第四章 ダイジェスト・3
遂に迎えた武人祭当日、巨大な水晶のポート周辺は、大変な賑わいを見せていた。終末世界を生きた晴嵐にとって、なんであれ祭典は懐かしい。滅びる前も学業を優先し、終末と化した後では祭りを開く余裕が無い。平和そのものの光景に目を細め、活気に満ちたポート周辺を歩いて回った。
出店で賑わう空気につられて、適当に飲み物と軽食を購入し味わう。無駄な出費と言えばそうだが、観客に紛れるには必要だろう。真剣勝負の場面を見れば、色々と応用が利くかもしれない。言い訳なのか真剣なのか、自分でも分からないままライフストーンに触れた。
「武人祭」の中継器と化したポートが、晴嵐の思念に反応し思い通りに選手を映す。こういうところは地球技術より便利と感心する中、彼は参加者の中に知った顔を見つけていた。
「武人祭」当日、巨大闘技場ディノクスにて……参戦を希望する戦士たちが整列している。今回の規模は大きい方らしく、戦士達にも並々ならぬ気迫がある。その中に混じった若いオークの青年、スーディアは今回のルールをじっと聞いていた。
予選の方法は「参加者を四グループに分け、そのメンバーでのバトルロワイヤル形式」「最後の四名となった者が勝ち上がり」という方法で選ばれる。以前にこの地域で闘争を競技化する魔法を体験したが、もちろんこの闘技場でも発動しているので、実戦に近い競技として、心置きなく戦える。周辺の戦士の様子を伺うと、既に何人か戦に備えている者、殺気を隠さない者など……ぴりぴりとした空気の中で、スーディアに近づくのは大鎧の男。妙に親し気な様子のソイツと言葉を交わした所で、開会式は終了した。
全くその気の無かった晴嵐に、賭け事の対象にされているとは露知らず……スーディアは控室の隣、転送室で待機していた。他の戦士達で詰まる中、闘技場の内部に予選第一試合の戦士たちが転送された。
転送系魔法の弱点として、転送酔いと呼ばれる状態に陥る。しばらく五感が麻痺し、体が動かせない状態になるのだ。徐々に戻っていく感覚の中、ランダムに飛ばされた戦士たち。観衆の目線と解説陣の声、そして戦士達の気配を感じる中……スーディアはコロシアムの端側に、壁を向いて転送された。動けないなりに、鈍ったなりの感覚で試合開始に選手たちは備える。
転送酔いが醒めるタイミングは、全員で同一。誰か一人が動き出すのを皮切りに、武人祭予選、第一試合が始まった。早速壁側を向いたオークに向けて、戦士の一人が背を狙う。そのまま壁側に走るオークは、次の瞬間壁を蹴って宙返りし、位置関係を入れ替えた。
そのままレイピア一突きで、後方からの敵を撃退したスーディア。脱落者は出血もなく、すぐに光の粒になって消えていく。闘技場の効果と、失格判定を貰った選手はすぐに転送魔法で送り返されるらしい。息をつく余裕もなく、頭部めがけて飛んできた鉄球を『盾の腕甲』でスーディアが弾き飛ばす。コロシアム内部は酷い乱戦模様だ。解説陣が名物と喜ぶ中、先ほどスーディアを狙ったドワーフの鉄球使いがトンファーの亜竜種に倒された。
着地する亜竜種の隙を狙うスーディア。攻撃は防がれたが、丁度対面から同時に仕掛けた者がいる。説明の時に話しかけて来た、全身鎧の男だ。二対一でトンファー使いを挟撃し、相手の消耗も見えたが、亜竜種は風を纏い空へと離脱。亜竜種が消えた後向き合うのは、大鎧とスーディア。にらみ合う両者。先に動くのは大鎧だ。
大剣と大鎧の重装備。なのに重量を感じさせぬ、急加速と急停止を駆使した体捌きで詰め寄る。レイピア相手のスーディアでは相性が悪いが、相手の技量にむしろ血が高ぶっていた。
『盾の腕甲』のみで防御せず、細身のレイピアも駆使して敵の攻撃を逸らす。剣は通らないと判断した彼は、魔法の盾で相手を殴りつけた。
手ごたえは悪くないが、相手の出方に注意するスーディア。鋭い呼気と共に放たれる、渾身の反撃をなんとか凌いだが、そこで横やりが入ってくる……
咄嗟に今まで対峙していた筈の、大鎧と背を合わせるスーディア。相変わらず飄々と話しかけてくる大鎧は、すっかり気を許した様子で横やり狙いの参加者を捌く。裏切りを心配しないのか、自分たちは敵同士ではないのかと疑問をぶつけると、カラカラと大鎧は答えた。
予選から勝ち上がるのは、同じブロックからは四名……全員敵なのは間違っていないが、全員を倒す必要もない。最後の四人に残るのなら、途中で共闘するのも自由。交渉も根回しも、予選を抜ける為なら何でもありだそうだ。
最初から組む気だったように思えたが、転送時の配置に運が絡む。この縁は偶然としながらも、完全にスーディアを信用する様子だ。互いに殺気の有無は分かるし、こんな横やりで脱落するのも納得がいかない。同じ気概と確かめ合った二人は、そのまま背を守りあいつつ、横やりの参加者たちを蹴散らす。積極的に攻撃を受ける大鎧に、スーディアは何らかの意図をくみ取っていた。




