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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第一章 異世界編

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ウォームアップ

前回のあらすじ


 酔いつぶれるオーク共の脇を抜け、ねぐらの洞窟の上にある通気口へ、反逆者のオークは晴嵐を誘導した。改めて計画の詳細を伝え、晴嵐は救出対象の容姿を詳しく聞く。直接対面するのはこれで最後と言い残し、互いにやるべき準備を進めた……

 早朝……森に囲まれた洞窟の背面、木々に囲まれた泉の隅で、一人のオークが体を動かす。

 青い切っ先が陽光に照らされ、放たれる刺突が風を切り裂く。崩れ去る人影を見届けた直後に跳躍し、腕甲に覆われた左手を木の枝へのばした。

 片手で掴むと同時に幹を蹴り上げ、次の木へ飛び移る。獣人に負けずとも劣らない立体機動を駆使しながら、握ったレイピアで人形を貫いていった。

 戦闘訓練用魔導具が、立体投影標的ホロターゲットを動かしオークを狙う。七割を撃破しても、最高難易度では士気が下がらない。残り六体の幻影が遠隔攻撃を仕掛けてきた。

 すぐさま木を盾にし、射撃の切れ目を待つ。隠れた相手へ三体の幻影が集まり、大型の弾丸を成形した。オークごと命中判定を持つ攻撃を放つつもりのようだ。

 即断即決。オークは影から飛び出し、詠唱する相手にではなく、警戒中の一体を蹴り飛ばす。吹き飛びながら霧散する人影を尻目に、棍棒を振り下ろす幻影を『腕甲から発生させた魔法の盾』で受け流しつつ、背後から迫るもう一体に衝突させた。

 もつれあう影を背に、正面から大型弾が迫る。オークは引かず、むしろ全力で駆け――着弾直前でスライディングで下をくぐった。三体分の幻影弾が、もつれあう二体の幻影を吹き飛ばす。背筋と、肘と、尻の筋肉を律動させて跳ね飛ぶように上体を起こし……構えたレイピアが急所を穿った。全滅を認知した魔導具が、音声を流す。


≪設定数の標的消失。対集団訓練・最上級を終了します≫


 血を掃う動作の後、愛用の剣を鞘に納める。立体映像故にに汚れはしないが、実戦では必要な事だった。身体が覚えた挙動は、訓練でも怠らない。

 本当なら次に挑むのだが、気配を感じた彼は背後を見つめる。寝不足なのか、目にクマを浮かべた仲間が声をかけた。


「よーう。今日も早いなスーディア。休んでなくていいのか?」

「……大事な日だからこそ、いつも通りか確かめないと」

「相っ変わらずクソ真面目だな」


 呆れて首を振る友は、傍目に見てもやつれている。不審に思ったスーディアが歩み寄ると、友がそのまま耳打ちした。


「相棒、良い知らせがる。聞くか?」

「……彼女についてか?」

「あぁ……村からの隠密が一人近くに来てる。お前と別れた後ナイフで脅されてな?」


 スーディアが驚愕に目を見開く。反応を待たずに続けた。


「大事なのはこっからだ。そいつに上手い事話をつけて……お前と長が決闘してる間に、俺が用意してたプランで助け出す算段になってる」

「! 本当か?」

「あぁ。だから前話してた『オレが気づかれる可能性』は消せた。おまけにかなりの腕前だ……確実に逃がしてくれる。断言できるぜ」


 疲弊を感じさせた理由はそれか。きっと早朝に仕込みを済ませたのだろう。聞く限りでは命の危険もあったに違いない。スーディアは頭を下げた。


「……すまない、ラングレー」

「おいおい、そういう時は謝るんじゃなくて礼言ってくれよ」

「そうだな……ありがとう」

「昨日も言ったが、まだ早いっつーの」

「全く、どっちだよ」


 軽妙なやりとりが胸にしみる。一人ではない。孤独でない実感が魂に火を入れ、スーディアはやるべきことを口にした。


「俺は出来るだけ粘ればいいんだな? 彼女が逃げ出せるまで」


 役目を理解し、己を捧げる意志が全身に力が入る。彼の覚悟を見た友は……シニカルに笑った。


「……いいや」

「何?」

「オレが救出役ならそうするしかなかった。けどアイツなら、お前が最短でぶちのめされても……絶対問題ない。何よりさ、お前はそんな器用な事できねーよ」

「……」


 つられて苦笑してしまう。全く以てその通りだった。

 世を渡る器用さ、スーディアにはない。率直に過ぎる物言いは往々にして疎まれる。だからこそ……彼はこうして反逆するに至ったのだ。

 改めて、得難き友の存在に感謝する。スーディアが盲目になりそうな時、しっかり肩を叩いて、目を覚ましてくれるラングレー。彼がいなければ、自分はどこかで折れて腐っていた。

 肩ひじを張るオークへ、激励の言葉を友は贈る。


「だから……お前らしくやりゃあいい。ケツは全部オレが持ってやる。そして出来れば……あのクソッタレな長に一発ぶち込んでくれ」

「……あぁ。必ず」


 固く握り、突き出した拳を打ち鳴らす。滾る血潮が鼓動を刻み、戦意が研ぎ澄まされ目が覚めるようだ。

 鋭敏になった感覚が、不意に何かの気配を捉える。朝日と木陰の間から、誰かかこちらを見ている……? 背筋がひやりと冷たくなり、オークは木々を注視した。


「どうした? スーディア」

「いや……今誰かに見られた気が……」


 群れの誰かに見られたか? しかしそれなら隠れる必要もない。会話しつつ警戒しても、二回目の視線は感じなかった。


「……気のせいか」

「やっぱりちょっと緊張してねぇか? もう休んだ方がいい」

「そう、かもな」


 本番に備え、ある程度は身体を休める必要もある。一度泉の水で身を清め、スーディアは群れの中へと戻った。

 木々の隙間に潜む元老人には、最後まで気が付かなかった。

用語解説


立体投影標的ホロターゲット


魔法の幻影による、戦闘訓練装置。素振りよりずっと、緊張感のある訓練が可能。幻影の動きも、ある程度難易度設定も可能のようだ。

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[気になる点] 副題がヴォームアップになっていますが、ウォームアップの間違いでは?
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