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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第五章 戦争編

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M1911A1

前回のあらすじ


 負傷した兵士に、手当てをした男。そいつは『悪魔の遺産』を手に帰って来た。二つ奪ったという彼は、操作方法を教えて専用カートリッジを渡す。やたらと詳しい男を不審に思うが、今はこれがなければ生き残れない。敵が集いつつある本陣側へ、再び男はかけていく。

 本陣の状況は読めないが、必要な情報なら旗持から流しただろう。まだ大きく事態は動いていない。正念場はこれからだと晴嵐は気を引き締めた。

 ――とはいえ、ひどい矛盾を抱えた行動ではある。命綱である銃のマガジンを、たまたま会っただけの旗持に大量に渡すのは……少なからず晴嵐の命を危険に晒す行為だ。おまけにこの世界で『悪魔の遺産』と呼ばれ忌避される武器の使用方法を、ざっくりとはいえ伝授する時間も……浪費と言えばそうだろう。

 それでも見殺しに出来なかったのは、果たして情報収集と伝達だけが目的だったのか? 自問の声を無視して、銃声の鳴り響く野営陣地の闇を晴嵐は睨む。どこまで進行されたのか、スーディア達は無事なのか、焦らぬように心をなだめて、一つ一つ呼吸を整え、頭を冴えわたらせていく。


(敵が多すぎるのは確かだからな……一人で挑むには無謀すぎる。やるなら『敵が陣地に侵入したところで、乱戦下になってから』じゃな。でなければ背中から撃ちこんでも、わしの位置が割れて瞬殺されちまう)


 黒光りする銃器を眺め、犠牲になるであろう兵士への黙禱だろうか? 男は目を閉じて一つため息を吐いた。

――最初に旗持と別れた後、撃ち殺された兵士の死骸に足を運んだ晴嵐。確かに一瞬で壊滅的被害を受けたが、全滅前に一矢報いていた。二匹ほど投擲物を食らって死んだゴブリンの死体には、握られたままのハンドガンが残っている。

 晴嵐は、銃器の種類はそこまで詳しくない。日本は銃刀法違反という法律が存在し、テレビや映画の中の縁遠い存在か、外国や兵隊、そして日本の警察やヤクザが使っている……普通の人間なら、だいたいこんな認識だった。

 しかし世界が壊れてからは、少ない銃器を使う機会もあった。銃声で吸血鬼サッカーが寄ってくるため、どちらかと言えば『対人用』か……徒党を組んで敵を制圧する時しか使わなかったが。

 忌々しくも懐かしい思い出と、目の前に転がる銃器は……ほんの少しだけ重なった。


(M1911A1……コルト・ガハメント……か)


 シンプルなデザインの自動拳銃。その上部フレームの刻印や形状から、なんとなしに晴嵐は理解した。なんでコイツが、という脳内の突っ込みを無視して、点検しつつ銃器を奪い、マガジンと弾薬のチェックを進める。

 ――日本ではあまり馴染みのないハンドガンだが、この拳銃は主にアメリカで有名だったらしい。百年を超えて使用者が存在したその銃は、装填数は基本的に一桁とやや寂しい。しかしコイツの優秀なところは『非常に信頼性の高い銃器』な点だ。

 パーツが少なくシンプルな設計のおかげで、点検する箇所は多くない。さらに動作不良や故障も比較的起きにくい。他の銃では不具合を起こす環境でも、コイツなら動作する場面もある。初心者から上級者まで、とりあえず使わせるならコレ……というハンドガンだそうだ。

……終末で関わった人間の一人、文明復興組の副リーダーは、確かそんな説明をしていた気がする。他にもいろいろと話していたが、今は必要ないので記憶から追い出した。


(知能の低いゴブリンに使わせるには、悪くない道具なのかもしれん……)


 何度か『グラドーの森』内部で戦った事のある、紫色の小人生物のゴブリン。オークを蛮族と呼んでいる地域もあったが、ユニゾティアでゴブリンは、種族として認知さえされていない。頭の悪さと野蛮さのせいだろう。晴嵐視点でも雑魚なそいつらは、普通なら何の脅威にもならない。

 しかしそいつらに銃を握らせたのは、どこのどいつなのやら。道具を使う程度の知能は、ゴブリンどもにも存在する。製造は難しいだろうが……この銃なら操作も取り扱いも簡単な部類だ。使い方だけを覚えさせるなら、そんなに難しくない。現に晴嵐も、この世界の住人に対し、比較的簡単に説明を終えている。


(なんにせよ……この組み合わせには悪意がある。偶然とは思えん)


 彼は、悪意に対し人一倍敏感であった。

 相手を貶めようとする意図、利用してやろうと言う意思、何かを使って、背後からせせら笑う誰か……その存在を感じる。この『悪魔の遺産』を装備したゴブリン達も、誰かに背中を押されてやっているのではないか?


「まぁいい……小難しい事は後じゃ」


 誰の手下なのか、誰の悪意なのかはわからない。けど今は、顔の見えないどこかの悪役より、目の前にいる敵を撃退しよう。忌避された武器で武装し、足りない頭で過剰な暴力を振るう雑魚を蹴散らそう。

 もう一度拳銃を確かめ、旗持に教えなかったセーフティー外す。鉄の玉を込めた金属は、剣や槍より遥かに軽い。

 その多くを負傷兵に渡したので、予備のマガジンは二つ。握った銃も含めてフル装填。よって攻撃回数は20と少し。無駄使いは出来ない。

 各種ナイフと煙幕もあるが、銃を装備した集団には心細いか。とはいえ、敵の装備に知識のある晴嵐は、他の兵士と比べればマシ。立ち回りを慎重にやれば、援護の方法はある。


「うっかり死ぬんじゃないぞ。スーディア」


 流れ弾一発で死ぬ危険もある。矢面に立つ若いオークに対し、晴嵐は祈る事しかできなかった。


用語解説


コルト・ガハメント M1911A1


 実銃。製造されたのは、現代から百年前のハンドガン。しかしその優れた構造から、未だにアメリカで『実用品として』人気の拳銃の一つ。

 操作が簡素で、故障や誤動作、悪環境にも強い。パーツ数も複雑でない。程よいサイズと重さなどの好条件が重なり、初心者から射撃に慣れた人物まで扱いやすい拳銃……らしい。

 断言できないのは……すいません。作者使った事ないんですよ……

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