不透明な動機
前回のあらすじ
ホラーソン村において、祖国に戻るかどうかを思い悩むエルフ達。あたふたわちゃわちゃと、どちらにしても何らかの制約を受ける選択に迷う。
だが、中にははっきりと『村に残る』と決めたエルフ達もいる。彼らの証言と自分の環境を照らし合わせ、最後は自分で決めろとマスターは激励を飛ばした。
『聖歌公国・亜竜自治区』と『緑の国・城壁都市レジス』間では、古くから何度も戦争状態に突入していた。
宣戦布告の理由は、亜竜種側には詳しく分からない。エルフ達の主張としては『かつて亜竜自治区のあった土地は、本来緑の国の領域だった』と言う。つまり元々『亜竜自治区』は緑の国の領土だったと主張している。千年前の『欲深き者ども』と『オーク侵攻』を受けた時、『緑の国』の領土の境界線が無茶苦茶になったらしい。
かつて存在していた『レジス大森林』は焼き払われ、オークへの憎悪と恐怖から『城壁都市』をエルフ達は築いた。ただ、そうして建設した都市は……かつての境界線から、大きく押し込まれた位置に建築された。残った資料によると、ホラーソン村周辺にあった『グラドーの森』も、本来は『レジス大森林』の一部だったらしい。なので、その周辺の領有権の主張が、主な目的とされているが……
あまりその理由に、周辺諸国は納得がいかない。
まず第一に……エルフの長老たちの記憶している事実は、他の民族にとって遠い昔と言う事。これは世代断層にも通じる、長寿命から来る問題だが……多民族との外交にも大きく影響が出ている。
何せ亜竜自治区で暮らす人々は、もう何世代も交代が進んでいる。生まれた時から『亜竜自治区』で育ち、生活してきた来た亜竜種たちにとっては……この土地と都市は故郷なのだ。緑の国の主張が正しいかではなく、心象として土地を手放す事は出来ない。
第二の疑問……それは土地の価値の低さにある。
『緑の国』と『聖歌公国』間の国境は、ホラーソン村と亜竜自治区だ。前者との間は『グラドーの森』が広がり、後者には『千剣の草原』が広がっている。
豊かな自然……と言えば聞こえは良いが、開発する価値もなく放置されている。輝金属を排出できるような火山も無く、その他の資源が埋蔵されている事もない。自然のままの生活圏を残した方が、結果的に利益になる有様だ。
だから……戦争を起こしてでも、この土地を欲する理由が分からない。『城壁都市』が国境にある以上、土地を拡張しても新たな都市を建築するとは考えにくい。頑丈な城壁は敵からの侵攻を大きく抑止するが、逆に拡張性を低くしている。
以上の事から――外部から見ると『緑の国』の主張には無理がある。領土権周りは戦争の火種だが……その理由がいまいち不明瞭なのだ。
領有権の主張も、相手にとっては無理筋でしかなく、欲しがる土地の価値が余りに低すぎる。いっそこれで豊かな資源があるなら、資源欲しさの侵攻と捉えられるのだが……
人口や土地周り、内部流通する資源を考えても……緑の国内部に目立った問題もない。むしろ人口に至っては、世代断層問題が尾を引き、若者たちが国外に脱出している始末だ。人口過密どころか、過疎が露骨になりつつある。
彼ら『緑の国』の内情を見れば見るほど……まともに戦争をする動機がない。もちろん『聖歌公国』側も、『亜竜自治区』側も、積極的に戦争へ至る理由がないのだ。相手側の国境が城壁都市な所もあるが、心象的、資源的、経済的に欲する材料も特にない。強いて上げるなら『何度も進行してくる緑の国』に対しての悪感情と、長寿エルフの自民族至上主義ぐらいだろうか。決して良くは思わないが、戦争へ発展するほどの悪感情でもないのだ。
……侵攻が一回きりなら、まだいい。ところが『緑の国』は、何度も何度も戦争を吹っかけてきている。こんな不明瞭な動機で、建前としか思えない宣戦布告の理由で。
不気味だった。『聖歌公国』……ひいては『亜竜自治区』の人間は不気味だった。果たして『緑の国』の本当の目的は何なのか? 何度か『ホットライン』を用いて本音を問いただした事もあったが、一向に『緑の国』のエルフ長老たちは本心を明かさない。それどころか罵倒や煽りで返してくる始末で、ともかく戦争を避ける気がない。と言う事だけは確かだった。
だから、まことしやかに……こんな陰謀論が立ち上がる。
『本当は何か、全く別の動機を持っているのではないのだろうか……?』
それが『何か』かは分からない。『緑の国』側は理由を頑なに明かさないし、本気で武器と兵員を導入し、本気で侵攻を仕掛けてくる。いくら『聖歌公国』が融和と平和を訴えていても……相手が戦争をする気なら、黙って屠られる訳にはいかない。
そして『亜竜種』は……ひいては『亜竜自治区』は、武を尊び闘争を良しとする。喧嘩を売られれば受けて立つ。むしろ実戦の中で武功を上げようといきり立つ者まで存在する……元から『亜竜種』の気質は、戦争も闘争も『良し』なのだ。
挙句、相手のエルフ側からこんな挑発文まで添えられれば……両者の対立は決定的になるのだ。
『貴様らトカゲ野郎どもに、その土地は過ぎた地域である。今すぐ優良主たるエルフにその土地を大人しく明け渡すがいい』
何たる挑発。何たる傲慢か。
亜竜種にとって『トカゲ』は禁句。それを堂々と言い放った上に、戦もせずに土地を明け渡せと言う。月一で『武人祭』を開き、日々修練を良しとする『亜竜種』にとって、これ以上ない侮蔑だった。
故に亜竜種は、緑の国、エルフ達の侵攻を受けて立つ。
自らの鍛えた武をもって……安い挑発に高い代償を支払わせてやると意気込んで。




