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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第一章 異世界編

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風に靡く旗

前回のあらすじ


 泉で身体の汚れを祓い、囚われの身から抜け出すテティ。合流を待つと、晴嵐、スーディア、ラングレーが次々と集まる。再会を喜ぶのもつかの間、オークの拠点から距離を取るべきと訴えるスーディア。冷徹な晴嵐も賛同し、会話を交えつつテティに詰め寄る。お互いの正体に踏み込みかけたその時、スーディアは晴嵐に飛びかかった。

 水筒で補給を終えたスーディアは、三人が話すのをよそに警戒していた。

 救出者……セイランは追ってこないと断言したが、やはりまだ緩めるには早い。案の定何かの気配を感じ取ると、それはすぐさま殺気へと変貌した。


(正面……風切り音!?)


 何かを投げつけられたと判断し、瞬時に彼はセイランに飛びかかる。テティとラングレーには『盾の腕甲』で防壁を張り、セイランを片手で掴んで攻撃を避けた。

 光の盾に投擲物が弾かれ、地面に無数の投げナイフが突き刺さる。倒されたはずのセイランが転がり、素早くナイフを投げ返した。

 そのままセイランは気配に向けて次々と投擲。森の影にギャッ! と悲鳴が木霊する。それを皮切りにして……周辺からギャアギャアと、喚き騒ぐ何かが気配を発した。


「マズいな。囲まれとるぞ」


 スーディアに文句一つ言わず、セイランは淡々と周囲を観察する。もめてる余裕はない。ざっと気配を感じても、奴らは10匹以上いるだろう。

 紫色の肌、低い背丈、耳障りな鳴き声……ゴブリンの群れだ。

 これでも小規模な群れだが、数の差は三倍以上。せっかく逃げ出せたのに、ついてない。オークの若者は歯噛みした。


「背中合わせに!」


 ラングレーが叫び、四人の男女が固まる。森林の間で蠢く紫のケダモノが、舌なめずりして彼らを取り囲んだ。

 セイランが投げナイフで牽制し、敵の突撃を防いでいる。けれどいずれ包囲を狭められ、圧殺される未来が目に見えた。


「くそ……あんまり使いたくなかったが……!」


 ラングレーが呟き、隠し持ったレイピアを引き抜く。雷光を纏うその武器の名は『ボルトレイピア』。電撃を放つ強力なサイドアームだ。生じさせる音も含め、色々と忌避され嫌悪される武具でもある。彼を良く知るスーディアが問うた。


「お前、その武器使えたのか!?」

「長が隠し持ってた魔導式だ。ただカートリッジの残量が……」


 あの口調では、数回分しか使えそうにない。ゴブリンどもが警戒しているが、逃げ出す様子はなさそうだ。

 せめて、彼女だけでも逃がさねば。悲壮な決意を胸に抱いたスーディアだが、テティは澄んだ目で長い棒を立てて、掲げた。

 思い出す。彼女の得物が何だったか。

 長い金属の棒の先から、魔力で出来た立体映像ホログラムが風に靡く。

 青と白の光の粒が、聖歌公国の旗を作り……込められた魔法を周辺に展開した。

『旗持』それが彼女の戦闘職。周囲の敵味方の精神に対し、旗に込められた魔法による、戦略干渉を行う職――

 敵対する相手の士気と戦意を削ぎ、逆に味方の戦意と士気を高揚させる。四人の中から恐怖が薄れ、血が滾り、反面ゴブリン達が怖気づく。

 立体映像の旗……立体旗ホロフラグの効果だ。乱れたゴブリンの隊列に、セイランとスーディアが同時に飛び出した。

 狙いすましたレイピアの刺突が喉を穿ち、逆手に握ったナイフが胸を貫く。二匹減ったゴブリン達が、ギョギョ! と怯え竦んだ声を上げた。

 ラングレーも続いて前に飛び出し、電を纏ったレイピアを振りかざす。そのゴブリンは粗雑な金属鎧を身に着けていたが、金属は電撃を防げない。迸る電流に身を焼かれ、鎧は意味を成さず絶命した。

 慌ててゴブリンが旗を持つ少女に迫る。旗を振り続けるテティは、一見して無防備に見えたが……その判断は甘い。

 立体映像の旗は、物理的な特性を有していない。つまり彼女は『ただ2メートルの棒を振っているだけ』だ。体力的な消耗は低く、何より棒は打撃武器として機能する。テティは迫るゴブリンの喉仏を真っすぐ突き、頸椎を破壊した。

『ぐぇ』とカエルのような鳴声を上げて、紫の小人が倒れ込む。背面に忍び寄っていた別個体が怯えた隙に、テティは棒を振り下ろし頭蓋を砕いた。飛び散る液体は立体旗をすり抜け、木の幹に付着し跡を残す。

 すっかり怯えきり、立ち竦むゴブリン達。旗の効果で恐怖が増幅され、心が折れて凍り付いている。スーディアが光の盾で殴り飛ばし、セイランがナイフで急所を切り裂き、ラングレーが電の剣で黒こげにしていく。

 まだ数の優位があるゴブリンだが、怖気づいて壊走を始める。けれど足がもつれ、逃げ出すにはあまりに遅い。セイランとラングレーが追撃し、やがて耳障りな鳴き声は森の中から消え去った。


「ふー……っ」


 深く長く、安堵の息を吐く少女。不意打ちを受けて焦ったが、終わってみれば快勝である。全員大きな怪我はなく、ゴブリン共は壊滅だ。

 少女は立体旗をしまい、光の粒子が散って消えた。魔術か魔導かは知らないが、長時間の展開には魔力コストがかかる。ラングレーも同様に、ボルトレイピアから魔力を断ち、再び隠し持つ。セイランだけがしばらく警戒を続けたが、やがて彼も肩の力を抜いた。


「もう大丈夫そうじゃな」

「ですね……あ、すいませんでした。急に掴んて」


 戦闘開始時の行動を、オークの若者が謝罪する。全く気にしない様子で、セイランは手を振った。


「いや、いい。話しとる暇はなかった。わしとしたことが……油断したわい」

「悪ぃスーディア。お前が一番へばってるはずなのにな」


 友も反省する傍ら、少女がそそくさと促す。


「話してるところ悪いけど、もう一度大きく移動しましょ? 追手が来てたら今の音で……」

「そう……だな」

「ちょっとはスーディアを休ませてやれよ」

「……大丈夫だ、まだいける」


 誰でも分かる強がりで、スーディアが再び歩き出す。息が上がり足は重いが、それでもここは前に進まなければ。強い意志で再び前を歩き出す。危うい足取りを見かねたラングレーが疲弊を訴えた。


「もうちょい進んだら腰降ろしていいか?」

「あぁ。倒れられたら面倒じゃからな」

「言い方ァ!」


 どこまでも不愛想な物言いだが、彼も彼で消耗しているはず。休めたのは合流を待ったテティぐらいだろう。それでもセイランが積極的に前に出て、周囲警戒を始めている。ライフストーンを浮かべるテティの隣で、しなやかな所作で周辺を窺う。

 気を張った背中は、妙に老獪な所作に見える。年不相応の用心深さと、助けた少女にも共通する特徴を見いだし……スーディアの脳裏に、とある想像が浮かんだ。


“彼も、テティと同じ境遇なのかもしれない”


 彼女と言う前例があるのなら、可能性はゼロではない。直前の会話も思い返し、非常識な結論を確信する。その一瞬だけ彼には、セイランが傷だらけの老人に見えた。

用語解説


立体旗ホロフラグ

 テティの保有する魔法の旗。ゲーム風な表現になりますが……味方にバフをかけつつ、敵にデバフをばら撒く装備。使用者本人も、棒術を行使して前線で戦う。この世界で必須の戦闘職の一つ。


ボルトレイピア

 電撃を行使できるレイピア。シエラ兵士長も用いていた武器である。現代の方には、『金属製レイピア+スタンロット+電気属性の魔法の杖』と評すれば大体OK。相手が金属製鎧であろうと、感電させて内部から倒せる。

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