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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第五章 戦争編

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閉じる空、飛び込む戦士

前回のあらすじ


 狂った山賊達と対峙する傭兵部隊に、立体旗ホロフラグから通信が入った。声の主はスーディア・イクス。魔法の正体が「狂化」と言う事、対策として即死を取る以外に、足を潰す事が有効と伝え、増援も近づいていると言う。何とか持ちこたえた傭兵隊だが、戦力を送って大丈夫かと疑う。そのころ中央では、戦局が動きを見せていた。

 聖歌公国、緑の国両軍の激突は、中央での戦闘が激化していた。

 緑の国軍が攻勢を強めた事、側面からの『不幸な横槍』と同時に仕掛けた所は判別の方法がなかった筈だが、タイミングは完璧に近い。亜竜種空戦部隊が去った事もあり、空中戦は緑の国側が優勢に見える。

 けれども、聖歌公国側に焦りはない。戦闘開始からかなりの時間が経過しており、そろそろ空戦部隊は『時間切れ』が迫っていた。


「空戦部隊、もう魔力に余裕がありません」

『了解した。トルピードを地上部隊に準備させる。君たちは速やかに空域から離脱してくれ。不安要素もある中、よくやってくれた』

「彼らはどうなりましたか?」

『おおむね良しだ』


 戦闘中に、余計な長話は出来ない。最小で伝えつつ、聖歌公国軍は空戦部隊に撤退を指示した。押せ押せで来ていた緑の国空戦部隊は、これを機に前進できそうに思える。しかしここには、空戦における一つのセオリーが存在していた。強力な対空間魔法……『トルピード』が抑止力となる。

 聖歌公国軍、空戦部隊の撤退後――同陣営から三又の槍が投げ入れられた。投擲用としてはやや造形が悪い。本来投げ槍は余計な空気抵抗を抑えるため、シンプルな直槍の形状をしている。三又槍トライデントは近接戦用だが、事この魔法を付与するには『この形状』である必要があった。


 三又の槍が輝金属の光をたたえ、二つあるU字状のへこみにエネルギーを収縮。地上で戦闘中の真上で『トルピード』が炸裂した。

 キィン……! と高い金属音が響き渡り、空で様子見を続けていた者の挙動が怪しくなる。今まで自由に空を泳いでいた『人魚族』さえ、急に姿勢を乱していた。頭を押さえて苦しみながら、自陣営側に下がっていく。次の『トルピード』が着弾する前に、すべての空戦部隊が撤退を始めた。

『トルピード』の効果は空中において……三次元戦闘において特に致命的になる。特殊な音波を発生させ、三半規管を狂わせる効力を持つのだ。

 地上で喰らった場合、少しの目眩めまい程度で済む。けれど空中や水中で喰らった場合、方向が完全にグチャグチャになってしまうのだ。

 上下も分らない、前後も分らない。後退するつもりで、地面に思いっきり頭から突っ込んでしまったり……姿勢を制御しきれず、地面に墜落する危険もある。鳥を狩る時にも用いられるこの魔法は、対空魔法として普及していた。

 欠点があるとすれば、効果範囲が広すぎる事だろうか。敵味方の識別が難しく、乱戦下で撃てば味方も巻き込んでしまう。

 しかし空戦部隊が撤退中なら、相手陣営側に投射出来る。緑の国側の空戦部隊も、合わせて撤退を開始した。


「――こちらも魔力切れですし、戦局としては『辛勝』でしょう」


 空中に飛び交う『トルピード』は、もちろん緑の国側も用意している。

『相手側だけにトルピードを使わせた』事が、彼ら側の戦果と言えよう。……比べても良いのか分からない、僅かな差だが。

 空中に展開した隊が下がり、地上戦が激化する。その最中に一人、白い鱗と赤い瞳の亜竜種がいた。

 右手に釵を握り、左手は素手のように見える。だが戦士が虚空を握る動作をすると、何もない空間から釵が出現した。

 二刀流が釵の基本。両脇に十手めいた突起と、鋭く伸びた細見の刀身が特徴的な武具だ。格闘戦を好む亜竜種の中でも、一部の使い手が用いる近接武器である。


「参ル……!」


 両足と尻尾で大地を踏みしめ、その戦士は久々の実戦に鼓動を高鳴らせる。武を重んじる気質は亜竜種共通。たとえそれが鉄火場であろうとも、だ。

 ぐっ、と低く腰を落とし、白い鱗の亜竜種が力を溜める。地面に接地した三つの支点が、大地を強く踏みしめる。敵軍との間合いは6~7メートルはあるだろうか? 緑の国前衛は、その人物を注視は出来ない。目立つ色合いの亜竜種だが、格闘戦の距離感ではない。誰もがそう思った。


 次の瞬間――白い亜竜種は『跳んだ』


 両足、尻尾、背筋、胸筋

全身の筋肉は滑らかに。肉体は矢じりのように低く鋭く。余計な力はすべて抜き、必要な力は最大に。

 それは魔法を用いた物ではない。純粋な戦士としての基礎とセンスで……その亜竜種は数歩で敵陣に食いついた。


「え……?」


 まだ遠方だと思い込んでいた敵が、刹那の内に眼前に迫る。現実離れした技を、脳の理解が追い付かず、対峙した兵はぼんやりと見つめるしかない。敵を敵と認識し、鎧の腕甲を発動させた兵士は、既に膝から崩れ落ちていた。

 距離を詰めると同時に、釵の先端が腹部を貫いている。魔法の防壁が発動するより早く、亜竜種の刺突が致命傷を与えていた。

 仕留めた相手を踏み台に、敵陣奥地へと跳躍する亜竜種。血で濡れた左手の釵を投げつけ、着地地点にいた相手の頭部を串刺しにした。

 赤い蛇めいた眼光で睨むと、敵兵は怯み、そしていきり立った。複数方向から迫る槍を、二つは回避、一つを釵でいなし、後方からの槍は尻尾で巻き取り、なんとそのまま奪い取ってしまった。


「!?」

「なんだコイツ!?」


 確実に獲った。確信していた兵が、投擲された釵を直撃。尻尾で握った槍も振り回し、飛び込んだ敵陣が、円状に間を広げる。

 中心にたたずみ、単独で飛びこんだ白い鱗の亜竜種は……二本の釵と奪った槍を、敵へ油断なく向けていた。

用語解説


トルピード

 対空間魔法の一つ。特殊な音波を炸裂させ、浴びた者は空間認識能力がスタンしてしまう。陸なら目眩で済むが、空中で喰らった場合……上下、左右、前後の認識がグチャグチャになり、飛行所ではなくなる。

 音波を用いた魔法のため、効果範囲が広いが……友軍を巻き込みやすい欠点がある。

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