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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第五章 戦争編

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覚悟と抵抗

前回のあらすじ


『悪魔の遺産』による攻撃を受け、重傷を負った兵を引きずる晴嵐。応急処置を終えた兵は、死を覚悟の上で旗を起動するという。冷徹な晴嵐が珍しく、熱くなりつつも、兵の決断を止めはしなかった。

 多くの兵が凶弾に倒れる中、聖歌公国軍は正確な敵を把握していなかった。

 休憩中の人員は全員叩き起こしたが、肝心の正体がわからない。『悪魔の遺産』による攻撃を受けている……とは把握しているのだが、その性能を詳しく知るのは、聖歌公国陣営の中では……千年前の戦場を知る『ハクナ・ヒュドラ』のみである。


「――それが『悪魔の遺産』と特性と? 攻撃は視認が不可能で、独特の形状の鉄から遠隔攻撃できる……」

「ウム。シカシ実物ガ動ク場面ヲ目ニシナケレバ、悟ル事サエ叶ワヌ」

「……困りましたね。ハクナ様、この場所は危険です。下がった方が――」

「危険ハ承知ノ上。我モ戦場ニ残ル」

「しかし……! お言葉ですがハクナ様。此度の危険度は比較になりませんぞ……!」


 一瞬、白い鱗の亜竜種の顔が引きつった。

 不遜な発言とたしなめた……のではない。他者に指摘されるまでもなく、ハクナ・ヒュドラは『悪魔の遺産』の脅威を知っている。千年前に戦地にいたかの武人にとっても……『悪魔の遺産』は恐怖の対象だった。

 その上でなお、ハクナは引かない。


「我ガ引イテハ、戦士タチニ示シガツカヌ」

「お気持ちは分かります。ですが……」


 どうにかハクナを下がらせたいが……武人として、英雄として、そして代表者として下がろうとしない吸血種。硬直の中、一人の亜竜種軍師が間に入った。


「ハクナ様のお覚悟は固い。こうなったら意地でも敵を撃退するしかないぞ」

「レプタル将軍、本気か?」

「ここで変に揉めるより『ハクナ様が逃げてないのだから全霊を尽くせ』と戦士たちを鼓舞する方がまだ良い。……危険だとは思うが、こうなったらハクナ様はてこでも動かせないぞ」


 背水の陣を敷くしかない……暗に軍師はそう言っていた。やや不敬と思われる発言も含まれていたが、ハクナは異論を挟まない。自分の意地が彼らを追い込んでいると、自覚はあるのだろう。じれったく足踏みする面々に、ノイズの入った連絡が入った。


『……ら、偵察隊……誰で……いい、聞いてくれ』

「!!」

『敵の正体は……『悪魔の遺産』で武装したゴブリンの群れだ。偵察隊のほとんどは……所詮ゴブリンと侮って、大打撃を受けている。旗持は……狙われた』

「感度が悪い、受信出力を上げろ!」


 ようやく入ってきた報告に、上級士官のテントが騒めいた。ハクナ含め全員が聞き耳を立てる中、苦しそうな声で兵が報告を続ける。


『わたしの所属する部隊も……初手で油断したところやられた。繰り返す……敵はゴブリンの群れ。装備は『悪魔の遺産』だ……! 雑魚と侮るな。鎧の腕甲は……貫かれたが、盾の腕甲なら……少しだけなら耐えれるかもしれない。隣にいたやつが……一回だけ弾いているのを見た。ただ、過信はできないかもしれない。連続で攻撃されて、結局……』

「――本部だ。よく報告してくれた。君の状況は?」

『両足を……やられました……傭兵隊で、偵察に出ていた男がいたらしく……彼の応急処置の後に、草の茂みに隠れて立体旗を起動しています。ただ……私が見つかるのも、時間の問題かと……』

「どういうことだ?」

『一グループは二十名前後ですが……グループは複数いるようです。正確な数までは読めませんが…………何度か破裂音と……そうだあの武器、使用時に閃光を発するようです。一瞬ですが、はっきりと見えました』


 その報告に戦慄が走った。ゴブリン如きが連携するのも生意気だが……すでに偵察隊の多くが壊滅している?

普通に戦えば、兵士がゴブリンに負ける訳がない。体格にも差があり、体力も知能も差がある。数がいると少々面倒だが、それでも並の兵士で十分対応できる相手のはずだ。

 その常識を覆す武器が『悪魔の遺産』――改めてその恐ろしさを知り、本陣の人員に冷たい汗が流れた。

 現場の兵は、最後までつとめを果たそうと旗を握る。発見の恐怖もあるだろうに、少しもそれを見せずに兵士として危機を伝えた。


『最初は、緑の国の夜襲と思いましたが……エルフは一人も見当たりません。話し声一つ聞こえないとなると……奴らの一手とは考えにくいです。確証はありませんが』

「――それはこちらで考えることだ」

『……ともかく、全軍に『ゴブリンだからと侮るな』と通達をお願いします』

「わかった。すぐに君の救援部隊も――」

『それは後です。まずは『悪魔の遺産』を持った敵を……』


 彼の言葉は、そこで途切れた。

 旗越しに何度か、乾いた破裂音が聞こえた。

 ゴブリンの喚く声。連続する『悪魔の遺産』の音。嫌でも顛末は想像できてしまった。沈黙は長く続けられず、レプタル将軍が机を感情任せに叩く。


「くそっ……無駄にはしない。旗持を通して、全部隊に情報を伝達! それと今の報告からして、傭兵が遊び駒になっている可能性が出た」

「いかがしますか?」

「――独自に動かせる状況じゃない。正規軍に寄せて編成し、敵襲に備えろ。空戦部隊も上空で待機! ただし偵察に留め、攻撃と接近は禁止する」

「それではどうやって撃退するのです!?」

「空戦部隊の偵察情報を元に、敵のゴブリンとおぼしき箇所に弓兵に射かけさせろ。奴らが攻撃の際『閃光を発する』と報告があった。この暗闇なら逆に閃光は目立つ。そこをマークさせろ」


 それでも精度は期待できないが……このまま一方的に蹂躙されてはたまらない。

 突然の『悪魔の遺産持ちのゴブリンの襲撃』を受けた彼らは、ある意味誰もが被害者だ。差し迫る生命の危険に対し、彼らは一人ひとりが、全力で抵抗をするしかなかった。

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