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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第一章 異世界編

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ようやくの休息

前回のあらすじ


 飛びかかるスーディア。飛来する投擲物から晴嵐をかばい、全員が臨戦態勢に入る。現れたのはゴブリンの群れ、十数名単位に迫られる四人。囲まれた彼らの中心で、テティが魔法の旗を掲げる。隊列の乱れるゴブリンへ、全員で攻勢に出る。どうにか撃退した彼らは、肉体にむち打って、その場から距離をとった。

 オークの洞窟からも、ゴブリンの死体からも十二分に距離をとった四人は、ようやく腰を下ろして休む機会を得た。

『ヒートナイフ』で火を起こし、ラングレーが持参した鍋に具材を入れる。抜け出す覚悟を決めた彼は、色々と日用品の一部を拝借していた。


「ちゃっかりしてるな」

「そりゃお前と二人で飛び出すわけだし? あると便利な道具は揃えといたぜ」

「……困ってないか、群れの皆」

「おいおい、もう果たす義理なんざないだろ? どうしても納得したいなら……お前への慰謝料代わりって事で」


 落ち着いて間を置けば、未練も少しは湧いてくる。けれども過ぎたことだと、スーディアは無理やり納得させる。かつての仲間たちの下へは二度と戻れない。決断も行動もした。後はこの道を信じて進むしかない。しかし頭で理解しても、人なら不安に駆られてしまうもの。それでも背中を押してくれる友へ、スーディアは喉を震わせた。


「お前がいてくれて良かったよラングレー。きっと一人じゃ何も決められなかった」

「いやいやいや、オレもお前が決断しなきゃ……お前の決意に押されなきゃ動けなかったぜ。それと……誰かの刃物も理由かな」


 意味深なラングレーの視線の先に、腕を組んでこちらを見つめる男がいる。鼻息の後で口元を歪めた。


「お主らのためではない」

「わーかってら。ちょっとは愛想よくしろよ」

「ハッ、深く人と付き合えん性質タチでな。代わりにこれをやろう」


 セイランはポーチの中から玉ねぎを取り出す。見覚えのある網に包まれたソレを、ラングレーは指差して叫んだ。


「あっ!? ソレ洞窟で保管してたヤツじゃねーか!」

「手間賃として頂いといた」

「窃盗の正当化!?」

「お主も同じ穴の狢じゃろ」

「ハハハハハ、ナンノコトカナー?」


 軽薄な声に親しみを乗せて、セイランも調理を始める。座して待つのが気まずくなり、スーディアが動こうとしたが止められた。


「お主は休んどれ。一番疲弊しておる」

「そうだぞ英雄。長とやりあって、強行軍の後にゴブリンとも戦ったんだ。うっかり鍋ひっくり返されても困るし。な?」

「火の番ぐらいはできるさ。ところでテティは?」


 きょろきょろと首を動かし、少女の姿を探すが見えない。抑揚のない淡々とした声で、猟師を名乗った男が答えた。


「見張りを頼んどる。あの娘が一番気力を残しているからな」


 彼女は囚われの身で、合流する前に休む時間もあった。女性ではあるが『旗持』として前線に出れるし、セイランの判断は合理的。理解を示しつつ、ラングレーはぼやく。 


「何で男三人で、鍋囲まなきゃいけねぇんだ」

「美味いメシなら文句はあるまい? ほれ、乾燥ベーコンも追加してやろう」

「じゃあオレ黒コショウ入れるわ。葉物野菜も入れたかったが、在庫がな」

「あっても無視したじゃろ? 痛みが早い」

「あー……そうだな。確かにそうだ」


 文句を垂れていても、セイランとラングレーの意見は合うらしい。軽口の間で煮立つ鍋の音と、薪が燃焼し爆ぜる音に混じって、食欲をそそる匂いが立ち上った。


「……いかん、腹が減って来た」

「空き腹に効く香りだよな~……スーディア、テティ呼んで来い」


 まだ食材は煮えておらず、少女を呼ぶには早い気がする。不思議に思ったオークの若者に、友がニヤニヤ笑って肘で小突く。


「オイオイ、『お姫様』を命がけで助けたんだ。二人きりで話す時間が欲しいんじゃねーのー?」

「ラングレー……あのな、俺は彼女を自由にしたいだけで、別に惚れてるとかそういうことじゃ……」

「いや~本当か~? セイランに気を使ってないか?」

「ふむ? ならわしも席を外した方がいいかの?」

「二人とも……からかうのはしてくれ」


 額を抑えて訴えても、二人の視線は生暖かい。調子に乗って友がべらべらと喋り出す。


「オレと二人の時もこんな感じでさ? なかなかガードが固い」

「ほぅ? 主らは長い付き合いに見えるが……それでもか」

「そそ。本当は気になっているくせに~」

「ラングレー!」


 空気に耐えきれず、決闘した彼はつい叫んでしまう。肩を揺らして、増々目を細め、調理中の二人が手を止めた。野次馬二人がテティを勝手に評価する。


「悪いじゃないだろ? 話し上手だし、礼儀もいい」

「うむ……容姿は良し、内面も落ち着いとる。あの『お姫様オーラ』もあれば、惹かれるのは無理もない」

「……確かに惹きつけられる。でもそれは愛情じゃなくて……敬愛だ」

「と、容疑者は申しております。どう思いますかセイラン」

「きっかけは些細でも、いつの間にか深い仲に……という話もよく聞く」

「なるほど……いやぁ~これは目が離せませんなぁ」

「そうじゃなぁ……」

「……お前ら」


 深く深く、溜息を零す。本当にその気はないが、今の二人に何を言っても通じそうにない。視線に耐えられず、スーディアが席を立った。


「呼んでくる。すぐ戻るからな」

「いやいや、ごゆっくり」

「いい加減にしろ」

「へへ、悪かったって~」


 全く悪びれる様子がないラングレー。当てつけに足音を大きくして、スーディアはすたすたと森に入っていく。

 姿が消えた直後、残ったオークが囁いた。


「……ちょっとからかい過ぎたかな。どう思うセイラン」

「んー……全部ひっくるめた感想を言うぞ」

「オレも含めてか?」

「うむ……お主ら、青春満喫しとるのぅ」

「ジジくせぇ感想だな!? お前同年代だろ?」

「はてそうだったか? ところでラングレー、飯はまだかの?」

「……おじいさん、今作ってるでしょ」


 下らない軽口を背に、スーディアは少女の下に歩みを進める。

 強く確信した、あの青年の正体を胸に。

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[良い点] 急に緩い感じになって笑ってもうた
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