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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第五章 戦争編

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次戦への備え

前回のあらすじ


 追撃か、中断か。現場の意見が割れる中、はるか上空から『溶岩投石器マグマスロワー』による攻撃が降り注ぐ。友軍ごと焼き払う攻撃を受け、聖歌公国軍は後退を開始。

 かくして聖歌公国、緑の国両軍の初戦は終わった。

 聖歌公国と緑の国の戦争……その初戦は聖歌公国軍側が、終始有利に盤面を運んでいたと言えるだろう。

 初動の左翼側の衝突も、亜竜種の戦士たちがやや押していた。中央は緑の国軍が押していたように見えるが……実態はエルフの面々が戦地でオークと相対した結果、感情を爆発させていた結果だ。統制を失い、全体の指揮を外れていたところを見るに、暴発や暴走と呼んだ方が正しいだろう。


 聖歌公国側は中央部隊の前線を下げつつ、両翼から機動力に優れる亜竜種の戦士を増員、三方向から攻撃を受けた緑の国中央軍は、立体旗ホロフラグ及び旗持を喪失した。これにより後方との相互連携と、魔法による精神的な補助を失い……ただでさえ統制の甘かった中央軍は一気に瓦解する空気を見せた。

 聖歌公国側は追撃を考えたが、初戦な事もあり深追いを避け早期に撤退を選択。これは結果として良い判断となる。

 緑の国は、味方ごと溶岩投石器マグマスロワーを用いて戦場を焼き払う事を選択。仮に深追いしていれば、少なからず聖歌公国側も損耗しただろう。しかしこれを避けた事により、全体的に見て緑の国側の損耗と消費は大きく、聖歌公国側は少ない消耗で済んだ。


 ただし……緑の国側はまだまだ兵員を残している。今回の損耗は痛いが、決着に至るほどの被害ではない。初戦の失敗を元に新たな策を練り、第二陣が攻め入る事は予測が出来た。

 ――宣戦布告を宣言したのは緑の国側だ。何度も何度も、聖歌公国に戦争を仕掛けて来た側の。出鼻を挫かれたぐらいで、諦めるような事もしない。

 とはいえお互いに、部隊の再編や策の練り直しに、時間を要する事も確か。兵員も永遠と戦う事は出来ない。休息が必要だ。

 両軍は距離を置き、野営陣地に引き返した状態でじっと睨み合っていた……


***


 聖歌公国軍、野営陣地――

 展開していた各部隊は、斥候や監視役を残して戦地から引き返していた。設営した柵と篝火が周辺を威圧し、見張りの気配も物々しい。すっかり日も落ちた『千剣の草原』にて、最初の戦闘を終えた兵士達がたむろしていた。

 その野営陣地の中、旗をいくつも立てたテントがある。顔ぶれは戦線に出ていた将もいれば、後方で思案に耽っていた軍師の顔もいた。

――聖歌公国軍を運営する武将と将軍、最前線で戦う兵士とは異なるが、この軍隊の行く末を担う構成員には違いない。戦場と上層の異をすり合わせる将と、軍隊全体を俯瞰し、戦略を練る軍師がそのテントに集まっていた。彼らは、今回の戦闘を復習している。


「――以上が初戦の流れです。こちらの損耗は百名とありません。負傷者もポーションで治せる傷の者がほとんどです。最後、運悪く溶岩投石器マグマスロワーに巻き込まれて亡くなった兵もいますが……」

「それは相手方も変わらないだろう。こちらの被害としては、誰が見ても軽微といえます。レプタル将軍、全体の感触はどうですかな?」

「良い手ごたえを感じている。溶岩投石器の早期投入は予想外だったが……深追いを避けろとの命令が生きていた。統制が甘ければ……あの場面で押せ押せと攻め込んでいただろう。指揮系統は十分に機能している。こちらとしてもやりやすい」


 指揮官としては、命令を聞く部下は安心して前線を任せられる。いくら軍師が良い策を練ろうが、戦地にいる兵士が指示を受け付けなければ意味が無い。この場に集った将は皆同じ思いなのか、静かに頷き、そしてぼそりと口にした。


「敵軍の……緑の国の兵士はどうだったのだろうな……」

「将軍?」

「初戦の中央で交戦した、敵部隊の動きが妙に思える。戦で頭に血が上る事はよくあるが……」


 両脇に敵軍が控えている中、中央が突出するなんぞ完全に愚策だ。敵陣を食い破る目算があるなら良いが、破れかぶれに突撃すれば包囲殲滅が待っている。今回の陣形や結果は、軍の動かし方を知っている者なら、用意に予測可能な状況だ。唸る将軍に、別の者が意見を述べた。


「純粋に練度不足だったんじゃないかねぇ……立体旗が倒れた時にしたって、鍛えていれば、少しの間なら踏ん張れるよ。立体旗を使える兵が、カバーに入って魔法を復旧させる手もある。もう一つ理由を上げるとすれば、将の統率力不足かねぇ」

「それも事実とは思うが……友軍ごと攻撃をしようものなら、兵と将の連携にひびが入るぞ。上が勝利への策を練ると信用できるから、配下の兵も従えるのだ。巻き込んで攻撃されると知っては、甘い統率はますます崩れる」


 将や軍師は兵士一人一人の命を、細かく勘定する事は出来ないが……かといって兵を軽んじて扱えば、そもそも兵として使えなくなる。緑の国の将が、そこまで愚かとは思えないのだろう。

 将軍が慎重に敵勢力を見定める。まだ今回の戦争は終わっていない。きっと敵陣地では同じように、緑の国の将校たちが今後を協議しているに違いないのだ。

 間違いない優勢。けれど不穏な影はあまりに多く――聖歌公国の将たちを悩ませる。唸る中で、静かに将の一人が言った。


「……なんにせよ、次の交戦で分かる事でしょう。初戦の手ごたえは悪くありません。相手の出方を伺いつつ――もし敵軍が甘い動きを見せるようなら、分からせてやりましょう」

「……それしかないか。次は確実に空戦部隊も来る。今度はこちらが試される番が来るかもしれない」

「ですなぁ……まだまだ油断は出来ません」

「夜襲もありうる。警戒しつつ、兵の休息も十分にせねば……」

「矛盾してるが、両方やらねばならんのが辛いな」

「敵も同じだ。初戦の展開を考えれば、相手の方が辛いはず――だからこそ、次は本気で来るぞ」

「今の優位は仮初か……」


 決着がつくまで、勝負は分からない。

 誰もが知る事のはずなのに、人は少しの優位にも酔えてしまう。

 流される事なく、人を良い方向に導くのが役目と言うのなら……軍人と政治家は、さほど立場は変わらないのかもしれない。

 ――聖歌公国軍の将たちは、静かに次の戦闘に備えていた。


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