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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第一章 異世界編

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観察と選択

前回のあらすじ


 ついに、オークの長と反逆者の決闘が始まった。激しく火花を散らす両者の、戦いが続く。傍らで見守るもう一人のオークは、協力者達の成功を祈っていた。


 洞窟内にまで反響する剣戟を背にして、晴嵐は洞窟内へと降りる。

 足音一つ立てずに、奇妙な石が光源となった内部へ……慎重に、かつ素早く歩を進めた。

 稼げる時間は不安定だ。石の仕組みは気になるが、今はその時が惜しい。とっとと『お姫様』を救出し、村からの仕事も終わらせてしまおう。

 石ころに書かれた地図を頭に浮かべ、道なりに進む晴嵐。示された広い空間手前で立ち止まり、手を縄に、足を枷に繋がれた人々の姿を発見する。

 人影は五人、救出対象はうち一人。やはり捕虜は纏めていたか。舌打ちを堪え、観察の目を注ぐ。残りの四人への対処を考えつつ、オークと交わした会話から『お姫様』に当たりをつける。

 金髪の女性は二人いて、両方とも長い髪のままだった。これでは晴嵐に判別が出来ない。苛立ちを抑えて、しばらく対象の観察に努める。協力者のオークの言葉を思い出し、それを加味して特定を試みた。

“あのお姫様オーラは、一目でわかる”

 聞き出した特徴は気配によるものだが、両者とも目立つ特徴を有していた。


(……なるほど。確かに他と違うわい)


 片方は露骨に怯えつつも、刺々しい雰囲気を醸し出している。目を開き、せわしなく周囲を見渡し、ともすればうるさく喚き散らしそうだ。顔に殴られた跡があるが……実際にヒステリーを起こし、黙らされたのかもしれない。お高くとまったお姫様か……とも表現できる女性だ。全体的に肉つきも良く、この場であからさまに浮いている。

 もう一人の少女は瞳は閉じて、静かに待っている……繋がれ、拘束を受け、背筋を曲げても焦りがない。他の四人が不安や恐怖を浮かべる中、優雅さや気品を損なっていない。

 口にしがたい何か……自然と頭を垂れ、つい敬いたくなる品格を持つ女性だった。

 両者ともに『お姫様』の気配を持っている。あのオークめ、どうして正確に伝えないのか。毒を含んだ舌打ちを一つして、会話をもう一度深く思い出す。

 ――協力者は確か、引き込まれる感じがする。と言っていた。

 どちらが心惹かれる人物だろうか? 問うまでもなく、静かな少女の方だろう。

 更に現状を重ねて考える。あのヒステリー気味の少女を連れて逃げ切れるだろうか?

 じっと目を閉じ、晴嵐はその後の展開を想像する。

 不安げな女は晴嵐の顔を見た途端……高飛車にまくし立て、ピーピー騒いで、トラブルを引き起こしそうな気がする。優先順位もわからずに『ちゃんと説明しろ!』とこの場でゴネるのではないだろうか? 余計な時間を食った結果、決闘が終わったり……決闘中でも騒音を立てれば、誰かが様子を見に来るかもしれない。それで天井から伸びたロープを見つけられたら、晴嵐の逃げ場も無くなってしまう。

 事前の情報と今の雰囲気、そして自らの安全を考慮し、救出対象を決定した晴嵐は、救出予定外の『お姫様』に忍び寄る。足枷に繋がれた人間へ、音もなく背後から羽交い絞めにした。


「ムグッ!?」


 暴れる隙さえ与えず、一瞬で口を塞ぎ絞め落す。殺す気はないが、ここで『お姫様』以外は気絶させる。

 目的は『お姫様』だけ。他の人間はどうでもいいが……もし『お姫様』と同じ村の出身ならば、彼女だけ助かることを快く思うまい。自分も助けろと喚くだろうし、それで人数が増えれば発見の危険が高まる。足並を揃える面倒も考えれば、その他は見捨てるべきと判断を下した。

 けれど置いて行かれる者たちは……特にもう一人の『お姫様』は絶対に納得しない。だから彼女が逃げ出すその時に、運悪く意識を失ってもらう。後で関与を疑われても、相手に知られなければいい。

 ぐったりと白目を剝く人間を見届け、他の人間からも意識を刈り取っていく。余計な相手を黙らせた後で、気配を殺したまま『お姫様』の前に屈みこんだ。


「助けに来たぞ」


 焦る様子もなく、ゆっくりと顔を上げる。アメジストのような紫の瞳が、下賤で外道な晴嵐の顔を見つめた。

 ――美しい。息を飲むような美しさだった。穏やかな視線なのに輝きは強く、威圧する鋭さを含んでいる。なのに慈愛を奥に秘めた……相反する属性を身に宿した少女だ。


「ラングレーの使いね」

「うむ……縄を外す。動くなよ」


 若い声色。紛れもない少女の声。なのにその底に、年不相応の芯がある。自分と同じ長く生きた人間の気配を……老人の気配を感じ取った。少なくとも精神年齢は、晴嵐と同じかそれ以上と予測がつく。……事前に話を聞いた為の、思い込みかもしれないが。


「外したら石ころを渡す。地図か書いてあるから、これを外す間に構造を頭に叩きこめ」

「その後は?」

「手早く使える物を頂いて、縄を上って逃げる。メシとお主の道具、あとは村を指す石ころは忘れずに持って行け」


 修羅場の経験もあるのだろうか? 少女は動揺せず指示を聞き、頷く。パラリと散った縄を捨てて、手のひらにオークが用意した石ころを握らせた。

 そのまま足枷の鍵穴に、村で準備した針金を差し込む。廃品の山とガラクタから自作した、簡素なピッキングツールだ。

 ギチギチと異物を差し込まれた鍵穴が、金属音を立てる。手に伝わる振動で構造を読みつつ、枷を外そうと繊細に指を動かす。一分と経たずに、彼は錠前を外した。

 振り向いて驚きを見せる『お姫様』。晴嵐は冷たい目線で急かし、彼女は石ころが投影する洞窟を指差す。


「こっち、ついてきて」

「足元に気をつけろ」

「分かってる」


 彼に比べれば拙いが、慎重かつ迅速に彼女は動く。説明の手間を取らせない点といい、なかなかの有能だ。まずは脱出と、その後に備えるのが最優先。話し合いも説明も、安全になってからでいい。

 ほどなくしてたどり着く行き止まりに、収奪した物品が並んでいる。

 懐の赤い石の感触を確かめ、晴嵐は仕事にとりかかった。

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