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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第五章 戦争編

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村に迫る現実

前回のあらすじ


 戦争勃発寸前の緑の国、城壁都市レジス内部では……取り残された人魚族が闇の住人に接触していた。城壁内部にある隠し通路を使い、国外へ密かに脱出した。

 裏側の住人の子供たちは、彼らなりに秘密の通路を使って活動を続ける。ムンクスや『おじさん』の名前も出すが、遠くにいる誰かを深くは考えない。

 そのころもう一つの境界、ホラーソン村では……

「以上の事から……君たちエルフの行動を制限させてもらう。……すまない」

「しょうがないですよ、シエちゃん」

「……こういう場でちゃんは付けないでくれ、ハーモニー」

「あはは……」


 ホラーソン村の兵士長、シエラ・ベンジャミンが茶化さず否定した。彼女を呼ぶのは、同じ村で暮らす若いエルフ。ハーモニー・ニール。呼び出されたのはハーモニーだけではない。この村で暮らすエルフ全員が、村の兵舎前広間に集められていた。

 領主の指示により今回の集会は開かれた。『緑の国』との通信封鎖は、もちろんこの『ホラーソン村』のポートも同じ。これから戦争に突入するであろう隣国の主民族相手に、聖歌公国側は甘い顔が出来ない。察しの早いものは国に帰っていたが、ここにいるエルフ達は、勢い任せに飛びだした者も多かった。故に今回の争乱への反応も遅かったのだ。

 自分の落ち度と引け目を感じながらも、一人の若い男性が慎重に手を上げて質問する。


「あ、あの……すいません。今からは……」

「……出国はもう難しい。詳しくは言えないが、既にホットラインでも最後通告も終わった」

「そんな……聞いてないよ」

「おかしいな……重要案件として村全体に流したし、領主様がこの村のエルフ全員宛に、念のためもう一度メールを送った筈なんだが……」

「あ……あぁっ!? あ、あのメッセージってそういう……」


 急に顔を上げて叫ぶ若いエルフは、オロオロと助けを乞うように周辺を見渡した。けれど誰も目を合わせない。寄りかかられても、もう助ける事は出来ないから……

 何を言うかは予想がついたが、あえてシエラは止めなかった。


「そ、その、知らない宛名からのメッセージだったし……どうせ大した事もないって無視しちゃって……」

「エルフに限らず、若い人には良くある事だが……」

「ど、どうにかなりませんか!? その、そろそろ国に帰る事も考えていたんです! 親は戦争に出兵するかもしれない……」


 なんて個人的な言い分だろうか。客観的に見ていた者はそう思うだろう。

 しかし兵士長の顔は苦々しく唇を結んでいた。聖歌公国の兵士としてあるまじき甘さだが、お人よしのシエラは本当に心を痛めていた。

 それは『世代断層』を抱えた緑の国と隣接し、もう一つの境界である『亜竜自治区』との差が大きく出た形だ。

 亜竜種は『強者』を敬う風潮を持つ。エルフの中には腕っぷしに自信がある人物もいるが、亜竜種はこの世界の種族にて非常に強い。若い跳ねっかえりが自信満々に飛び出して、現実の壁に心が折れる者も少なくない。他にも昆虫食などが普通に流通しており、尖った特徴の社会圏と言える。

 それに比べて『ホラーソン村』は、思想や文化は非常に中庸的だ。極端な特徴はないが、極端な文化も持っていない。城壁都市レジスの若者が追い詰められた時、ホラーソン村か亜竜自治区かの二択で、村を選ぶ者は多いのだ。


 ……閉塞的な環境を嫌って飛び出すのは、よく言えば『若者特有の勢い』なのだが、悪く言えば『後先考えない行動』だ。細やかな所に目が届かないのも、致し方ない所はある。

 しかし、しかしだ。同情はするし、心中も察するが……『聖歌公国』と『緑の国』は、もう戦争勃発寸前だ。回避策は空振りに終わり、察しの良いエルフは既に避難や帰国を済ませている。どうにもならぬ……と口を閉ざすシエラの表情に、若いエルフ達も俯くしかなかった。

 そこに……シエラとは別の女性の兵士が、ゆっくりと背後から歩いてくる。同僚のシエラに一瞥もせず、いかにも渋々と言った様子で救済策を告げた。


「……そんな事だろうと思って、こちらで最終便を用意しておいたわ」

「ほ、本当ですか!? 良かったぁ……」

「良かった、じゃないわよ……お願いだから強制される前に気が付いて……」

「あ、す、スイマセン」

「……もう一度念のために釘を差しておくわね。これが本当の最終便よ。二日後の送還のゴーレム車が出るから、それで『緑の国』に戻らない場合……さっきシエラ兵士長が話した通りの制限を、あなた達に課す事になる。ここで制約に縛られて生活を続けるか、故郷に戻るかの二択よ。今度はちゃんと自分で考えて、自分自身で選択して」

「は、はい……」


 新しく表れた女性の言い方は厳しい。兵士長が顔をしかめるが、本来なら村側が親切に対応する理由もない。必要な通知は行っているし、今の時期は下手をすれば、スパイを帰国させかねない。本来ならば兵士長より、後から来た人間の言い分が正しい。

 だが人間は感情で動く生き物でもある。若くして飛び出した人種であれば、特に。

エルフたちの思いを代弁するかのように、兵士長シエラが噛みついた。


「テティ……もう少し言い方があるだろう。彼らの事情も考えてだな」

「考えていますよシエラ兵士長。だから最後の機会と通告をしているのです。この送還が無くても、私たちホラーソン村側に落ち度はないんですよ?」

「落ち度がないからと言って、人への慈悲を無くす気か?」

「慈悲に付け込む輩もいるでしょう。戦争となれば特にね。私たちはこの村を守る兵士。敵はオークたちだけじゃない。そうでしょう?」

「…………私は、彼らを敵と思いたくない」

「思わなければならないのが兵士です」

「………………くそっ」

「……すいません。言い過ぎました」


 村の兵士二人が言い合い、気まずくなる空気。エルフの若者たちも目線が泳ぎ、不安な顔を見せる。

 慌てて兵士長は繕って、もう一度皆に改めて伝えた。


「と、ともかく……二日後が最終便だ。それまでに皆、決断してくれ」


 厳しい声の女性に怯まず、それでもシエラは自分の態度は崩さない。

 あくまで親しい隣人に語り掛けるように、若者エルフ達に促した。

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