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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第四章 亜竜自治区編

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鬼気迫る攻防

前回のあらすじ


 スター選手の登場に沸くギャラリー。溜息をつくクレセントを晴嵐がなだめる。亜竜種にとって優れた容姿を持つ戦士は、相手の曲刀、二刀流のショーテルに苦戦していた。

 騒がしい面々が困惑する中、真剣な眼差しの者たちも息を飲んでいた。

 ショーテル使いの攻撃が続き、亜竜種側が押されている。上手い事捌いてはいるが、ショーテル使いの攻めも決して単調ではない。左手側を横薙ぎに振るった直後、右手側のショーテルが真っすぐ突きいれられた。

 が、この突きは非常に曲者であった。剣が曲刀なため、ただの突きでさえ間合いが狂う。

 動作としては『直進』だが、歪んだ剣は曲がるような錯覚をもたらす。奇抜な装備の特性を、その戦士は十二分に生かしていた。

 視点を動かし見つめていた晴嵐は、その挙動を渋い顔で眺めた。


「傍から見とると分かりずらいが……あの武器、クソ面倒じゃな」

「セイランは戦った事ハ?」

「戦ったどころか初見じゃよ」

「そうカ……あなたならどう攻略すル?」

「む……」


 返答に困る質問だ。晴嵐としては、初見殺しを喰らわないための勉強中である。攻略法は一通り見てから考えるし、そもそも晴嵐は「武人」ですらない。攻略も何も、厳しいようなら逃げてしまえばよいのだ。

 が……全く戦闘を想定しないのも、対峙した時に危険であろう。しばし目を閉じ、思い浮かぶ手を適当に述べた。


「飛び道具が有効に見えるな。あの剣は間合いを狂わせるが、それは使い手側も同じ。視認しずらい針や棒のような……暗器系の投げ物は捌きにくそうだ。鎧の腕甲で弾かれるだろうが……」

「ふム……なるほど」


 答えが気に入ったのか、ライフストーンに書き込む亜竜種。実際に対峙してはいないが、やはり一度目にすれば……多少は知恵を働かせ、対策は思いつくものである。

 しかし対戦中のトンファー使いは、遠隔での攻撃が出来るのだろうか? 何度目かの攻防を重ね、開いた間合いから亜竜種の戦士が構える。


「……同じ結論に至りましたカ」

「何?」


 高速移動と飛行に用いていた、トンファーの魔法を左手側に集中する亜竜種。淡く緑色に発光する鉄の格闘武器が、ちりを巻き上げ風の弾丸を成形し――一発鋭く放たれる。

 やはり防ぎずらいのだろう。両手の曲刀を交差させ、放たれた風の塊を防ぐ。が、視界が塞がれた瞬間に、一気に亜竜の戦士は懐に飛び込んだ。

 一度距離を詰めてしまえば、間合いの有利不利は逆転する。

 外側に反った曲刀は、格闘距離においては「刃の部分がすぐに敵に命中しない」弱点となってしまう。対してトンファーは格闘武器だ。相手に張り付くような立ち回りで、亜竜種の戦士は曲刀を逃さない。

 有利不利の逆転に湧くギャラリーをよそに、その攻防の決死っぷりは鬼気迫っていた。

 曲刀使いはもう一度距離を取ろうと、不利な状況でも懸命に刃を振るう。不利が付くのは至近距離のみだ。この状況を脱すれば、もう一度逆転が見込める。


 当然亜竜種側も、そのことは理解しているだろう。ひたすら後退を試みる相手に対し、ベタ足の前のめりで敵を逃さない。遠隔からの不意打ちも、二度目からは対応されるだろう。この攻防で決着をつける覚悟が見て取れた。

 食らいつき、逃さぬと打撃を叩き込む亜竜種と

 この死地から逃れ、仕切り直しを狙うショーテルの二刀流。

 機動力と飛行に目が行きがちだが――晴嵐はその挙動に、クレセントと同様の鋭さを見る。師と仰ぐだけあって身体のキレが良い。一流まで研ぎ澄まされ、無駄を省いた挙動は、それだけで常人の技と比べて『早い』と感じる。ましてや決死の気を込めた全身は、画面越しでもひしひしと気迫が伝わってくるようだ。


「落としタ!」


 その猛攻に耐えかね、ショーテルの片方を取り落とす。崩れる均衡の音は金属音。手数の減った腰に打撃が掠める。直撃ではないが衝撃は十分だ。ぐらりと縺れる足、止まらない攻め、決着の予感に白熱する周囲の中で……男のドブネズミの勘が作為を察知した。


「何かおかしい。大げさに見える」

「エ?」

「なぜ落した剣に目線を……むっ!?」


 追い詰められたショーテルが、何か赤色の光を纏う。

 この世界の金属、特に武器であれば輝金属な事は自然だ。今まで一度も、ショーテルの魔法は発動していない。あからさまな気配を亜竜種に見せつけ、視線はちらりと片手側に向く。

 が、観客は全く別の物を見ていた。取り落としたもう片方の剣が青く発光し、カタカタと揺れ動いている。まるで相方の剣と引きあうような動作に、亜竜種が呻いた。


「磁力系の武器……狙いハ――」

「わざと武器を落として、死角から引き寄せて刺す気だ」


 タイミングも絶好と言える。

 長い不利の続いたフラストレーション。手にしたと思える好機。敵の武器を叩き落とし、勝利が見えたタイミングで発動させたのだ。

 卑怯極まる戦術だが、狙いどころは絶妙。それは均衡が崩れ、勝機に匂いに酔った僅かな隙に差し込まれた魔手。観客が息を飲む刹那、磁力に引き寄せられたもう片方の剣が背中に飛ぶ――

 直撃の機動。振り向きもしない亜竜種。逆転の一手が決まったかに見えたが――全く背面を見ないまま『尻尾』が跳ねあがり、亜竜種は背後から狙った剣を絡め取る。

 絶句するショーテル使いの顔面を、トンファーの一撃が貫いた。

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