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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第五章 戦争編

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二足歩行の獣たち

前回のあらすじ


 草原から現れた敵に、対応しようとする聖歌公国。しかし緑の国の軍勢が攻勢を強め、増援を送ることが難しい状況に。示し合せたかのようなタイミングに苛立つ。危険な状況に、ある人物が出陣。さらに兵の一人が対策を知っているという。

 そのころ現場では、戦闘が激化していた。

 死体漁りを目論もくろんでいた山賊達。焦げ茶色の石ころが原因で、理性を蒸発させ『聖歌公国軍』に迫りくる。左翼方面に広がる湿原近くで、少数の傭兵と空戦部隊の戦闘が続いていた。


「「「グオオオオオォォォオッ!!」」」


 悪魔が喉を鳴らすかのようだ。緑の国、聖歌公国の両軍も、その叫びが聞こえた時は一瞬戦闘が停止しまう程だ。限界を無理やり外されたかのような声の前で、少数の傭兵部隊は矢面に立つ。彼らは『旗持』を守るように展開し、理性のない者と対決した。


「来るぞ! 注意しろ!」

「おうっ!」

「死んでたまるか……!」


 統一感のない、それぞれが得意とする武器を構える。傭兵の一人、晴嵐は投げナイフの残量を確かめ、侍は刀を体の中心に構える。

 飛び出したのは三人。オークとドワーフと亜竜種の山賊だ。ボロボロの装備に血走った目、正気のない人々が襲い掛かって来る……!

 傭兵の一人が『盾の腕甲』を展開し、片手斧を振りかぶる敵を受け止めた。甲高い干渉音は、両手持ちの武器に匹敵する。激しく点滅する魔法の盾越しに、牙を剥くオークの形相があった。

 まるで、檻越しに吠える肉食獣のようだ。力任せに、素手でも盾を殴りつけてくる。言葉は無くても伝わる殺意を、横から飛んだナイフが断ち切った。投げナイフが首に突き刺さり、直撃を受けた敵が息絶える。何度か手を動かし、もがいてから倒れて死んだ。

 だがその瞬間、ナイフを投げた晴嵐の所に敵が迫りくる。すぐに次のナイフを左手で二本抜き、首を狙って投擲した。

 しかし焦りがあったのか、それとも咄嗟の行動で精度を欠いたのか……ナイフは首の付け根、肩部分に刺さってしまう。普通の相手なら十分なダメージになる一撃は、こと奴らには通じない。


「ッ!」


 大剣を斜めに構えた相手に対し、晴嵐は逆に低く飛び込んだ。振りかぶった敵の脇をすり抜ける。ぶおん! と重量物が大気を切り裂く音が、彼の恐怖を駆り立てる。直撃したら鎧の腕甲でも防げたか怪しい。

 ――ましてや晴嵐が装備しているのは、廉価版の『鎧の腕輪』だ。防壁を展開しても、異常な腕力で打ち砕かれていただろう。今度は愛用のサバイバルナイフを抜き、次の攻撃に備える。

 が、それは不要な心配だった。侍の男が体制を崩した山賊へ、鋭く一突きを見舞い心臓を穿つ。流れるように刃を抜き、最後の一人に向けて低く腰を落とす。


 原始的な棍棒を構える最後の敵。頭をカチ割ろうと振り下ろす一撃を、侍は気迫と共に躍動した。

 長刀とは思えない挙動だった。次の一瞬で三歩ほど後退すると、切り払うと同時に相手の勢いを利用し、棍棒を握った手首を切り落としていた。体捌きも技量も尋常ではない。落とされた手が鮮血をまき散らすが……奴はそれでも止まらない。無事なもう片方を握りしめ、侍へ突撃していく。

 それを通すほど傭兵も甘くない。横から鋭くタックルを食らわせ、敵を地面に転がせる。立ち上がる暇を与えず、侍が首を刎ねて仕留めた。

 本当ならここで一息つきたいが……元山賊の亜竜種が草原を指さす。


「ツ、次が来てまス!」

「ああクソっ! 何人来るんだ……!?」

「同時に攻めて来んだけマシじゃろ!」

「なんの慰めにもならねぇって!」


 既に何度か『奴ら』を撃破したこの傭兵隊は、かなり耐えている部隊の一つだ。転がる骸は十を超え、部隊全員が返り血を浴びている。

 確実に相手の急所を狙い、命を奪い取る戦闘。痛覚も恐怖もない敵を止める方法は他にない。首か心臓を切り捨て、あるいは頭部を打撃武器で破壊するやり方は、戦地と傭兵を悲惨に彩る。精神も体力も削られていく中、追加の敵が五名ほど出現した。

 休む間もなくやって来る敵。波状攻撃に晒される中、侍は刀を構え呼吸を整えた。


「ふーっ……ふーっ……! ふぅっ!」


 次々迫りくる敵に対し、もう一度剣を横薙ぎに振るう。すれ違い様に一人首を刎ねたが、残り四人は間合いの外。今まではすぐ駆けつけていたが、疲労が侍の動きを鈍らせた。

 晴嵐の投げナイフも、精度が悪くなりつつある。今まで三本投げていれば、首か心臓へ命中していた。だが今は五本使っても、肩や腹、肺を貫くだけで即死が取れない。


(これで怯まないのは反則じゃな……!)


 肩はともかく、腹部や肺は重症になる。下手に動けはそのうち死ぬし、激しい痛みで動きを止めれるのに……こいつらにはソレが無い。心や生存意欲が無い……生きた死兵のようで、獣のようで……果てしなく不気味で恐ろしい。

 呑まれかけた心に喝を入れ、すぐに晴嵐はサバイバルナイフを抜刀。相手のレイピアを受け流し、今度は首筋を逃さず切り裂く。

 確実に潰した、命を獲った一撃。返り血を浴びた晴嵐の目に、牙を剥く山賊の姿が見えた。

 血流で視界が通らず、反応が遅れた晴嵐。倒れ込むように男の肩に寄りかかり、なんと死に際の体で噛みついてきた。


「ぐッ……! つぅっ!!」


 不潔な歯が体に食い込む感触と、強烈な痛みと不快感が入り込んで来る。過去の経験がフラッシュバックし――晴嵐は気力を振り絞り、組み付いた敵を突き飛ばした。

 火事場の馬鹿力が出たのだろう。地べたに倒れた敵は、受けた傷から激しく血を流し、やっと絶命する。


「はぁっ……くそ……全く、嫌なものを思い出させる……」

「大丈夫か!?」

「何とか……他の奴らは?」

「生きてるよ」

「一応だけど、な」

「まだ居そウ……こんなに山賊が集まるなんて変ダ。そんなに仲は良くないのニ!」

「……生きて帰れば、色々と分かりそうじゃが……」


 このままでは全滅も近い。疲れ切った彼らは、心から滲む絶望を抑えられずにいる。魔法の旗のお陰で、壊走はしていないが……それも時間の問題のように思えた。

 ちらりと晴嵐が旗の方を見る。肩で息をする旗持の傭兵が、ふと虚空を見つめて何事か呟き始める。まさか頭をやられたか? 不吉な想像をする一同も目に入らず、旗持が頷き何か操作をした。

 ――周辺に声が響く。周りにも聞こえるように調整したのだろう。響く声色を晴嵐は知っていた。鼓舞するように、勇気づけるように、スーディア・イクスが告げる。


『傭兵隊、空戦部隊! よく耐えた! 聞いてくれ! その者たちの……『狂化』した者への対策を教える!』


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