど凄く近い距離デ、完全に油断していテ……遺産さえ奪ってしまえば何とかなると思っテ……隙を見て組み付いテ、そしテ」


 目線の先には頭の弾けたゴブリンの死体が。こいつが牢屋にいる者をなぶり殺しにして、舐め腐って臆病な亜竜種に近づいて……そして銃を奪われて死んだ。

 経緯はだいたい分かったが、まだ二つほど疑問点がある。


「武器の使い方は分かったのか?」

「何となくですけド……布被ったまま見ていたのデ」

「もう一つ。なんで攻撃されていた? ゴブリン共はコイツの使用音に鈍い。『悪魔の遺産』を奪ってブチ殺した後は、静かにしていればやり過ごせたんじゃないか?」

「ゴブリン殺した時……肉片が顔にかかっテ、叫んじゃいましタ」

「詰めを誤ったか。無理もないがな」


 疲れ切った亜竜種は、ようやく一息ついた。いつまでも緊張の糸を張ったままに出来ない。まだ早いとは思うが……この亜竜種は荒事に向いていなさそうだ。

 ……少し残念に思いながらも、晴嵐は告げる。


「これからわしは、背中からゴブリンを攻撃する。お主はここで隠れてろ」

「えッ!? イ、嫌ですヨ!?」

「なんでじゃ? わしに同行すれば、ゴブリンとドンパチやりあう事になる。下手しなくても死ぬぞ」

「こんな死体の山にいるのは無理ですヨ!!」

「……その中で死んだふりしてるのが、一番安全だと思うが?」

「それは嫌なんですっテ……ア、あノ、ついて行っちゃダメですカ?」


 素直に隠れると思いきや、同行したい旨を伝えてくる。どうしたものかと考える晴嵐は、選択を迫られていた。


用語解説


遺産の呪い

『悪魔の遺産』での傷は、ポーションでの治療ができないという。下手に使うと、毒が回って死んでしまう……らしい。

 その正体は『体内に残った鉛玉』及び『鉛中毒』が原因。実際にポーションを使用すると、大丈夫だったり、ダメだったりと安定しないそうだ。体から弾丸を摘出すれば問題ないと晴嵐は判断する。

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