死体撃ち
前回のあらすじ
慌ただしくなる外に、亜竜種の山賊はぼろ布被って丸まっていた。緑の国の夜襲にしても、自分たち山賊に救いはない。だが嫌な予感を感じて、部屋の隅で怯える。やって来たのは『悪魔の遺産』を持ったゴブリン。ニタニタと嗤いながら武器を放ち、牢屋越しに虐殺が始まった。
野営陣地内で響く炸裂音に、晴嵐の顔が歪んだ。ゴブリンどもは陣地内に侵入したらしい。今は入り口付近に潜む晴嵐は、無数の兵の死体と……『悪魔の遺産』を持つ二匹のゴブリンに足止めを食らっていた。
素早く殺れば突破は可能だろう。しかし二匹いる以上、闇雲に仕掛ける事も出来ない。片方を攻撃中に、もう片方から銃撃を食らえば危険だ。何かに注意が逸れれば、その瞬間に仕掛けたい。
(じれったいが……相手の武器が『銃』な以上、無理は出来ん……)
敵に向けて、引き金を引く。たったこれだけの操作で、大半の防御を貫いて相手に致命傷を与える武器……それが『銃』だ。ユニゾティアでは魔法の盾や鎧があるが、それでも防ぎきれない性質を持つ。防弾チョッキなどの装備もない現状、どうしても後手に回らざるを得ない。
幸い、こちらも相手の武器を奪うことが出来た。鉄の塊を握りしめ、緊張を溜めた肺を動かす晴嵐。久々の操作だけれど、このハンドガンなら煩雑な操作は必要ない。
草陰から動きを観察していると、後ろから三匹目が現れた。舌打ちを堪え、じっと様子を伺う。何か話しているのだろうか? 鳴き声か、独自の言語なのか、三人寄って声を上げている。転がった亜竜種の戦士を見下ろし、一人がいきり立って銃弾をブッ放した。
(なんじゃ? 死体撃ち……?)
生きていたとは思えない。仮にまだ命があったにしても、もうすぐ死んだ筈だ。叫ぶ鳴き声の中に、怒りや憎しみと言ったドス黒い衝動が見え隠れする。知性が低いとはいえ、感情はあるらしい。その衝動が伝播したのか、今までいた見張りの二人まで、転がっている兵たちへ弾丸を放ち始めた。
――誰が見ても、胸糞の悪い光景だった。弱り切った者に必要ない以上の攻撃を加え、引き金を引く側は感情を吐き出していく。内臓や脳漿をぶちまける光景に、悪意に満ちた笑みを浮かべ、まさしく至福の時……と言わんばかりに、恍惚さえ滲ませ死者を嬲っていた。
基本悪党と自負する晴嵐だが……あまり良い気はしない。それでも感情を爆発させないのは、これから来る好機を予測しているから。飲まれるのではなく、解き放つタイミングを理性で調整し、握りしめた冷たい金属に籠った、余計な力を抜いた。
「ギャギャァ……」
「ギギギッ!」
「ギャッギャッギャッ」
死体遊びに喚く声を、理解する気も起きない。彼が注視したのは『悪魔の遺産』。三匹が遊びに夢中で、手に持った銃の弾倉を使い果たしたのを確認。鋭く息を吐くと同時に、男は草陰から一瞬で飛び出す。
反応より早く射撃体勢を取り、奴らと同じハンドガンを向ける。一切の躊躇なくトリガーを引くと、甲高い破裂音が闇夜に二つ響いた。
――ゴブリンどもは発砲音に慣れているのだろう。特に反応はしないが、射撃を受けた一匹が胸から血を吹き出す。
「……ギャギャ?」
最初の森で仕留めた時のように、ゴブリンの反応は鈍い。同じ武器を使っているはずなのに『撃たれた』と理解するまでも鈍感だ。仲間の二人も呆然と見つめる中、すぐに晴嵐んは照準をずらす。
的は小さい。距離は20m前後。シチュエーションは暗い夜闇。数か月銃を使っていないブランクを考えれば、ヘットショットは狙えない。そもそも扱えるだけで、晴嵐は決して銃の達人ではない。
だから胸を狙う。肺をブチ抜けば重症、心臓なら即死。確実な打撃を考えるなら、胸部の方が期待値は高い。追加の二発を発砲し、二匹目をダウンさせた。
「ギャーッ!!」
怒りと恐怖の咆哮を上げ、ゴブリンが銃をこちらに向ける。だがスライドオープンした拳銃は、完全に弾切れだ。撃鉄の乾いた音とほぼ同時に、装填済みの晴嵐の銃が火を噴く。さらに二発発砲した弾丸は、二発目が頭部に命中し一撃で絶命。荒く一度息を吐いて、一度晴嵐は茂みの中に戻った。
発砲音を聞かれ、他のゴブリンが戻ってくるかもしれない。隠れながらマガジンを入れ替え、殺した三匹に目線を合わせる。再度射撃準備を終えたが、敵の気配はしない。
(……死体撃ちが普通だからか?)
後方で射撃音がしても、それが敵の物と認識できていない? 悲鳴は多少上がったけれど、異常を感じて様子見に来る個体がいない。死体撃ちも含めて、強力な武器を手にして調子づいているのか?
ならば……やりようはある。警戒は怠らないまま、晴嵐は撃ち殺した死体に駆け寄る。まだ未使用のマガジンを三つ奪い取り、ケツのポケットにねじ込んだ。
野営陣地内は戦闘中。他のグループが侵入したのだろう。あちこちから銃声が聞こえてくる。ところどころ見張りもいるが、はっきり言って名ばかりだ。銃声に気を取られていたり、死体撃ちで遊んでいる個体も多い。
(油断は出来んが、不意打ちで数を削っていけそうだ)
陣地内なら視線も通らない。曲がり角を使って、一人ずつ排除していけばやれる。よく見れば陣地の中に、急ごしらえの柵や防衛陣地も設置されていた。これなら少しは持つだろう。
改めて悪魔の遺産を握り直し、ゴブリンどもに注意しつつ、自分の所属する陣地に潜入を始める晴嵐。
――次に聞こえた銃声は、テントの中からいくつか聞こえた。




