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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第四章 亜竜自治区編

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視点の差

前回のあらすじ


 曲剣ショーテルの二刀流と、トンファー使いの亜竜種が激しく打ち合う。一瞬のスキを突き、肉薄するトンファーとショーテルが至近距離で身を削った。片手を落とし、勝機に見えたその時、曲剣の魔法がその正体を現す。磁力を操る性質を用いて、落とした剣で背中を狙う。

 しかし亜竜種の戦士は、まったく見ないまま、尻尾で背後からの剣を絡めとり、正面から相手を圧倒した。

最後の魔手を跳ねのけた亜竜種の戦士に、惜しみない喝采と歓声が贈られる。勝利者となった亜竜種が一礼をして去った瞬間など、一際声援が強くなったものだ。

 そこまで強く熱狂していないものの……晴嵐も軽く拍手をしておく。隣の亜竜種は緊張を解き、ふーっと長い吐息を漏らしていた。


「危なかっタ……よく気が付いてくれタ」


 完全な死角からの一撃、最後の攻防をクレセントはそう評した。


「しかシ……何故師は気が付いたのダ? 完全に視界の外だったはズ……」

「む……亜竜種特有の感覚ではないのか?」

「我々だって全能ではなイ。尻尾の優位はあるけド、意識せず動かせるわけじゃないヨ」


 これには晴嵐も苦笑い。背後から迫る刃を、尻尾で絡めとった場面を見て……「亜竜種特有の何かがある」と勘違いしてしまった。先入観とは恐ろしいもので……何か一つ優位があると、他の所まで優れていると思ってしまう。同族のクレセントが違うと言うなら、純粋な技能で察知したのだろう。


「殺気を感じたのカ……?」

「それもあるが、正面から一対一タイマン中に、相手の殺気を感じるのは普通じゃろう。何か仕掛けてくることは察せても、どこから、何が狙いかまで感知できるか?」

「師匠ならあるいハ……経験豊富な方ダ」


 推測を述べるも、深くは納得していない様子だ。観客視点の自分たちには、現場がどう判断したのかわからない。背後から迫る凶刃を見ていた身としては『見えていないはずなのに何故』と思うことしかできない。

 真剣に考察を重ねる最中で、不意に亜竜種の目線が逸れた。晴嵐の背後にいる『不純なギャラリー』に目が行っている。軽く咳払いをして注目を戻すと、クレセントが唇を尖らせる。


「いや済まなイ。あの者たちとはこういう会話が出来なくてナ」

「と言うと?」

「勝った負けた程度しかわからなくテ。何故勝ったかとカ、どこがよかったとか全然興味がなイ。今は多分文句を言っているネ。相手は卑怯だとカ」

「一般的に、卑怯な手筋ではあるじゃろう」

「けどよく練られていタ。本気でらなきゃあのタイミングで仕掛けなイ」

「……最後まで手を隠していたしな」


 最後まで磁力を操れる事を隠し、剣を取り落としたのは苦し紛れではない。決まりこそしなかったが、十分な勝算を見越した一手だ。

 クレセントは卑怯かどうかより、如何に勝利へ至るかへを重視するようだ。卑怯とこそ口にするが、勝ち筋として有効なら文句はないらしい。

 亜竜種は、静かに息を吐いた。


「あの亜竜種たちは結果しカ……いいエ、結果さえもどうでも良いのだと思ウ。あの人がどれだけ難しい事をしてるか興味がないノ。相手のことだって分析することもなイ。同じものを見ているはずなのニ、どうしてこうモ……」


 ただ嫌っていた今までの様子と違い、深い困惑が見えた。拒絶するような強い文言の中に、分かり合えぬ悲しみが微かに滲んでいる。晴嵐はその様を見て、クレセントの心象を察した。


「意識の差……か。世代断層にも似てるかもな……」

「世代……なにそレ?」

「お隣の国の社会問題じゃよ。長生きなもんだから世代ごとに環境が違いすぎて、年代ごとに意識に溝が生まれてしまうそうだ。それは年代に限った話ではあるまい。あまり意識しないだけで……人と人にはいつだって、意識に差があるものさ」

「ワタシたちにも……?」


不安げなクレセントに、こくりと晴嵐は頷いた。彼は軽く周囲に目を配らせて、自分の発言を再認する。

同じ武人祭という行事に熱中し、けれど全く違うモノを見ている人々が周りにいる。

軽く流して娯楽として見る者。純粋にその技を研究する者。ルックスの良い人物に酔う者。ただ単に騒ぎ立てたい者。そして騒ぎに乗じて儲けたい者。

一通り観察の目線を注いでも、人々の違いは見て取れる。そして悟ったつもりの晴嵐さえ、このイベントの中にいる一人でしかない。もし興味のない誰かが通りかかったとしたら……『武人祭の観客』として一くくりにまとめられ、その差など気にも留めないだろう。


「誰もが、まったく寸分変わらず、物事を同じように感じることはできんよ。限りなく近づく事さえ容易ではあるまい」

「同族でさえモ?」

「血が繋がっていたとしても……わしは全く安心できん。用心が過ぎるのかもしれんがな。そういう意味では、わしは異種族の相手と話す方が安心できる。分かりやすく違うお陰で、自然と気を張れるからな」

「……変なノ」

「やかましいわい」


 彼がクソジジイの発言を漏らすのと、クレセントが晴嵐の背後に視線をやるのは同時だった。またギャラリーが気に入らない行動をしたらしい。亜竜種と目を合わせたまま首を振る。


「まったく……分かりやすいな?」

「ウ……よく背後のことが分かるネ」

「そりゃお前、目線が泳げば察する……あっ」


 それは、突如として解けた謎だった。あまりの偶然の発見に晴嵐は、その場でくっくと笑い始める。ぽかんとする亜竜種に軽い謝罪を挟んでから、彼女の師が何故背面を見れたのかを伝えた。


「種が分かったぞ……目線だ。相手が落とした剣へ向けた、目線で察したんだ」

「あッ……なるほド……」


 正面から対決している相手の、眼球の動きは気になるものだ。上の空だったり、変な方向に焦点が合っていればすぐにわかる。恐らく剣を落としたショーテル使いも、外したのはほんの一瞬だろうが……トンファー使いは見逃さなかったようだ。

 すっきり謎が解けたお陰で、晴嵐の気分は良い。が、何故か亜竜種は非常に顔が渋い。何故かと尋ねれば、こんな返答が返ってきた。


「あまり好きではない輩のお陰デ、謎が解けるのもネ」

「何が役に立つかわからんもんだな」


 思いっきり臍を曲げているが、もうクレセントは何も言わない。憮然とした亜竜種を他所において、ふとスーディアから連絡が無いかと気になり、ライフストーンをポートに触れさせると変色する。

 メールの差出人の名前は『ラングレー』……

 かつてグラドーの森で奇妙な共闘を演じた、もう一人の若いオークの名前だった。

 作者からのおしらせ


 現在、執筆の終えた新作の投稿中です。そちらに手を取られているもので、更新ペースが落ちています。すいません。ですが、7日~10日ぐらいのペースは維持できると思いますので、気長にお待ちくださると幸いです。

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