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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第五章 戦争編

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痛みを知らぬ者達

前回のあらすじ


 無力化した者を問い詰めると、あっさりと所属を吐いた。この辺りを根城とする山賊や野盗らしく、戦闘後の死体漁りを狙っていたらしい。だが詰めるには早すぎるし、味方として識別するための石ころは偽物。危険と感じた晴嵐が石を投げ捨てた直後、あちらこちらで閃光が弾けた……

 その叫び声は人の物だったと思う。思う、と断言を避けてしまうのは、あまりに悲痛で獣じみた咆哮だったから。

 叫び声は周囲の草むらから響いた。恐らくはここに居た、山賊と同じハイエナ狙いだろう。ここに居た連中とは別で、死体漁りを狙っていたのだ。

 隠れ方が上手かったのか、それとも発見が遅れたのか不明だが……ともかく彼らも『焦げ茶色の石ころ』を持っていたのだろう。各所から叫び声が聞こえた瞬間、周辺に焦げ茶色の光が、一瞬だけ閃光のように弾けた気がした。


「なんだ……? 何が起きた……!?」

「ひえぇェ……」


 詳細は分からない。けれど誰もが理解した。不吉な何かが起きたのだと。

 反応が早かったのは二人。終末から来た男と、武人祭にも出ていたらしい侍の男だ。晴嵐は上空に向けて叫ぶ。


「空の亜竜種! 敵の配置は見えたか!?」

「正確には分からないガ、閃光の位置なら記憶しタ!」

「なら……お主の判断で良い! 友軍の側面を突かれそうな位置に降りて、援軍を要請しつつ時間を稼げ! どう考えたって……これは聖歌公国軍への攻撃じゃ!!」

「同感だガ……しかし君らはどうすル!?」


傍でいくつか、焦げ茶色の閃光が発生している。うち一つは晴嵐が投げ捨てた石ころの方角だ。爆弾の一つは処理できたようだが、それでもたった一個だけ。周辺で吠え盛る獣の気配が、通らない視界の先から迫ってきている。

 確実に近づく危険を前に、侍は肩の力を抜けたような諦めたような、それでいて鋭い『気』を発しつつ、刀を抜き答える。


「図らずとも最前線に身を置いている。脅威を前に、尻尾を巻いて逃げる訳にもいくまいよ。なぁに、脇役に活躍の機会が来たのだ。武を示す良い機会であろうて。仮にここで散ろうとも……一つ派手に、仇花を咲かせるとするさ」

「そうカ……幸運を祈ル!」

「貴殿にも武運があらん事を!」


 未練を捨てた亜竜種の空戦隊が去る。入れ替わるように、獰猛な殺気が迫って来る。誰に言われるまでもなく、傭兵たちは敵の気配に備え武器を構えた。

 飛び出したのは山賊の一味。ただしその瞳は赤く充血し、開いた口から獣のような唸り声をあげている。正気を失い、敵意をむき出しにしたソイツは、手にした棍棒を振り上げた。


「ガアアアアアア!」

「――!」


 重圧が肌を焼き、傭兵たちが威圧される。奇妙な感覚だが、まるで危険な猛獣に威嚇されたような……人離れしたプレッシャーが魂を怯えさせる。脅威に対し、晴嵐が反射的にナイフを投擲した。三本の刃物は足止め狙い。とりあえず傷をつけ、痛みで相手の勢いを削ぐ牽制の一手だ。

 彼にも焦りがあったのだろう。一本は外れたが、二本は命中。うち一つは右の太ももを貫いた。なのに――


「オオオアアァアアッ!!」

「な!?」


 ソイツはまるで、一切の痛みを感じていないように……それどころか、ますます勢いを増して棍棒を叩きつけた。男が体を転がし避けた後に、棍棒が地面を穿った。

 信じられない事に、その一撃で棍棒が折れてしまった。過剰な力を受けて、武器の方が耐える事が出来なかったのだ。


(なんじゃコイツ……!?)


 完全な痛覚の無視に、異常な筋力と血走った瞳。喉からは理性が失われ、全身からは猛獣じみた殺気を発している。見た目は先ほど遭遇した、みすぼらしい山賊と変わりがないのに。

 彼は追加で刃物を投げつけるが、相手は命中しても気にしない。血が噴き出し、一瞬だけ体が揺らぐだけで、変貌した山賊はそれでも止まらない……!

 あまりの事態に思考を止めてしまう。まさか不死身にでもなったのか? その代償に理性を捧げたとでも言うのか? 晴嵐さえも敵に呑まれかける中、侍の男が流れを断ち切る。

 手には日本刀。刃渡りの長い大型の刀。刃のない峰は僅かに青く、輝金属で鍛えられた刀を握りしめる。痛みを感じない狂った山賊に、恐れる事なく立ち向かう。


「キエエエェイッ!」


 圧を跳ねのけるように、気合を込めて剣戟一閃。水平に振るった刃は首筋を捉え、骨は断てずとも数センチ切り裂いた。

 それでも――首であれば致命傷だ。脳を支える筋肉と、栄養を送る血液の通り道。その部位の損傷は、かすり傷でも落命し得る。

侍の狙いは明白だった。『敵が痛みを感じないなら即死させればいい』。いくら精神が暴走していようが、肉体は普通の人間の筈だ。やや間を置いて鮮血が噴き出し、侍の着物を赤く染める。

 なのに――絶命必死の一撃を受けても、山賊は拳で侍を狙った。


「なんと!?」


 これには侍も絶句した。切られた首の傷を抑えもせず、また何か叫ぼうとしたと同時に、激しく一度出血し地面に倒れ込んだ。

 それでようやく、山賊は戦闘行為をやめた。地に伏したまま何度か痙攣し、大地に血液を注いでいく。それでも警戒を続ける侍と晴嵐。傭兵たちも目を離せない。徐々に力を失い、完全に止まった所でやっと一息つけた。ほんの数分も経過していないが、全員が強い疲労感を覚えている。


「なんだ……なんなんだこいつら……」

「……分からぬ。分からぬがこれは尋常ではない。何をした? 何をされたのだ……?」

「ヒィイイイッ!!」

「……もっと悪い知らせがある。周囲に聞き耳を立ててみろ」


 痛覚を失った猛獣の声は、周囲からいくつも上がっている。争う亜竜種の声も聞こえてくる。この怪物じみた山賊どもが、まだ何人も居ると言うのか……?


「これでは……緑の国と対峙している場合では……」

「それ以前に、わしらの命を心配せねばならないの……」


 近づく獣めいた気配。引きつった顔で互いを見合わせ、恐怖に押されながらも戦う覚悟を決める。

 狂った山賊の群れは、次々と彼らと聖歌公国軍に襲い掛かった。

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