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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第五章 戦争編

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捨て石

前回のあらすじ


 二度目の戦闘を終え、停戦中の聖歌公国軍陣地。彼らは条約で禁止された魔法の行使に憤慨していた。理性を削ぐほどの強力な『狂化』は、効き目があり過ぎて戦争を悲惨な物に変えてしまう。山賊を踏み台にして発動されたソレ。何とか証拠をつかもうと、聖歌公国軍部は活動を考えた。

 聖歌公国軍の野営陣地の一角に、捕虜として拘束されている者達がいる。

 戦争中とはいえ……武器を置き、抵抗の意思を失った者を嬲るわけにはいかない。互いにやり過ぎれば禍根を生む。処遇は最低限だが、生命の保証はされていた。

 今回の戦闘においては、二グループに分けられていた。緑の国の正規軍と『不幸な横槍』として戦場をかき乱した、山賊どもである。

 一応両者を対面させたが、お互いに認識はないようだ。遠目で観察していたが、ひそひそと話す様子もない。むしろ緑の国側の人員が毛嫌いし、口喧嘩まで始まった程だ。今は軽い隔離が施され、物理的にも心情的にも距離を取っている。


 山賊組は、ほとんど足を負傷している。ポーションで治療はしているが、あまり高級品は使えない。安物のポーション故に、回復まで時間がかかりそうだ。荒っぽい連中だけあって、態度も協力的とは言えない。尋問を考えていた聖歌公国側だが、一人だけ――極めて消極的な態度だが――比較的協力的な亜竜種の山賊がいた。尋問役と亜竜種、そしてもう一人、肩に包帯を巻いた男が部屋の隅に立つ中、事情聴取が進んでいく。


「……君たち山賊団は、せっかちな追い剥ぎや死体漁りだった。だが今回の戦争においては、早めに距離を詰めるように指示を受けた。それは誰から?」

「お頭でス。他の盗賊連中も群がっているかラ、出遅れたら分け前が減るからっテ」

「実際、どうだったんだ?」

「本当の事だと思いまス。気配はしましタ」


 少し臆病そうに、窮屈そうな雰囲気を醸し出すその亜竜種は、晴嵐と侍が所属する傭兵隊が捕えた者だった。今回の騒動で、唯一『狂化』の魔法から逃れた人物である。負傷らしい負傷も無く、相手から攻撃された側な事、本人の口の軽さもあってスムーズだ。


「複数の山賊団が同じことを……確認は捕縛した者同士で所属を聞けば、真偽はわかるか。さて……これから重要な事を聞きたい。例の『焦げ茶色』の石についてだ」

「…………」


 亜竜種が俯く。尋問役が渋る。簡単に話せないのだろうか? 山賊は苦々しく首を振って答える。


「ボクらハ、全然知らなかったんでス。あんな事になるなんて事モ……」

「共鳴石と偽って渡されたそうだな。誰も違うと気が付かなかったのか?」

「……存在は知ってますけド、形までいちいち覚えてないでス。お金もないですシ、そんな事知らなくても生きていけまス。それにお頭がそう言うのだかラ、きっとそうなのだろうト……誰も疑ってませんでしタ」

「……どう思う? 傭兵の……セイランと言ったか。この状況は」


 部屋の隅にいた男……大平 晴嵐が腕を組み考える。

 何故彼がこの場にいるのかと言うと、咄嗟に石を投げ捨てた判断の速さを買われた事、その際亜竜種の山賊が、彼に対しては緩い態度を取っている点が、軍部の目に留まった。

 恐らく亜竜種側としては『彼が石を捨ててくれたお陰で助かった』と感じているのだろう。仏頂面の彼は、彼なりの考察を適当に述べる。


「捨て石だったのは『狂化』の魔法だけでなく、山賊下っ端もだった……のじゃろう」

「えッ……?」


 亜竜種の山賊……捨て石にされた者が絶句する。凍り付く当人を他所に、聖歌公国の軍属も苦く頷いた。


「だろうな。現に『狂化』した山賊のほとんどは絶命している。恐らく緑の国が、周辺の山賊に根回ししたのだろう。金か物かは知らないが、対価を渡して『狂化』を付与した輝金属を使わせた。配置のタイミングまで契約内だろう。言いづらいが……君らのお頭は、君たちを裏切った」

「ソ、そんナ……」

「裏切ってないなら、お頭とやらも現場に出てくるじゃろ。今回、組織の上の方にいる奴は参加してたか?」

「それハ……『今回はお前らに全部分け前をやる』『早い者勝ちで出来高制』っテ……」

「良いように騙されおって……」


 ――激しい戦闘のハイエナ狙い。褒められた行いじゃないが、不自然ではない。

 が、オイシイ話をしておいて、自分自身が飛びつかないなら……どこかに必ず裏がある。ようやく『使い捨てで利用された』と察した亜竜種が唾を飛ばしながら声を上げた。


「あいつラ……! カ、隠れ家を教えまス! ブッ潰してくれますカ!?」

「……信用して良いものか」

「ッ!」


 裏切られたのは確かなのだろう。同情しても良い。が、それで敵だった相手を信じれるかは別の話。不穏な空気を出す亜竜種と軍部に、晴嵐は「やめとけ」と切り出した。


「送り出した側が、生き残りを想定してないとは思えん。お主のように騙されたと知り、チクる奴がいる事も、頭に入れて動いておる筈」

「えぇト、つまリ?」

「もうお主が知っておる場所からは、山賊団は引き払っておるよ。それに……聖歌公国も兵力を回せん。確実に証拠があるなら話は別じゃが……」


 ちらりと目線を送った相手は、晴嵐の言わんとする事に同意していた。

 ここまで協力的な者を想像していなくても……裏切られたと知り、後から復讐を考える者を無視するとは思えない。現に捕縛した山賊が何人かいるのだ。それに軍を攻撃した負い目もあれば、とっとと逃げるが吉である。


「……君ら傭兵隊に頼むにしても、徒労に終わりそうだな」

「命令であれば従おう。じゃが期待は薄いとだけ」

「だろうな……仕方ない」

「仕方ないっテ……」


 不満と怒りを露わにする亜竜種。裏切られたと憤慨する山賊に、同情はするが慈悲は無い。比較的穏便な聖歌公国の兵に対し、晴嵐は淡々とした様子で言う。


「そう拗ねるモンでもなかろう? お前さんは確かにババを引いた。じゃが最低中の最悪は回避しておる。五体満足で証人になれた。後はその手札で上手くやれ」

「うゥ……」

「ところで……わしも一つ良いか?」


 晴嵐が聖歌公国の兵に質問する。何事かと構える相手に、やはり表面上は淡々と告げた。


「この魔法を見抜いた、スーディアと話したい」

「オークの彼か……何か気が付いたのか?」

「さて……そこは話してみないと分からん。ただ、あのお人良しとは知った顔なものでな。個人的にも、礼を」

「なるほど」


 特に揉める事もなく、スーディアの行先を聞き出した晴嵐。

 彼が向かった先は、負傷者を休ませる区画らしい。一通り役目を終えた晴嵐は、スーディアの所へ向かった。

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