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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第五章 戦争編

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修羅場の到来

前回のあらすじ


 投げ捨てた焦げ茶色の石が閃光を放ち、草むらの中から山賊の咆哮が聞こえてくる。危険な気配に身構える中、現れたのは理性を失った山賊。晴嵐が応戦するが、全く痛みを感じる様子が無い。侍が首を切り、致命傷を負わせても数歩動いている。何が起きたか分からないが、尋常な事ではない。――その狂った連中の気配が、草むらの中からいくつも聞こえて来ていた……

 何が起きたのか、聖歌公国軍本陣も把握していなかった。

 伏兵らしき何かがいる……としか報告を受けておらず、主戦場から兵員を送らずに、傭兵に対応を任せていた。しかし、草原地帯で発生した謎の閃光は、本陣からでも確認できた。不吉に感じた直後、傭兵と空戦部隊の両方から増援要請。すぐさま対応しようとしたその時、前線の兵員からも悲鳴が上がった。


『緑の国全軍、押し込んできます!』

『今度は中央だけじゃない! 右翼、左翼共に前進を開始! 後衛や空戦部隊も連動しています!』

「なんだと!?」


突然の事態に混乱する中、敵軍も攻勢に出たという。これでは前衛が釘付けだ。出現したのは左翼側。兵員を割くのは難しい。かといって放置すれば、横やりは聖歌公国軍本体の脅威になる……


「こんな時に……! 機と見て攻め上がって来たのか!? タイミングの悪い……!」

「いや、偶然にしては早すぎる。閃光が見えたとしても、敵側はまだ原因まで分からない時期だ。普通の思考なら様子を見て、こちらに混乱が見えてから攻勢に出る……これは狙ったとしか思えない」

「しかしレプタル将軍、傭兵とスィマンスの報告によると……どうも伏兵はせっかちな追い剥ぎ、山賊や野盗の類のようです。緑の国の正規兵と、連携が可能でしょうか……?」

「確かに疑問が残るが……この仕掛けを不幸な横槍で片づけられるか?」


 静かな怒りを見せる亜竜種の将軍。どんな手段を用いたのかは知らないが、今考えるべきは敵勢力への対応だ。緑の国全軍への対応と、突然発生した『暴走山賊』を抑えなければならない。陣形を見直し、これでは総崩れになると察し、全軍の戦線を下げようとしたその時――テントの奥から、一人の亜竜種が顔を出す。


「あ、あなた様は……何故ここに……?」

「我モ、武を示ス」


 たった一言発したその人物に、軍師達が姿勢を正しこうべを垂れる。

 懐から愛用の釵を握りしめ――ゆらりと怒りのオーラを発しながら、その重鎮は戦地へ赴く。見送る人員が立ち尽くす中、新しい報告が戦場から届く。


『聞こえますか! 本部! 先ほどの閃光……いえ、発動した魔法について、覚えのある兵士が一人いるそうです! 至急報告したく!』

「こちらはレプタル将軍だ。些細でも構わない。聞かせくれ」

『はい! 代わります!

 ――俺はスーディアと言います。あれは『狂化』の魔法です!』

「本当か? あの魔法は……国家間で禁止された魔法だ。何故君はそれを……」

『俺はオークです。蛮族からの伝手つてで……』

「なるほど……深くは問わない。対策は分かるか?」

『はい! すぐに全軍に伝えてください!!』


 戦線にいた一人のオーク。彼は発動した魔法の正体を知り、対策も知っていると言う。

 予断を許さない戦況の中、焦燥に身を焼かれながら……レプタル将軍は彼の言葉を、一つ一つ飲み込んでいった。


***


 理性を失った山賊たちは、痛覚を無視し、自らの生存を無視し、人の形をした獣となりて襲い来る。

 否、それは獣とすら呼べない『何か』だ。

 たとえ野獣だとしても、痛みも恐怖も失ったりしない。むしろ野性的な動物の方が、命に対して忠実で誠実だろう。生命は絶対に死にたくないのだ。

死を恐れず……と言えば英雄的だが、しかしその表現は英雄への冒涜だろう。

『死を感じつつも恐れない』事と、

『死の恐怖を無視する』事は違う。

 英雄は前者が該当し、後者は傭兵隊が対峙する狂った山賊達の事だ。


「ハハ、これはいよいよ修羅場であるな……」


 侍は静かに呟く。完全に気の触れた山賊どもが、草丈の先から近づいてくる。突然の展開に顔が引きつる傭兵たち。今までやる気の無い様子で、派手な戦果を求めていた者も怯えていた。


「俺たち、生きて帰れるのか……?」

「さて、どうであろうな? なんにせよ、死力を尽くすしかあるまい」


 飄々とした言葉と裏腹に、腹を決めた侍は構える。彼に続くように、晴嵐も考えを述べた。


「奴らは死や痛みを無視してくる。半端な攻撃は意味が無い。急所を狙うしかないが、数手分は動ける。地を這うまで油断するな」

「……それしかないか。みんな、旗持の所に集まろう。今でさえ怖気づいているんだ。魔法が切れたら終わりだろう。旗持、自衛を最優先してくれ」

「あぁ……そうだな」


 自然と集まり無駄口が止んだ。

 立体旗ホロフラグの使い手は傭兵の中にもいる。正規軍の外でも、友軍として契約しているのだから当然だ。今までは敵に察知されるのを恐れ、大きく展開はしていなかったが、最初の一人を倒した後は起動している。本部へ報告した所『撤退は許可できない』だそうだ。さらに悪い事態は続く。


「……緑の国の攻勢が強まったらしい。しばらく援軍は送れないだとさ」

「最高……」

「ハハハ……待ちに待った見せ場よな。喜べ」

「ふざけるな。楽して稼げると思っとったのに……」

「だったら生きて帰り、報酬上乗せを期待しましょうか」

「いいね。んでカワイイねーちゃんに、ちょっと自慢気に語ろうぜ」


 軽口をたたいてないとやってられない。

 大地を踏み鳴らす理性蒸発者。

 生きて帰れる希望は薄く、もしかしたら全滅もあり得る。

 血走った二足歩行の獣たちと傭兵の、抵抗戦が始まった。

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