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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第四章 亜竜自治区編

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金属と熱

前回のあらすじ


 かつて共闘したもう一人のオーク、ラングレーからの接触にヒヤリとした心情を覚える。しかし再会した男は、意味深に笑って告げた。

 ……どうやら、晴嵐の隣にいた亜竜種は女性だったらしい。完全に不意打ちを食らった晴嵐は頭が真っ白になっていた。混乱する晴嵐を堪能した相手に、晴嵐は改めて用事は何だと問う。

 あのままポート周辺で話を進めてもよかったが、いかんせん『武人祭』中は人通りが多い。人様に聞かれて困る内容でもないが、客引きもいるし落ち着かない。

 店に入ってもよかったが、互いに長話するような関係とも違う。この二人、ラングレーと晴嵐の関係性はなかなか微妙な間柄だ。


「初めて会った時は、こんな事になるとは思わなかったよ」

「だろうな。場合によっては、お互いに死んでいたかもしれん」

「死んだにしてもオレだけだろ。セイランの旦那は、なんだかんだで生き延びるさ」

「どうだかな。お前さんも、のらりくらりは得意だろうに」


 皮肉なのか牽制なのか、それこそ『のらりくらり』とした会話が続く。一応協力関係を結び、そして成功した相手ではあるが……すぐに信用関係にならないのも無理はない。

 かつて晴嵐はホラーソン村で、偵察役としてオークの集団を観察した。そこではぐれた一人に忍び寄り、情報を吐かせたのだ。ラングレーはその際、晴嵐のナイフで脅されている。


「やっぱバレてたか……ま、お陰で命拾いしたがね。咄嗟に交渉に持ち込まなかったらアンタ……」


 自分の首を、親指で掻っ切る動作をするラングレー。一見すると挑発行為だが、現実に起こりえた可能性の一つである。彼なりのブラック・ジョークに、晴嵐は苦く笑うしかない。

 軽くラングレーは肩をすくめて、気負いなく続けた。


「でも誤解しないでくれよ? 別に旦那を恨んじゃいないんだ。いい転機になったからな」

「そいつはどうも。もう少し釣り上げても良かったか?」

「終わった取引に、後で文句言わないでくれよ」

「あぁ。今更の話だからな」


 なかなか本題に切り込めないが、晴嵐はむしろ安心していた。妙な笑いがこみあげる男に対し、怪訝な顔をするラングレー。へそ曲がりの彼には珍しく、晴嵐は素直に本音を吐いた。


「いや……これぐらいの距離が普通じゃと思ってな。スーディアの反応が温いだけか」

「はは……アイツは良いヤツだし、狭い世界に閉じ込めるにゃ惜しい。実際武人祭でも勝ち進んでいるだろ?」

「あぁ。お前さんの見立ては間違っていなかった」


 スーディアの名が出て初めて、友人のオークは肩の力を抜いた。あの若いオークは、場にいなくとも人の関係を取り持つらしい。目つきから険が抜けたが、ラングレーは真剣なまま尋ねた。


「セイランは試合見てたか? オレはちょっと忙しくて、見れなかったんだが……聞きたい事がある」

「なんじゃ?」

「スーディアの剣は、発動したか?」


 彼の保持する青いレイピア――透き通る美しい刀身の剣は、異質な魔法が付与されている。遥かに質量が上の大剣を、細身のレイピアで切断する……この世界基準でも異質な機能だ。男は首を振る。


「試合中は見ていない。わしの知らぬところで、発動している可能性はあるが……」

「少なくとも、スーディアが使いこなしている印象は?」

「ない……と思う」

「じゃあそっちは謎のままか……」

「そっち?」


 謎多き彼の剣について、ラングレーは何か知ったのだろう。神妙な顔つきで、彼は『ドワーフ山岳連峰』での話を始めた。


「ここでスーディアと別れた後、オレは『ドワーフ山岳連峰』向かった。あそこは輝金属を生産している地域だ。手がかりの一つや二つあると思ってさ」

「で、どうだった?」

「何人かの職人に聞いたが……超高温を発する火属性魔法を付与する。それ自体は難しくないらしい。やろうと思えば、いくらでも作れるそうだ」

「なんだと?」


 意外な事実に目を丸くする。あの剣だけが特別と考えていたが、違うのだろうか? まだ晴嵐が『この世界での』経験が薄い可能性もある。咄嗟に男はこう返した。


「スーディアの剣以外に、鉄を切れるような温度の武器は見たことないぞ。使えるなら『武人祭』の最中に、出てきそうなものだが……」

「お、鋭いねぇ……作れるってだけで、実用性は低い品になっちまうそうだ。どうもな? 超高温の魔法が使える輝金属は作れるんだが……『発動する輝金属の方が熱に耐えられない』らしい」

「……」


 金属は熱によって強度が下がる。対象を切ろうと温度を上げれば、魔法を発動する武器の方が持たない……理屈はわかるが、ならばスーディアの剣は何なのか。疑問を浮かべる彼に対し、ラングレーも渋い顔で続ける。


「あるとすれば……失われた技術や素材が使われたって話だ」

「……一気に胡散臭くなったな」

「そう言うなって。実はよくある話らしいんだ。千年前、この世界中が戦乱に包まれた話は知ってるな? その混乱の最中に使い切られちまった素材や、継承者がいなくて消えた技術は結構あるらしい」

「理屈は分かるが……なら良いのか? もしその通りなら……」

「そうだな。スーディアの剣は、直すのも難しい貴重品だ。絶対に壊さないようにって、職人にも言われたよ」


 半信半疑の晴嵐だが、ふとそこで気になった。


「……職人側には疑われなかったのか?」

「んー……割と疑わしく見られたけど、一人色々とお喋りな人がいてさ。試しに使い捨て前提で、何本かナイフを作ってもらった。そしたら……あぁ、見てくれた方が早い」

「こいつは……」


 オークの若者が取り出したのは、恐らく『発動すれば刀身が熱に耐えられない』ヒートナイフ。

 ――見覚えのある深い青色が、冷ややかな輝きを放っていた。


「職人に聞いた話をする。長くなるけど、いいか?」

「……頼む」


 その色合いの一致は、偶然とは思えない。晴嵐がエルフの地域にいた時、ラングレーは何を見、何を知ったのかを晴嵐も共有していった。

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