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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第一章 異世界編

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不条理

前回のあらすじ


 物置にたどり着いた二人は、必要なブツを奪い取り、この後の逃走に備える。晴嵐は『共鳴石』を仕込み、村からの仕事を終えた。

 全身の筋肉が悲鳴を上げ、スーディアの四肢と額に汗が落ちる。疲労を滲ませた彼に対し、長はまだまだ余裕を持っていた。友の苦境に顔をしかめ、懐の得物をラングレーが確かめる。


(……わかっちゃいたが、こうなるよな)


 スーディアの戦い方は柔軟だ。相手の動きを読み、手を読み、それに対し『盾の腕甲』とレイピアを振りかざす。と、表現すれば聞こえはいいが、このスタイルは神経を使う。判断と思考の度に彼の精神はすり減り、凄まじい速度で気力が削られる。単純明快な戦術の長よりも消耗は早く、勝利は厳しいと予想していたが、ここまで差がついてしまうとは。


(時間は十分稼いだ、そろそろスーディア連れて逃げるかね)


 密かに隙を伺うラングレー。じっと二人の対決を見つめている内に、友の剣に違和感を覚えた。

 透き通るような青いレイピアが、いつもより深く濃い藍色に変化している……ように思える。普段の色が青空の色なら、今の色は深い海の蒼だ。対決する二人は、変質に気が付いていない。


「こうなるのは目に見えていただろう。今からでも遅くない、剣を――」


 余裕を見せて語る敵に剣で答える。熱くなった友は遊ばれていた。『鎧の腕甲』も使用せず、大剣で楽々と長は受け流している。

 がむしゃらに戦っても、状況は変わらない。金属音を連続させても、スーディアは消耗していくだけ。友が倒れる前に間に入ろうとしたその時。

 剣が、淡く光を帯びた。

 太陽光の反射ではない。剣そのものが小さく発光を始めている。対峙する二人は気づいてないが、ラングレーは気になった。

 初めての現象にラングレーは戸惑う。古ぼけた遺跡で手にしたレイピアは、特殊な機能はないはずだ。何度か確かめたが、特別な魔法は発揮されなかった。

 膨れ上がる力を彼は感知する。内部で魔力が渦巻いているのを。細身の剣の中で、異様な何かが圧縮されているのを。

 想起されるのは熱だ。スーディアの怒りや衝動を吸い、研ぎ澄まされた灼熱の気配が膨らんでいる。剣の方が戦士を導く様に、真っすぐ、大剣目がけて振り下ろされた。

 無謀の極みだ。質量も違う。強度も違う。そもそもレイピアは刺突用の剣で、大剣と打ちあうことは想定していない。剣を寝かせて防御する長は、両腕の筋肉を鳴動させて待機している。このままレイピアが跳ね飛ばされて、決着がつくと誰もが予想した。がむしゃらに剣を振るスーディアを除いて。

 次の瞬間、閃光を発しながら――レイピア“が”大剣を切断した。

 ほとんど抵抗も衝撃もないまま、鉄の塊が真っ二つに引き裂かれる。ごとりと剣が半分に切り捨てられ、完全な予想外に長は呆然と目を剝いた。


「――は?」


 切断面は……炉から取り出した金属の様に、赤く熱され融解している。地面の草が焦げた臭いを発し、高い温度に達していた。

 硬直するオーク達の中で、スーディアだけは早かった。『盾の腕甲』を起動させ、もう一度シールドバッシュを打ち込む。腕部に二発殴りつけ、握りが緩んだ瞬間に蹴りを叩きこむ。

 カランと乾いた音を立て、大剣の柄側が地面に投げ出される。驚愕の中に絶望と焦りを交えて、長が反逆者を大きく開いた目で見上げた。


「ば、馬鹿な……貴様……! 卑怯な!」


 長の叫び声はどこか虚しい。スーディアは答える余裕も持てず、肩で息をして現状を見つめている。自身が起こした事さえあやふやで、ただ必死に戦い、手にした結果を受け止めているように思えた。

 代わりに、ラングレーが友の心情を代弁する。


(アンタの慢心が招いた結果だろ)


 客観視していたラングレーは、軽蔑を込めて反論を叩きつける。

 優位にあぐらをかいて戦闘を長引かせ、『鎧の腕甲』も発動させずに侮って……防御に使った大剣を失い、動揺してその後の打撃に『鎧の腕甲』を起動しない未熟。これを慢心と呼ばず何と呼ぶ。

 ――とはいえ、不思議に思うこともある。

 あの古ぼけた剣の、あの刹那に発現した力は見たことも聞いたこともない。一体何を条件に起動したのだろう? 効果は想像つくが“大剣を溶断できる出力”は、この目で見ても信じられなかった。あの剣は一体……? 後ろに控えるラングレーと裏腹に、反逆者のオークは長に剣を突き付ける。


「……決着はついた。後は俺の好きにさせてもらう」

「く……よかろうスーディア。お前を補佐に……」

「そんなものは望まない」


 ばっさりと切り捨てて、切っ先を向けるスーディア。このまま剣を振り下ろすと思いきや、油断なく構えたまま殺気を抑える。

 代わりに噴出するのは怒気だ。今まで彼が溜め込んできた憤怒を乗せ、それでも礼をかかさずに長に説く。


「まかりなりにも、俺はあなたに養われていた。恩義はある。それでも……ここの空気はうんざりだ」

「本気で外に出るのか。おれを排し、群れの長に収まる気はないのか」

「あなたを引き継ぐ気はない。俺はここを、この群れを出る。そして彼女もあるべき場所へ返してもらう」


 全てのきっかけは、彼女から始まった。あの少女を、長が強引に奪ったことが始まり。今まで腹の内に溜めていた不満が、今回のことで火がついた。


「……連れてこい」

「必要ない。もうすべて終わっている」


 ちら、と友が視線を上にやった。ラングレーも合わせて顔を上げると……洞窟の上側、群れのオーク達の死角に、一人の男がこちらに視線を注いでいる。協力者の男だ。

 どうやら仕事を終えて、オーク二人の戦いを見守っていたらしい。男はラングレーと目を合わせ、親指で背中側を示した。その後もジェスチャーは続き、体を拭く所作を見せる。

 想像を働かせ、彼の意図をくみ取る。男が指し示した方角は泉の方向と同じ、そこでの合流の提案か? 周りに悟られぬよう小さく頷くと、男は奥側へ消えていく。

 そしてスーディアも群れから背を向け、剣を収めて外へ歩み出す。慌ててラングレーも続いた。


「今まで世話になりました。けれど……もう会うことはないでしょう」


 最後、彼は顔を合わせず呟き、堂々と背を伸ばし森へと消える。

 オークの群れは無言で見送り、残るのは折れた剣と長のみであった。

スーディアのレイピア


 詳細不明。当人たちは遺跡から発見した一本と言っている。青く透き通る刀身のレイピアだが……特定条件を満たすと、大剣すら切断可能な謎の剣。

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