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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第四章 亜竜自治区編

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第四章 ダイジェスト・1

 城壁都市を出て、晴嵐は息を吸う。威圧的で、封鎖的な都市……それだけじゃない。あの国には妙な逼塞感が漂っている。裏路地の空気は肌に合ったが、あまり馴染みがあっても良いとは言い切れない。次の地域が異なる事を祈りつつ、情報をおさらいする。

 スーディアによれば、亜竜自治区内では『闘争を協議する』魔法の装置があるらしい。闘争を重んじる亜竜種は、近接格闘に優れる種族だという。彼らに対しては冗談でも『トカゲ』と言ってはいけないらしい。ほぼ例外なくブチ切れる蔑称との事だ。


 晴嵐は荒事もこなせるが、あくまで手段の一つとして身に着けているに過ぎない。リスクを回避し、道具も騙し手も遠慮なく使うのが晴嵐流。正々堂々と戦う気はない彼は、亜竜種と仲良くできないかもしれない。人力車のゴーレム版『ゴーレム車』に乗り込み、他の乗客たちと一緒に出発した。


 ゴーレム車に揺られ、森林地帯を抜ける。乗り心地の悪い地域を抜けて、ようやく乗客も談話の気分になった。歩いたほうが良かったか? とぼやく人間に対し、この移動手段が無難と話し合う。広がる草原に目を移すと、乗客の一人がここで『聖歌公国』と『緑の国』間での主戦場になる場所だと話した。

 戦場で土地が荒れるからか、一部では沼地になっているという。車両が遅れたら困る乗客の一人は、ある祭典への参加を決めているようだ。


『武人祭』と呼ばれる……亜竜自治区内で、月一回開催される武の祭典。闘争を好む者たちが頂点を目指し、己の肉体と技術をぶつけ合う。今回はある有名人の噂があり、腕に覚えのある者や、血の気の多い人物か参加しているらしい。参加希望の亜竜種は、自分の得物を見せた。『さい』と呼ばれる二刀流の武器は、高名な武人も愛用しているらしい。乗り継ぎで亜竜自治区を通過予定の乗客に、せっかくだし見ていってはどうかと誘うが……恋人がいる、告白した、指輪を買ったと見事な前振りの後、ゴーレム車は野盗に襲われた。


 横転したゴーレム車から、何名かは脱出する。一人は早々に逃げ出し、野盗は乗客とゴーレムに対し襲い掛かる。武人祭出場予定の、亜竜種の戦士が釵を使いこなし、移送役のゴーレムも交戦状態に。晴嵐も左手を潰されつつも、野盗を二人撃退していた。

 一息つける様になったが、決して状況は良くない。戦闘の素人も混じっているから、野盗を撃退するのは難しいだろう。ここから先は自己責任。逃げても良し、戦っても良し、金目の物を投げ捨てて、命乞いをしても良し……自分の思考と判断で、未来を決めるしかない。話を終えると第二波が襲い掛かってくる。晴嵐は煙幕を展開し――隙を見て逃走した。


 彼が逃げ出した理由は、ドブネズミ根性もある。だがもう一つ、彼にはマズい事柄があった。緑の国で得た情報……ライフストーンに書き込まれた情報は、あまり他人に見せたくはない。また、野盗を凌いだとしても、次にどんなトラブルや悪意が迫るか、分からない。他人を信じられない晴嵐は、あの状況で確実に安全を確保するには逃げるが最善と判断した。

 何とか逃げ切り、沼地に注意しつつライフストーンを掲げて方角を確かめようとした。しかしここでトラブルが発生。テティのお下がりを貰った緑色の石ころは、早いうちに買い替える事を勧められていた。どうやら老朽化で故障してしまったらしい。出発前にノイズが入ったのが予兆だったのか? 悪化する状況の中、彼は湿地帯に身を潜める事に。


 最低限方向を草や岩に刻み込み、左手に刺さった投擲物の処置を進める。ポーションの持ち合わせもない晴嵐は、焼灼処置で止血と消毒を済ませる。脂汗を流しつつも、火を起こした際の煙が、狼煙のように上がった事を気にして、別の場所に移動する……

 夕暮れの『千剣の草原』に、生命の営みが広がる。蛇が油断した所をナイフで仕留めた晴嵐は、即席で作った拠点に腰を下ろした。


 今は消毒を終え動けるが、いつ体調が悪化するか分からない。食料を確保しつつ、夜間に備える。少しでも死から遠ざかる為に、少しでも命を伸ばすために、彼は死ぬまで、生き足掻く。野生動物の肉を火であぶり、喰らい、男は滋養を少しでもつけていく。しかし現実は非情であった。

 不十分な休養か、それとも消毒が悪かったのか。目覚めたのは良いが、晴嵐の肉体は発熱を訴えている。まともな医薬品もないし、救援の手も遠い。辛うじて分かる来た方角へ、不調の身体を意思を奮って進めていく。


 とりとめもない思考が過ぎる中、彼の視界には『亡霊』がちらついた。何かにつけて晴嵐の視界を横切る、海産物まみれの、金属の肌を持つ亡霊。ささやきを振り払った所で、人の気配がする。野盗を警戒しイチかバチかで飛び込むが、相手は同じゴーレム車に乗っていた、釵使いの亜竜種だった。

 どうやら止血処置をした時の煙が、目印になったらしい。あの後反対側から車両が通り、戦っていた者は助かったらしい。しかし散り散りになった乗客の捜索を、運航会社は行う必要がある。運命の皮肉が、晴嵐を救っていた。

 ボロボロになりながらも、何とかゴーレム車に担ぎ込まれる晴嵐。安全を察した所で、晴嵐は意識を手放した。


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