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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第五章 戦争編

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テント内の惨状

前回のあらすじ


 聖歌公国軍、野営陣地まで近寄れた晴嵐。見張り替わりのゴブリン達だが、突如として死体撃ちを始める。弾切れ時を狙って踏み込み、奇襲をかける晴嵐。武器は強いが、ゴブリン特有の鈍さは健在。慎重にやれば戦えると晴嵐は判断する……

『悪魔の遺産』を片手に、晴嵐は陣地内部に侵入した。

 敵の立ち位置から見た景色は、複数の木の柵が新しく建築されていた。視線を塞ぐ遮蔽物は、銃撃戦を想定した作りに見える。規模の大きい防壁に、晴嵐は軽く考えた。


(確か、今回の戦場には……吸血種の武人がおるんじゃったな)


 であれば、スーディアや晴嵐の影響ではあるまい。千年前の戦争経験で『悪魔の遺産』対策を記憶していた……のだろう。魔法の障壁が通じなくても、対応手段はある。

 妙な話だが、晴嵐は少しほっとした。

 人間一人の能力には限界がある。晴嵐一人でこの状況の打開は出来ない。無論努力はするが、すべてが上手く行く訳じゃない。

 例えば、晴嵐は口調がきつい事を自覚している。クソ野郎な事も、善良な人間は近寄りがたい事も自覚している。窮地や危機での生存力は自信があるが、孤独に行き過ぎた弊害で、味方と歩調を合わせるのは苦手だ。

 ――偵察と称して飛び出したのも、群れて行動する事への苦手意識からだろう。それらしい理由をつけて、無意識に集団行動を避けたのだ。


(これも……矯正を考えても良いのかもしれんが……まずは生き残らんとな)


 課題として頭の片隅に入れつつ、今できる最善を考える。

 聖歌公国軍は、正面に防衛陣地を設営し、抵抗の構えを見せていた。まだ銃声や戦闘の音が聞こえてくる。それも、かなり激しく。

 ならば部隊は健在。正面から敵を抑えている間に、晴嵐が背中からゴブリンを撃てばよい。幸い奴らは『銃を自分たちしか使っていない』と、刷り込みのような物が見受けられる。奪われて使われる……という警戒心がない。入口で撃ち殺した連中のように、銃の扱いも全体的に雑だ。発見されぬように立ち回り、遭遇した相手を迅速に始末すれば、単独でもある程度処理できる。問題はむしろ、この行動を味方に見られた時だ。


(旗持に渡した時も、相当顔色が良くなかったからの……あいつは受け取ったが、人によっては『こんなもの使うぐらいなら死ぬ』とか言い出しかねん)


 ユニゾティア住人は『悪魔の遺産』と呼び、この武器を強く忌避している。法律は詳しくないが、レプリカさえ所持を禁止しているらしい。

 だが、それでよかったのか? 晴嵐は考える。この惨状はそうやって、恐怖から情報を封鎖したせいで……知識が広まなかったから、起きたのではないのか。

 思考は銃声で遮られ、反射的に晴嵐は身を隠した。正義も法も、殺し合いでどれだけ役に立つ? 今はただ、殺される前に殺すだけだ。余計な思考リソースを割いた己を恥じ、晴嵐はテント内に入っていくゴブリンを見つめる。発射音はどうやらこの中らしい。


(……警戒している? しかもちゃんと? ……まだ誰か戦っておるのか?)


 助ける義理はないが……敵を背後から攻撃するには、もう何人か人手が欲しい。隠密は一人でも良いが、不意打ちの射撃で即死する危険もある。三名程度で周辺警戒しながら、立ち回るのが理想か? 自分の理を計算した晴嵐は、テント外で警戒するゴブリンに射撃を開始した。

 敵数は2。銃の最大攻撃数は8。三発ずつ手早く発砲し、一名は絶命。しかし一人は急所が外れたのか、反撃で一発撃ってきた。

 愛用の外套に弾丸が掠る。本気で肝を冷やして、男は無理せず身を隠した。外れたから良いものの……急所に当たれば今の一発で死んでいる。誰が使おうと同じ効力の銃に、最大限の警戒をしなければならない。


「大丈夫だ。焦るな……」


 弾倉の入れ替え。まだ残弾のあるマガジンは捨てず、ズボンの尻ポケットに突っ込んでおく。弾丸をフル装填された新品を叩き込み、少し下がった場所から顔を出し、射撃を再開した。

 今度は、相手に撃たれる前に殺せた。二発使った弾倉を尻に入れ、もう一つ新しいのを突っ込む。緊張を少しだけ口から抜き、死体の先にあるテントに聞き耳を立てた。


 ――まだ銃声が聞こえる。ゴブリンの鳴き声も少しだけ。周りがうるさくて、正確には分からないが……今なら、背中から撃てる。

 静かに忍び足で入ると、牢屋と血まみれの中身が目についた。

 捕虜となった緑の国の兵士と『不幸な横やり』で襲ってきた山賊は、ここで囚われていたようだ。ただ、逃げ場のないこの場所で……ゴブリン共の的にされたのだろう。入口で嬲っていた奴らのように。

 惨状は目に入れない。それより先、奥の方の牢の付近で、銃を握って様子見するゴブリンがいる。外で発砲した晴嵐だが、目の前の敵に夢中でゴブリンは気が付いていない。紫色の小柄な敵は四。一息に仕留めるには難しい。一旦外に戻った男は、外で殺した相手の銃を奪い装填数を確かめる。


 いけると踏んだ彼は、ホルスターごともう一丁拝借。静かにテント内に戻ると、敵の一匹が牢の前に飛び出し――頭を破裂させていた。

 牢の中に、コイツを使っている奴がいる。事実は軽く流し、男はハンドガンを敵に向けてひたすら乱射した。

 目の前で死んだ仲間に、動揺していたのだろうか? 連射で精度を欠いた晴嵐の射撃で倒せたのは一人。けれどどこから撃たれたのか、すぐに判断がついていない。

 ――それでも、こちらを向かれたら危険だ。晴嵐は上部がスライドし、弾切れとなった拳銃を投げ捨て、すぐにホルスターに手を伸ばす。奪いたての二丁目が立て続けに銃声を鳴らし、ゴブリン共を全滅させた。


「ふーっ……」


 銃が相手だと、緊張の度合いが違う。その脅威を改めて感じつつも、そっと男は牢の近くまで歩み寄る。生き残っている奴に理性がある事を願って、晴嵐は声をかけた。


「ゴブリンは全員殺した。中のお前、大丈夫か?」

「ハッ! ハッ! ハッ! はぁぁぁぁ~~ッ……」


 過呼吸気味の声は、聞き覚えのある亜竜種の声。

 晴嵐が尋問にも同席した、あの臆病な亜竜種の山賊の声だった。

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