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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第四章 亜竜自治区編

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第四章 ダイジェスト・2

 意識を失った晴嵐は、何度か見た夢を再び見ていた。どうやら終末世界で周りの人間の何人かも、同じ夢を見た事があるらしい。その奇妙な悪夢は何かしらを伝えようと、あるいは訴えようとしていたのではないか? と言う。爛れた金属の、胸に穴の開いた亡霊は、じっと眠っている人間を見下ろして、その光景を見せつけるのだ。

 何の変哲もない海、泳ぐ魚、漂う海藻とサンゴ。最近は水中を泳ぐ爆弾や、水面を浮かぶ鉄の塊、時々落ちてくる人間がふかの餌になるぐらいで、その日その瞬間が訪れるまで、いつも通りの平和があった。


 どこか遠くで、英語のカウントダウンが聞こえる。ゼロ、と刻んだ瞬間に、海中で猛烈な爆発が起きた。

 あらゆる生命を焼き飛ばす暴流に、あらゆる生命は粉微塵となって散っていく。何の罪も無かった、たまたまそこにいただけだった命は、理不尽に人間の実験によって犠牲になった。

否、犠牲になったのは生命だけではない。お役御免となった艦船も実験に巻き込まれ、無念と共に沈んでいく。金属さえも溶かし崩す陽熱に、命も物質も混じりあいながら、怨嗟を共有した両者が混じりあい――『亡霊』が誕生した。

 この夢の度に枕元に立たれ、すすり泣く声と嘆きを永遠と聞かされ続けていた。いつもはそれで終わる筈なのに、今回晴嵐の枕元に立った『亡霊』は、彼を許すと言って――そこで晴嵐は目覚める。


 男が目を覚ますと、亜竜種の看護師が晴嵐に声を掛けた。車両に担ぎ込まれた後意識を失い、医療施設に運び込まれた……と推測する。思考する彼の前に現れたのは、今までと姿勢が異なる亜竜種。直立歩行に近い姿勢の亜竜種からは、上品な知性を感じさせた。

 診察を受ける中で、焼きつぶした左手が痛みを訴えている。ポーションでもう一度治療しなおす弊害らしいが、焼灼した瞬間に比べればなんてことはない。色々と考え込む晴嵐に、掘り返そうとする医者をごまかしつつ、晴嵐はじっと休養に入った。


 窓の外から、外部の様子を見る晴嵐。『亜竜自治区』と呼ばれるだけあり、目につく種族は亜竜種が多い。他の種族もいるにはいるが、どこか血の気の多そうな人種が多いように見える。もうすぐ始まる武の祭典――『武人祭』とやらが近いからなのか、普段からこうなのかは判別できない。思考するも行き詰まり、暇になった晴嵐は亜竜種の医療スタッフに色々と話をしてみる。姿勢の違いを尋ねると『知恵を得るために矯正した』と、ヒューマンには分からない返事を返されてしまう。看護師に案内されるまま、本の貸し出しスペースへ行く晴嵐。暇を持て余していた彼は、読書に励み知識をモノにしようとした。


 手にしたのは分厚い学術書。特有の堅苦しい言い回しに苦戦し、知識をかみ砕いて読みこんだものの、疲労を感じた男は目元を揉んでいた。しかし読書の甲斐もあり、晴嵐は亜竜種の体系について理解する事が出来た。

 亜竜種は尻尾で体重を支えられる分、接地面が多い。前傾姿勢な事も相まって、重心面で他の種族と比べて有利だそうだ。しかしその姿勢が災いし、頭部への血流が少なくなってしまう。結果として発音に難儀したり、知性の面でやや劣る面があるそうだ。それをある程度緩和するために、直立歩行に近い姿勢へと矯正するらしい。もし戦う事になれば……を考える晴嵐。以前エルフ相手に用いた、投げ技や崩し技は効果が薄いだろう。体幹の強さは晴嵐も何度か体験しており、慎重に立ち回るべきと身構える。ここは闘争を競技にする装置もあるし、一度試して見ても良いだろう。


 さて、次は何の本を読もうか? もう学術書を読むには、読書体力も消耗してしまった。何か気楽に読める本はないかと探していると、幼児向けの本の中に「オークのゆうしゃ」と名を持つ本を発見した。抹消された五英傑、真なる英雄のオークの話は、おとぎ話として各所に残っている……大の男が子供向けの本を読むのは抵抗があったが、最終的には確認のため、晴嵐はその本を手に取った。

 子供向けの内容の中で、英雄は青いレイピアを振りかざす。見覚えのあるような気がするのは、身内贔屓も入っているのだろうか? スーディアと被って見える絵本の話は、どこまでが本当で、どこまでが盛った話なのか分からない。しかし一つ感じたのは、ここまで話を大袈裟にすれば、なるほど誰も「この人物が実在した」とは思わないだろう。知識を蓄えながら、晴嵐はじっくりと休養を終えた。


 治療を終えた晴嵐は、まず最初に「ライフストーン」の復旧に入った。肝心な時に壊れてしまったソレから、新品のライフストーンを購入して情報を移し替える。店員と話していると、どうやら武人祭はポートから中継を見る事が出来るらしい。賭博も含めた祭典は、大変な盛り上がりを見せるそうだ。その影響もあって、宿泊施設の料金も少し値上がりしているらしい。今まではあまり興味が無かったが、タダで見れるなら覗いてもいいかもしれない。ライフストーンを新品にした晴嵐は、ゆっくりと店を後にした。


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