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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第一章 異世界編

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仕事と脱出の終わり

前回のあらすじ


 洞窟内部に侵入した晴嵐。囚われの人々を発見し、目的の『お姫様』を見つける。騒がれぬように、周辺の人々を沈黙させた後、彼は『お姫様』の縄を外し、物資を溜め込んでいる場所へ案内させた。

 粗雑な群れにしては、物置の整理整頓はされていた。武器、防具、雑貨、食料、金……一目で大よその位置が、分かるような配列だ。

 やりやすい。心の中でつぶやいて、ギロリと瞳を鋭くして少女に指示を出した。


「手早く済ませろ。時間はあまりない」

「でも大きな音は立てずに、でしょ?」

「分かっているなら聞くな」


 鼻息一つで頷いた娘は、長い棒が転がる場所に足を運ぶ。物資置き場で、何を探しているのか知らないが……注意が逸れている隙に、やるべきことを終わらせてしまおう。

 村からの仕事。共鳴石の設置。マーカーを拠点に置く仕事は、敵勢力に発見されない場所が好ましい。そして可能なら、敵が持ち歩く物に仕込むのがベストだ。

 物品を軽く漁り、通貨の入った袋を手に取る。それを懐には入れずに、中へ手を突っ込むと、握った共鳴石を金の詰まった袋に埋め込んだ。

 発信器を仕込むなら、やはり貴重品入れに限る。財布の中に入れておけば、まず捨てられる心配はない。依頼完了。後は彼女を連れて脱出し、村へと帰るだけ。

 干し肉や水筒、保存のききそうな食料を適当に引っぺがし、ウエストポーチに捩じ込む。ついでにポーションや小さな刃物も奪い取り、邪魔にならない重量まで、サイドパックを詰めていく。

 晴嵐の準備は終わった。ちらりと少女の様子を窺う。


「そろそろ行けるか?」

「大丈夫よ」


 彼女も小物入れと、その中に詰め込めるだけの道具を入れていた。身なりも多少変わり、シエラが身に着けた簡素な鎧と腕甲を装着して、長い金属の棒を持っている。大体二メートル近い棒に、晴嵐は顔をしかめた。


「そんな目立つモン捨て置け」

「これが私の武器よ」


 片目をつぶって見せる少女は、自信の笑みを浮かべていた。この女……ただの人質ではなく戦闘もこなせるのか? 使い慣れた得物があるなら、持たせた方が面倒は避けれるか。瞬時に判断し、軽く釘を刺すだけに留める。


「……敵に見つかったら置いていくぞ」

「あらま非情だこと。私に同じことされて、文句言わないでよ?」

「好きにしろ。気を使う仲でもあるまい」


 黒い会話も慣れた様子で、背中に棒を回しつつ、緑の石ころを晴嵐に投げ渡す。『開け』と念じ、空中に地図を投影して、出口を再認して光の地図を閉じた。忍び足で彼が先行し、彼女も後に続く。

 ――洞窟の入口からは、まだ話し声と金属音が響いている。あのオーク達は未だに粘っているようだ。少女はちらと外側へ顔を向けた。

 敵対関係とはいえ、あのオーク達の動向を気にしているらしい。助かるきっかけを作った相手だし当然か。だが晴嵐は彼女を急かす。


「あの二人の事は、ここから抜け出してから考えろ」

「……わかってる」


 それでも後ろ髪を引かれるのか、どうしても目線が逸れる少女。渋々彼は強引に手を引き、縄のところまで誘導した。女の手を縄に触れさせて、晴嵐が急かす。


「先に昇れ」

「いいわ、あなたが行って」

「……ダメだ。馬鹿な真似をされたくない。例えばわしが目を離した隙に、洞窟正面から飛び出したりとかな」

「……そこまで愚かじゃないわよ」

「どうだか」


 彼女が何をやらかすかわからない。不信感から出た言葉に押され、背に棒を通したまま女が縄を上る。やはり彼女は手が遅く、じれったい晴嵐は言葉で背中を押す。


「ここで逃げ切らんと、あいつらの努力は無駄になる。本人たちの覚悟も済んでる。とっとと前に進め」

「……ここを出た後は、どうするの?」

「近くに泉を見つけとる。そこで小休止してから村を目指す予定じゃ」


 彼の言葉に『お姫様』は声を荒げた。


「あの二人は置いていく気!?」

「お前な……お主にとっては救世主かもしれんが、村の面々にとっては敵のままじゃろうが。ちっとは冷静になれ」


 ぐうの音も出ない正論に感情を詰まらせ、喉から唸る少女だが……反論を見つけられずに、小さく嫌味で返す。


「あなたは冷酷過ぎよ」

「フン」


 言うに及ばず。何を今更。鼻息を返事にして、少女の後を追い縄をするすると昇っていく。長い時間をかけて、遂に二人は洞窟から抜け出した。

 その瞬間――閃光が洞窟の入口方面から発生した。

 尋常ならざる光は、丁度洞窟内部にも逆流し、日の光の下にいる二人にも認識できる。異常な光量に混乱する男女。正気に戻ったのは男が先だった。


「様子を見てくる。先に泉で休んでおけ。余裕があればあの二人も助けてこよう」


 尤も、危険なら見捨てるだろうが。信用に値しないリップサービスも、動揺中なら素通しされる。ぼんやりと彼女は頷いた。


「え、えぇ……」

「少し休んでわしが戻らなければ、一人で村まで歩け。方向は分かるし、飯も奪ったじゃろ?」

「……あなたの事はどう言えば?」

「猟師と伝えろ。そして仕事も済んだとな」

「わかった……でも出来れば戻って来て」

「あぁ」


 森の奥へ消えていく少女を背に、晴嵐は気配を殺しオークたちを探す。

 洞窟の入口、その真上に身を屈め俯瞰する晴嵐が見たのは――またしても、余りに非常識な光景だった。

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