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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第五章 戦争編

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切り結ぶ老兵

前回のあらすじ


 敵陣に飛び込んだ一人の亜竜種。白い鱗を持つその人物は、二刀流で用いる武具、釵の使って敵陣内で無双する。被害に怖気づき、下がる兵の中、一人の老兵『タグラス』が、その武人……『ハクナ・ヒュドラ』と対峙した。

 元亜竜種の吸血種、ハクナ・ヒュドラは生粋の武人だ。

 古くは千年前、『欲深き者ども』との戦争において……最初期に吸血種となった一人。主に指揮を担当していた『レリー・バキスタギス』と異なり、彼は最前線で敵を屠る兵の一人だった。

『歌姫』による、ユニゾティア連合が結成された初期……ようやく足並みがそろい始めた時期から、ハクナ・ヒュドラは歌姫の下、闘争に身を投じていた。

 数多の戦地を潜り抜け、無数の敵兵を釵で叩き伏せた。吸血種となる以前も、五英傑の一人『無限鬼』に一目置かれる戦士であった。


 戦死する間際、英傑から牙を賜り吸血種へ転生する。その後も何度か起きた『聖歌公国』と『緑の国』間の戦争でも、何度か戦線に赴いた記録があった。

 ――吸血種は英雄視され、政治的な力や発言力を持つ。しかしハクナ・ヒュドラは、あまり興味を持っていない。老化と無縁の存在となり、上位者の立場を得てもなお『武人』である事にこだわった。元種族の『亜竜種』の思想と特性を、かなり強く引き継いだ人物である。


「ユクゾッ!」


 歩法は低く、詰め方は刹那。亜竜種の肉体が対決者へ肉迫する。加速と重心移動、踏み出したのは数歩。文字にすればそれだけの挙動は、極まった鍛錬により神速と化す。瞬間移動めいた踏み込みは、誰の目にも捉えられない。

 だが視る事は不可能でも、動きを読む事は出来る。この歩法が、吸血種ハクナの基礎動作と老エルフの戦士は知っている。相手の呼吸、僅かな予備動作を読み、タグラスはククリナイフを空間に『置いた』

 異常な速力で詰めるなら、障害物を置くだけで牽制になる。機動力の高い亜竜種相手へ有効な戦術だ。


 当然ハクナも知っている。だから対策も講じている。飛び込む際に『釵を前方に構えて、剣を受ける状態』で前進していた。

 吸血種が神速で飛び込み、

 老エルフがククリナイフを置き

 ハクナが構えた釵で防ぐ。

 たったの一瞬。たったの一動作。この間で数手分を読み合う両者。初動は互角。次手はエルフ。干渉と同時に右手を払い、裏拳のようにその場で回る。独楽こまのように二回転と共に剣舞を見舞った。

 ハクナは守勢。隙あらば釵での武器破壊を狙えたが、老エルフは剣の高さを、半回転ごとに変え対策。無理な反撃はかえって危険と、亜竜の肉体でこらえた。

 三回転目の剣はフェイント。干渉を避けたククリの代わりに、腹部を狙った回し蹴りを放つ。上半身を固めていたハクナの腹に直撃し、快音が吸血種を打ち据えたかに思えた。


 が、タグラスは蹴りの反動を使い後退。何故……と見守るエルフ兵は、亜竜の赤い目が全く動じていない事に気がつく。確かに直撃した蹴りは、鍛え上げられた腹筋に弾かれている。ブ厚い筋肉が衝撃を分散した音だったのだ。

 危険を察知し、間合いと取ったのも流石なら――距離を取った瞬間、釵を投擲したハクナも卓越していた。老エルフは間を置き一息、こうとしたのだろう。乱打からテンポを一度落ち着かせ、仕切り直しと考えていたのだろう。

 ハクナは相手を休ませない。ククリで釵を弾いている間に、再び近距離に張り付く。順手で握った釵で刺突を狙った。


 老エルフは剣で防がず、『鎧の腕甲』を起動させ防御態勢。しかしハクナ相手では貫通は必死。真っ直ぐ迫る釵の突きを、老戦士は経験でさばいた。

 強引にさらに後ろへ飛ぶ。その後の姿勢を考えず、突きと同じベクトルの力を加え、相対的な速度を緩める。直撃したが致命は避けた。地面を数回転がるが、これは『鎧の腕甲』で保護し負傷を防ぐ。これで一連の攻防は終わり――とはならない。すぐさま亜竜種の持つ尻尾が、転がる老兵を潰しにかかった。


 反射的にククリを構え、タグラスは逆襲を試みた。上部から迫る白い尻尾を、カウンターで切断を狙う。背を向け攻撃態勢に入ったハクナに、察知する手段はない。

 なのに、だ。いかなる勘が働いたと言うのか? 真っ直ぐ振り下ろす軌道が横薙ぎに逸れ、老エルフの狙いを阻む。干渉する尻尾とククリは、流石に金属側に分が良い。表面の鱗が何枚か削げ落ち、吸血種の戦士を引かせたが……有効打とは言えない。老兵が立ち上がり再度構えなおした時には、ハクナは『水鏡の釵』を『二つ』構えていた。

 ――この攻防、僅か一分。短いながら、何たる濃いやり取りか。しかし濃密な時間の中で、釵を拾いなおす余裕は無かった。予備を取り出す動作もなく、一体いつの間に?


 否――ハクナ・ヒュドラは投擲した釵を拾っていない。彼の輝金属武器であれば、拾う必要が無い。

『水鏡の釵』の本体は一本。先ほどから投擲に用いているのは『魔法で精錬した、質量を持った鏡像』だ。

 本体の一本に気力を流せば……左右反転した鏡像を、無制限に生成できる輝金属武器である。元々『釵』は左右対称の武器。鏡写しにしたところで、使い勝手は変わらない。

 使用者の手を離れて一分ほどで、鏡像は消失するが……投擲に使う間なら『実体の形を維持できる』のだ。

 これにより、投擲本数は実質無制限。携行する釵の本数も一本で良い。他の効果を持たない故に、鏡写し系の武具は評価が低くなりがちだが……ハクナ・ヒュドラが用いれば、恐ろしい武具と化す。

 何よりまだ……この攻防は小手調べに過ぎない。

 ハクナ・ヒュドラと『水鏡の釵』の真髄は、ここから発揮されるのだ――


用語解説


 水鏡のさい

 質量のある鏡像を生成する、輝金属の武具。左右が反転した鏡像を生成する魔法だが、釵は影響が少ない武器。投擲に用いる事もある釵と相性が良い魔法。ただし、一般的にはマイナーとされる属性である。

 鏡像は使用者の手を離れて、一分ほどで消滅する。

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