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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第四章 亜竜自治区編

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輝金属産業の弊害

前回のあらすじ


 専用の圧力窯での精錬は時間がかかる。材料を入れた金属筒を入れ終えたお姉さんはそういった。なので、既に熟成を終えた筒を取り出し、最後の過程に入る。真っ黒い岩石をピックと金槌で砕き、発掘作業のように進めていくと……熟成の終わった、完成した輝金属が顔を出した。

「とまぁ、こんな感じで輝金属は出来るんだとさ」

「はー……」


 思わぬ方向に話が逸れたが、ラングレーの体験談は中々面白いものだった。晴嵐のいた世界にはない金属、輝金属について知ることが出来た。

 知ったところで、別に役に立つかは微妙だが……やはり身近な物の由来や、どう作られているかを知るのは面白い。地球が平和だったころの話だが、テレビ番組で『身近なモノの工場』を放送する番組は、定期的に流れていた気がする。今の晴嵐も、それを聞き終えたような気分だった。


「溶岩で包んで、圧力と熟成か……他の所では作れそうにないな? 産業を独占している訳ではなさそうか」

「そうだな。『不当に』輝金属を独占してるって感じはない。溶岩がなきゃ熟成が出来ないから、山ん中で精錬所を作るしかないんだろう」

「ふむ……」


 宝石が精製される過程を、模したような製造法は溶岩が必須らしい。それも、天然物である必要があるのだろう。人工的なやり方も出来るのかもしれないが……金属が液状になるような高温は、魔法の力を使っても簡単に作れるとは思えない。諸々の手間を考えれば、火口に製造所を作るやり方が合理的だ。考え込む晴嵐に対して、何を思ったのかラングレーはこう言った。


「ま、邪推したくなる気持ちもわかるさ。あそこ、かなり金回りがいいからな……」

「そうなのか? いやそうか、輝金属はこの世界で必須。だがその大本は『ドワーフ山岳連邦』と、人魚族の所に限定されているから――」

「そ。輝金属産業がありゃ、あの地域は金に困ることはない。実は、作業中以外のドワーフの人たちは、かなーりだらしなくてな……」

「うん? どういう意味じゃ?」

「あー……要点だけ話してたからアレなんだが……」


 言いづらそうなラングレーに対して、晴嵐は静かに続きを待つ。オークの彼は周辺を見つめ、声色を下げてこっそり告げた。


「しょっちゅう飲んで酔っ払ってるわ、賭博が横行してるわで……あんまりガラが良くないんだわ。金銭感覚も麻痺してるんじゃないかアレ……」

「えぇ……?」


 晴嵐は困惑した。今まで聞いた話が、それ一つで全部吹き飛んでしまった。苦笑いするラングレーを見るに、恐らく嘘ではあるまい。堅物の職人気質を持っているが、日常生活はだらしないらしい。

 けれど晴嵐の心は、不思議と腑に落ちるところがあった。

 安定して大金を稼げる産業を担っている『ドワーフ山岳連邦』なら、恐らくそこで働いている間は、金に困る事はあるまい。生活も、戦闘も、運送も……この世界では便利な魔法の金属、輝金属が必要だ。

 現に晴嵐も『ライフストーン』を使い、『ポート』を使い、『ヒートナイフ』も携行している。別世界から来た晴嵐さえ、その利便性は身に染みていた。表面上は隠しつつ、反応を見るために聞いてみた。


「……見学中の話を聞く限り、そうは思えなかったが」

「そりゃ子供達の前では見せねぇよ。話聞けそうな職人探してる最中に……裏側を見ただけさ」

「治安は悪いのか?」

「それが……そうでもないんだよ。大金スってスカンピンになっても、変に荒れるドワーフはいない」

「だろうな。ドワーフ職人は輝金属を作っていれば、金がいくらでも湧いてくる」


『ライフストーン』が壊れた時を思い出す。輝金属は頑丈だが……経年劣化はするし、壊れる事もあるだろう。新しい魔法や改良を進めれば、買い替えも起こるだろう。この輝金属産業は、衰退する事はそうそう起こり得まい。金の感覚が狂っていると言う評価も確かだろう。渋い顔をする晴嵐に、もう一度ラングレーは周辺を伺ってから告げた。


「そうだ、金と輝金属で思い出した……セイラン、この場所に長い事滞在する気か?」

「ん? あまり深く考えていないが……」

「…………そっか。いや、ちょっと妙な動きがあって……俺が出発する直前の話なんだが、『緑の国』から輝金属の注文が多く来ているって話だ。主に矢じりの奴は、攻撃系の魔法を使える出力の奴。まるで――」

「――戦争の準備をしているようだと?」

「……確証はないけどな。ただ、別の噂もあって『緑の国』内部で、吸血種の重鎮が死んだから……なんとなく民衆が不安になって『個人で身を守ろう』って風潮が生まれて売れてるって説もある。にしてはちょっと仕入れ過ぎって意見もあったが……何とも言えない感じだ」

「詳しいじゃないか」

「酔っ払いに奢れば簡単に聞き出せたさ。誰にだって出来るよ」


 謙遜を挟んでいるが、このオークの情報は晴嵐の知る事情と合致している。

 間接的にとはいえ、晴嵐はその事件に関わっているし……不穏な空気があるからと、早めの出国を勧められた覚えもある。頭を掻いて、晴嵐は考え込んだ。


「……用心に越した事は無いか」

「んー……そう断じるのもなんか……うーん。正直、責任を取れないからさ。どっちに断言しても」

「なるほど、微妙な所か」

「……半端で悪い。でも今の段階じゃ、どっちにも取れる感じがする。特に用事がないなら、さっさと国境沿いから離れた方がいい。緑の国と亜竜自治区は、過去も何度か戦争状態になってる。ありえない話じゃない」


『ありえない話じゃない』と『実際に起こるかどうか』の差は大きいが……予兆が見えているのなら、できる範囲で備えを進めればよい。微妙な線であるならば、どちらでも良いように、柔軟に備えればよいのだ。

 ふと、そこで晴嵐に疑問が生じた。目の前のオーク、ラングレーとの関係はさほど良いものではない。少々親切が過ぎるのではないか? 晴嵐が尋ねてみると、肩をすくめてラングレーは答える。


「スーディアに忠告したのに、セイランの旦那に伝えてなかったら……」


 大げさに怯える様子で、もう一度首を掻っ切る動作を見せるラングレー。彼も彼で、用心深い性格らしい。


「スーディアなら、セイランの旦那にも話すからな。変に隠すとこじれる」

「そうかい。で、お前さんはどうする?」

「オレは商会の護衛で『首都ユウナギ』に移動するからな。自然とここから離れられる」

「抜け目がないな」


 変わらずの飄々とした様子のラングレーに、皮肉めいた笑みが自然と浮かぶ。相手のラングレーも似た様子だ。意外と波長が合うのかもしれない。ひとしきり笑った後、飄々としたオークに別れを告げた。


「それでは、また何かあったら情報交換しよう。お互い、あまり期待せずにな」

「だな。旦那とは近すぎると怖い。後ろから刺されそうだからな」

「フン。無闇に殺しはせんわい」

「必要ならるって事じゃねーか」

「なら精々、わしの邪魔にならんようにする事じゃな」

「ハハハ……気を付けるよ」


 最後まで皮肉を言い合うが、不快感が薄いのだから不思議なものだ。

 軽くまたかかわった後、二人のひねくれ者は再び別れた。

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