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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第四章 亜竜自治区編

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輝金属の精錬法・3

前回のあらすじ


 輝金属の精錬には、マグマと通常の鉄のインゴットが必要らしい。マグマに耐性のある金属球からゆっくりと容器に満ちていく溶岩。鉄のインゴットを混ぜ込み、別人のように表情を変え、煮えたぎった鉄と向き合うドワーフのお姉さん。その間だけは確かに、彼女は職人の顔をしていた。

「ふーっ……終わった。あ、ごめんね? 集中していたから」


 額の汗をぬぐうドワーフの顔は、お姉さんの顔に戻っていた。本当に作業中と人相が違う。一瞬別人のように思えたが、それは錯覚だろう。

 気を取り直した彼女は、今の工程を後付けて説明した。


「最後は包むために、上からマグマを垂らしたけど……この時も勢いが強いと、余計な混ざり方をする。だから、この棒を間に挟んで、落ちてくるマグマのバランスを取るの。均等に蓋が出来るようにね」

「へー!」

「あの~……いくつか質問、良いっすか?」

「どうぞどうぞ」


 好奇心たっぷりに手を上げるラングレー。オークの青年の彼は、素朴な疑問を告げた。


「どうやって、正しく混ざったかどうか分かるっすか? 見た目は全然わからないっすけど……」


 鉄の筒で煮えたぎる、金属と溶岩。わずかに鉄の色が残っているが、既に混ざった鋼鉄は判別が出来ない。いや、仮に見えた所で判別など不可能だ。だた溶岩がグツグツと煮えている、としか見えない。子供達も同じように声を上げると、ドワーフのお姉さんは微笑んだ。


「説明は難しいね……こればかりは経験なの」

「もうチョイ具体的に!」

「えぇとね……混ぜる時の感触や、鉄がいい塩梅に焦げる匂い……あ、あと蒸気の熱が違うの。溶岩と比べると鉄って冷たいでしょ? 混ざってくると温度が下がってくるから、微妙に髭の当たりに来るっていうか……」

「えー!? そんなのわかんないよ!」

「そうね。私も最初は全然わからなかった。人にもよるけど……毎日やっても三年はかかる」

「えぇ……この過程だけで?」

「うん。そう」


 完全に職人の発言に、子供たちはキャッキャと盛り上がり、大人たちの表情は引きつった。

 職人系の技師は『それが自然ですよ』という体で、さらりとエグい事を言い出す。言っている事は分からなくもないが、『出来る訳ないだろお前は何を言っているのだ』……それが常人の反応である。

 ところが職人たちにとっては、それが自然で日常となっている。時に浮世離れした気配を醸す者もいるが、恐らく特殊な環境で、技能を磨いてきた結果だろう。

 若干押されつつも、ラングレーは改めて次の質問を告げた。


「その、見た限りっすけど『輝金属』って、精製にマグマが必要ですよね? ここは山から引っ張って来てる……それは分かるっす」

「そうですね。精製にマグマが必要なので、輝金属は『ドワーフ山岳連邦』が主に生産地となっています」

「そう、でももう一つ生産地がありましたよね? 確か『人魚族』も輝金属を作ってる。そっちはどうやってるっすか?」


 少々ドワーフの顔が曇った。いわばライバルへの質問のようなものなので、心象は悪いかもしれない。しかし好奇心が勝ってしまったのだ。「ん~……」としばらく悩んだ後、彼女は回答する。


「実はあまり詳しくないの。お互いに競ってる所もあるし、変に技を盗まれたくないから」

「あー……スンマセン」

「でも、原料が同じ……マグマな事は確かです。確か、海底火山を使っていると……」

「かいていかざん?」

「海の底にも火山があるの。そこからも溶岩が出ているけど、どうやっているかは向こうも話してくれないから……けど多分、ここと同じやり方じゃないと思う」


 海の底にある火山……目に見えない場所だが、水中や海で生活する『人魚族』なら、自分たちよりずっと海の事を知っているだろう。独特の技術を用いているのだろうが、ライバル相手に話す義理はない。そのままの勢いで、ラングレーはさらに追加の質問を投げた。


「もう一つだけ、いいっすか? 持ってきたマグマって、いつも同じ成分じゃないっすよね? 自然から引っ張って来てる訳っすから、極端に質が悪い日もあるんじゃ?」

「あなた……ぐいぐい来るね」

「スンマセン。知りたいんで」

「ふふ、全然いいですよ。実はこのオークのお兄さんが言った事、たまにあるんです」


 えー!? と上がる声と、ちらちらと子供たちの目線がラングレーに向く。無垢な目線に背中がかゆくなる。なんでか分からないが、こういうキラキラとした瞳は……少し懐かしさも覚えた。落ち着くのを待ってから、ドワーフのお姉さんは、材料を入れた鉄の筒を、しっかり閉じつつ説明した。


「確かに、日によっては質が悪い時もあります。でも……逆にくみ上げるマグマの質が良い日もあるの。その時の余りは冷やして、岩石として保存しておいたり……精錬後の残りを保存して、質の悪いマグマの日に混ぜて、成分を調整します」

「はー……なるほど」


 納得したラングレーや子供たちを眺め、お姉さんもにっこり微笑んだ。材料の詰まった鉄の筒を、力強く持ち上げて『四角い鉄の箱』へと運んでいく。棚の空いたところに入れると、解説が始まった。


「材料を入れた鉄の筒は、専用の圧力窯で熟成される。この窯は特殊でね……『中に生き物がいない時、中の時間を早めることが出来る』魔法がかかっています。宝石が結晶になるのって、本当はすごく時間がかかるからね……実時間だと、百年単位でかかっちゃうから」

「ひぇぇ……必需品っすね。でも、その魔法ってかなり特別なんじゃ?」

「そうね。一番高い仕事道具かな……お値段にするなら……家が三つぐらい建つかな?」

「高っ!?」


 大人も子供もびっくり仰天のお値段だ。すさまじい金額に言葉を失うしかない。意味深に微笑みながら、ドワーフの女性が、窯の中に金属の筒を収め入れた。

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