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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第一章 異世界編

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石ころとの格闘

前回のあらすじ


 早朝、森の中の泉で、鍛練を積む反逆者のオークがいる。相方のオークもやって来て、「村からの斥候と話をつけた」と伝えた。憂いのなくなった決闘者は、全力を以て闘いに臨むことを誓う。最後、奇妙な気配を感じたが……体調を万全にすべく、休憩に入った。

(危ない危ない、バレかかるとは……かなりの手練じゃな『決闘者』は)


 二人の泉でのやりとりを、森に紛れた晴嵐が観察していた。

「本音」を聞き出すため密かに聞き耳を立て、盗み聞く。彼らは本気で戦うつもりだが、しかし若干彼らの都合を優先する節が見られる。


(やれやれ……出来れば時間を稼いで欲しいが……)


 この辺りの判断は難しい。粘って時間を使う戦い方が出来れば、救出を狙う晴嵐にとって最善である。しかし不慣れなことをやらせた結果、実力以下の力しか使えずあっさり負けた……というのは最悪だ。

 最善を狙って最悪の出目のリスクより、そこそこ安定した結果が期待できる方が良い。文句を言いたい気持ちもあるが、若気の至りと大目に見よう。すっぱり切り替えた晴嵐は、当面の問題を解決すべく動いた。

 昨日案内を受けた穴の前へ戻り、近場の岩裏に用意された道具を見つめる。一本の太いロープと、小さな緑の石ころが一つ置かれていた。

 恐らく、村の軍団長が使っていた物と同じ物質だろう。文字を書いたり読んだり出来る石ころだ。オークのメモ書きが記されているに違いないが……晴嵐は唸った。


(マズイな。使い方がさっぱりわからん)


 指で擦ってみたり、軽く二回つついてみたが反応なし。色々と試してみたいが、乱暴に扱って壊してしまっては本末転倒。息を吹きかけてみたり、太陽にかざしてみても変化しない……


(落ち着け。恐らく難しい道具ではない筈……)


 本当はシエラに聞いておきたかったが、きっとこの世界の人間なら、誰でも手軽に使える道具のはずだ。『常識を知らない』ことを知られたくないから黙っていたが、まさかこんな形でツケが回ってくるとは。

 とはいえ、嘆く時間が惜しい。説明がないのは常識なのと、簡単に扱える道具だからだろう。気づき一発。理解さえすれば呆れるような仕組み……

 だが悲しいがな。老化で脳が鈍っているのか、それとも根本から間違っているのか、思い浮かんだ行動を全て試しても、うんともすんとも言わない。石を叩き割りたい衝動を抑えて、必死に考えて考え抜く。

 考えるうちに、使っていた男の動きを想起する。確か軍団長は文字列を、視線で追っていたはずだ。思い浮かべたことがそのまま文字として記録できるなら……使う、使わないを決定するのも、思念が鍵なのではないか?

 動けと脳内で命じ、続けて輝けと命令したが動きはない。色々と単語を並べ、最後はパソコンを扱う時の感覚で命じる。


『メモを開け』


 次の瞬間光が宙に浮かび、いくつかの文字と何かの図面が現れた。ほっと一息ついて理解に努める。

 曲がりくねったゴツゴツの道に、枝分かれした空洞の図が展開される。どうやら目の前の洞窟の地図のようだ。

 文字だけでなく画像も保存可能なのか……しかも平面に書かれておらず、立体画像として浮かび上がっている。一人感心したように、感嘆の唸り声が森に響く。

 けれど少々見ずらい。立体映像は透明度と明度が高く、背景の森がちらついて集中できない。困った、と頭でよぎった瞬間、輝きが抑えられ、色味が強く変質した。

 晴嵐の理想に、石の方が合わせたかのようだ。絶句したのも数瞬、すぐさま地形の脳内に刻み込む。

 高低差まで網羅する地図に目を凝らす。所どころ書かれた文字は、あのオークが書き加えたのだろうか? 枝分かれした洞窟の中間に『お姫様』と書かれた箇所と矢印がある。あの男を信用するならば、この場所に救出対象がいると見て間違いない。


(この位置なら、罠は考えなくていいの……)


 洞窟内の分岐点の中心や、行き止まりを示されていたら警戒した。が、広めの通路途中は罠を掛けるには不向きの場所。先程の会話を鑑みるに、晴嵐を陥れる意図はなさそうだ。

 念のために詳しく見たいと考えた瞬間、今度は縮尺が変化し、光の画像が拡大される。さらに別の角度から見たいと念じると、晴嵐の思った角度に画像が回った。


(なるほど、これは便利じゃな……)


 こんな小さな石ころに、大量の記録が可能とは。前の世界のスマホと比較しても、サイズ面で石ころは圧勝している。

 そりゃあ普及する訳だ。納得し頷く晴嵐だが、再び問題が生じる……光を止める方法が、分からない。

 もう一度頭を捻るが、以前よりも比較的すぐ思い浮かぶ。パソコン感覚の『開け』の念で動いたのだから――


『メモを閉じろ』


 逆の思念をぶつけると、浮かんだ光が速やかに消失した。

 余計な時間を取られたことにため息をつき、二度三度空気を吐きだす。少なからず体の緊張を感じ、行動に備え身体を動かした。鍵開けに備え指先をほぐし、降りるための縄を改造する。と言っても難しい事じゃない。縄の一定間隔に、結び目を作るだけの事だ。

 降りるのは面倒になるが、上る時に大変役立つ。結び目のコブが手を引っ掛け、尻で挟むポイントに出来るのだ。少女の状態は不明だが、楽に登れるならその方が良い。改造を終えると木に括りつけ、体重をかけて問題ないかを確かめた。

 一通り準備を終えた晴嵐は、洞窟の入口に視線を向ける。

 木々と丘で見えない先では、騒乱の気配がざわめいていた。

石ころ(ライフストーン)


文字のメモのみならず、画像も保存可能のようだ。使うにはパソコン感覚で『開け』『閉じろ』と念じれば使える。

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