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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第四章 亜竜自治区編

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輝金属の精錬法・4

前回のあらすじ


 職人の感覚で精錬を進める、ドワーフのお姉さん。人魚族の方法と比較しつつ、特別な機材などを紹介していく。家が三つ建つという専用の圧力窯へ、材料を混ぜ終えた金属の筒を入れていった。

大きい四角い金属の容器に、マグマと鉄を混合したモノが収められていく。

 周辺の職人も精製作業を進めているのだろう。筒状の容器が次々運ばれ、熟成用の圧力釜へ収納されていった。いくつか纏められて、一度に熟成を行うらしい。作業を終えた所で、お姉さんが向き直った。


「後は、時間をかけて熟成させ……もう一工程で『輝金属』の精錬は終わりです。ちょっと時間がかかるから、今日は熟成後の奴を持ってくるね」

「あれ、窯の中は時間が早いんじゃ……」

「それでも時間がかかるの。本当は数十年から百年単位でかかってしまう過程だから……魔法があっても、一瞬では終わらせる事は出来ない。数日はかかる」

「なるほど」


 魔法の力があったとしても、窯に入れてすぐ終わり……とはいかないらしい。元々数十年かかる年月を考えれば、かなりの時間を圧縮できるのだから、十分ではあるのだろう。ここでツアーは終わりかと思いきや、軽くお姉さんが声をかけてから、奥の方へ向かっていく。少しの間離れた後、ドワーフのお姉さんは金属の筒を、台座に乗せて運んで来ていた。

 その周りには小さな指輪と、金槌とノミのような、アイスピックのような道具がたくさん並べられている。首を傾げる見学者たちに向かって、彼女は説明を再開した。


「今日は、あらかじめ熟成を終えた物を用意しておきました。あの窯の中で数日、適切な温度と圧力をかけて寝かせると……こうなります」


 たっぷりのマグマと少量の鉄を混ぜ込んだ、金属の筒。熟成を終えたというその中身を、ドワーフは慣れた手つきで開放を進めた。蓋を固定する金具を外し、輝金属が姿を見せると思いきや……現れたのは『ごつごつとした、真っ黒い岩石の塊』だ。


「あれー?」

「んん?」

「なにこれ?」


 予想外の物体に、子供も大人も首を傾げる。一体何だこれは? とても精錬の終わった物体には見えない。何が何だか分からない様子の皆に対し、ドワーフのお姉さんは解説に入った。


「これは、冷えて固まった黒岩石。普通の火山が噴火して、マグマが冷えて固まると出来る物体です」

「??? コレで輝金属が出来るっすか?」

「いえ……実はもう『輝金属』は完成しているのです」

「何を言ってるのか全然わからない……」


 目の前の容器にあるのは、クズ鉄以下の岩石の塊ではないのか? 混乱する面々の前で、ドワーフは指輪を手に取り装着する。どうやら『鎧の腕甲』を小型化した、指輪タイプの物らしい。目の周りと両手を保護する光の幕を確かめ、話しつつドワーフは手を動かした。


「この岩石の中に、輝金属が精錬されているのです。最後の作業はこの『余分な岩石を取り除いて、中で結晶化した輝金属を取り出す』工程なの」

「つまり……どういう事?」

「楽しい楽しい発掘作業よ」


 そう言うと、アイスピックを筒の端に当てて、固まった岩石と容器の間に差し込む。何度か動かして剥がしていく。がり、がり、と耳障りな音を立てて、固まった岩石と容器を分離させていく……

 けれど手作業では限界がある。底の方にこびり付いた岩石に対し、アイスピックを固定し、上から金槌で叩いて剥がしていく。乱暴でやかましい音と共に、容器の底から岩石を引きはがしていった。

 今までで一番うるさく、乱雑な工程に子供たちが耳を塞いだ。高音で大きな音は頭に直接刺さるような不快感がする。よく聞けば周りからも響いていたはずだが、距離が近いと非常に耳障りだ。

 そうして力を加えて、やっと容器から岩石が剥がれた。ゴトリと大きな音を立てて、真っ黒い岩の塊が転がる。どう見ても使える金属には見えないが……そこでドワーフのお姉さんが言った。


「さ、ここからは手伝いを募集するわ」

「お手伝い?」

「そ。この岩石の中に、精錬の終わった『輝金属』が眠ってる。この二つの道具を使って掘り起こすの」

「はー……」


 手に持った金槌とピックを見せて、子供たちをこう誘った。


「やりたい人は指輪をつけて。岩が目に刺さると危ないから……この指輪で防護するの。手も守ってくれるから、手伝ってくれる子は身につけてね」

「はーい!」


 なるほど、指輪は多分『鎧の腕甲』の小型版だろう。作業の際の危険から身を守るための道具か。子供達が岩に群がる中、興味と好奇心に負けたラングレーも、その作業に加わった。

 大きな岩石を取り囲んだ人たちが、ピックに金槌を当てて剥がしていく。意外と脆いらしく、さほど力を入れずとも簡単に剝がれていく。子供の力でも、コツさえ掴めば次々と剥離していく……けれどラングレーは、逆に不安を覚えて質問する。


「これ、大丈夫なんっすか?」

「何が?」

「あんまり勢いよくやると、輝金属まで傷ついちまうんじゃ……?」

「へーきへーき。このピックはただの鉄。精錬の終わった輝金属なら、突いたぐらいじゃ傷つかない」

「なるほど」


 安心してラングレーは、外側から黒い岩石を子供たちと一緒に引きはがしていく。こうした発掘作業というのは、なんだか妙な楽しさがある。外で聞いてたやかましい破砕音も、自分の手で剥がすと不思議と気にならない。子供達全員で岩を削っていくと、徐々にサイズが小さくなっていく。大人の腕ぐらいまで縮んだ所で、ラングレーの手ごたえに「コツリ」と硬い感触を覚えた。

 簡単に崩れる手ごたえの岩石と違い、硬質な金属が弾くような感覚。子供達もたどり着いたのか、僅かに見えた鮮やかな黄色に歓声が上がった。


「ん。見えたみたいね」


 そのまま周りの岩石を引きはがし、覆う残骸を取り除いていく。脆いクズ岩と異なり、中の金属は激しい衝撃と、勢いよくピックで突かれたのに傷一つ付いていない。むしろ子供が使っていたピックの一つが、曲がってしまうほどの強度だ。鮮やかで頑丈な金属……間違いない。これが――

「これが、完成した輝金属。ね? ちょっとやそっとじゃ傷つかないでしょ?」

「すごーい!」

「わーお……」


 これが、輝金属の完成系。恐らくここから、さらに加工を重ねて自分たちの手元に届くのだろう。日頃使いながら、けれど初めて見る身近な金属の姿に、ラングレーは妙な感慨深さを覚えていた。

用語解説


輝金属の精錬法


 宝石と関係が深い輝金属は、現在『宝石が結晶化する過程をなぞる』事で生成される。マグマと鉄を混ぜ込み、専用の圧力窯で熟成、結晶化、精錬を行う。その特殊な材料のため、精錬は『ドワーフ山岳連邦』と『人魚族』のみで行っているようだ。

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