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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第五章 戦争編

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旗を振る車列

前回のあらすじ


ついに出兵する緑の国の兵士達。パレードを兼ねた演説を受け、兵士たちは亜竜自治区を目指す……

ゴーレムが引っ張る輸送車が、何十両と並んで突き進む。

 金属部品で出来た荷台は、光に当たると様々な色で反射していた。通常の輸送用のゴーレム車より、一回りも二回りも大きい。いかつい印象の車両の中には、鎧を着こんだいかつい兵士たちが運ばれていた。

 車両のいくつかには、頭頂部に魔法の旗が揺れていた。風を受けて揺れるようにも見える立体旗ホロフラグは、実体のない虚像。余計な空気抵抗は生じない。

 車両に座ったまま、金を含んだ兜を装備するエルフが、車両中心部にある立体旗ホロフラグの鉄芯に触れて通信する。


「先頭車両、様子はどうか?」

『視界良好。目立った異常もなし。各所は?』

『こちら左翼、特に敵影は見られず』

『右翼側……ん? 今茂みが揺れ……あぁ、鹿か何かか。危険はないでしょう』

『最後尾も何もない。オールクリア』

「オールクリア了解。進軍続行」


 次々と上がる報告は、立体旗を使った相互通信によるもの。全軍をゴーレムの車両で運送しつつ、お互いの情報交換も忘れない。各所の兵員が周辺を監視し、異常があればすぐに全軍に通達出来る体制だ。

 進軍する『緑の国』の兵列は、前へ前へと行軍を続ける。彼らが目指すは『千剣の草原』……長きに渡り両国間の戦争で、主戦場となる草原だ。

 高低差の低い平野は、一部を除いて草丈も低い。極端な高所もないその地形は、攻め手側も守り手側もさほど不利はつかない。

 おおよそこのような事を語るのは、長らくこの『聖歌公国制圧戦』に参列する老エルフの軍師達……何度も何度も敗戦を経験しながら、それでもしぶとく生き残り続けた、歴戦の敗者たちだ。


『流石にこの辺りに潜伏はしない。もうちょい先にある湿原周りに注意した方がいい』

『そうさな……確か泥をかぶって待ち伏せながら、通過前に一斉に飛び出して来たんだったか……』

「三回前にあった奇襲攻撃だねぇ……もうすぐ湿原付近に入るし、全軍の行軍速度を下げた方がいいかねぇ?」

『いや、逆だな。全車両へ、行軍速度を上げろ』

「……どうしてまた?」


 老いた軍師達が移動しながら、行軍ペースについて合議を続ける。全体に共有される軍議に、移動中の兵士たちは聞き入った。


『もし以前のように待ち伏せがあるなら、一気に駆け抜けた方が良い』

「万が一伏兵がいるとして……亜竜種どもを振り切る狙いか?」

『それもある。もう一つの目的は……一度振り切ってしまえば、敵主力と会合する前に分断できる。位置関係によっては挟まれるが、敵の待ち伏せが少数なら、分断した待ち伏せの隊の各個撃破が狙えるだろう』

『……仮に誰もいなかったら?』

「その時は行軍が早まるだけだ。予定位置に野営地を立てる事は変わらない」

『なるほど。全軍、速力を上げろ』

『了解』


 先頭車両から、一斉に同時に軍隊の速力が上がる。相互通信機能の恩恵で、加速のタイミングも完璧だ。もし上から列を見れるのなら、美しい車列を見る事が出来ただろう。

 間もなくして、車両が進行する右手側に沼地が見え始めた。草丈の高い植物に覆われ、視界はあまり通らない。エルフの老軍師達が目を凝らすと、他の兵士たちも習って警戒に入る。


「この辺りだったな……警戒を厳に。奇襲を受けた場合も速力落とすな」

『了解』

『了解!』

『……今の所、仕掛ける気配はないですね』

『油断するな。既に戦争状態だ。いつ攻撃を受けるか分からん』


 強い緊張感が兵士達を包む。こちらから宣戦布告したとはいえ、迎撃行動として待ち伏せは十分にあり得る。やられる前にやる、仕掛けられる前に攻勢に出る。先制攻撃は戦闘の基本だ。出鼻を挫けば相手側の士気は下がる。目標地点と行軍ルートを把握されいるなら、絶対に罠を仕掛けるに決まっている。

 ましてや、実際に戦争へ移行する前に一か月の時間があったのだ。全く無策で待っている筈がない。見えない敵がどこにいるのか……高速で駆け抜けつつ、全身をこわばらせる兵員たち。異常の報告はしばらくなかったが、突如最前車両から悲鳴が上がった。


『う、うわっ!?』

『どうした!? 何があった!?』

「敵襲か!?」

『全軍落ち着け! 先行部隊、状況を報告……っ!?』


 次々と悲鳴が上がる兵員。敵襲を想起したのは一瞬だ。突然ゴーレム車の速度が急激に下がり、激しく車両が揺れ始めたのだ。


「う、うぉっ!? ぜ、全軍停止しろ!」


 誰が指示するまでもなく、輸送車両が順々に停止。危険を察知した兵士たちが、車両の外に次々と展開。魔法の鎧や盾を発動させつつ、敵襲を警戒し密集形態をとる。

 一方で、老エルフの軍師達は車両に目を向けた。急激に不安定になった車両の原因を探り始めた。原因はすぐに明らかになった。いや、誰が見ても簡単に理解できるだろう。


「じ、地面が……掘られて凹んでやがる」

「掘るだけじゃない。ゴミを埋めて突起まで作って……加速した車両で通った所を、転倒させる気か?」

「地味な嫌がらせだ」


 あからさまな工作の跡に、エルフ達は顔をしかめた。本格的に命を奪う罠ではないが、行軍速度は落とすしかない。

 だからこそ……軍師の一人が顔色を変えて警戒した。


「気を付けろ。罠にしちゃ半端すぎる。本命があるかもしれん」

「本命?」

「足止めした所に奇襲する。隊列が乱れた所を分断して各個撃破……やり方はいくつもある。ここからは速力を落として、車両間の距離を詰めて進軍すべきだ。もちろん、最大限に警戒しながら」

「うむ……」


 この通路への工作は、亜竜種側が仕掛けた物に間違いない。が、半端な工作はいまいち意味を読み取れず、次の一手への布石ではないか? と考えたエルフ達は……行軍速度を落とすしかない。

 果たして、亜竜種側の狙いは何なのか……不安に苛まれながら、車両に揺られて『緑の国』の兵士たちは長旅を続ける。

 まだ接敵前の『緑の国』発の兵士たちは、見えない敵を探しその神経をすり減らしていった。


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