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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第四章 亜竜自治区編

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飛び交う黄色い声援

前回のあらすじ


 判定勝ちという半端な決着と、ドワーフの姿勢が気に入らないとぼやくクレセント。真剣過ぎるクレセントに、純度を高めれば良いと言う話ではないと言うが、さほど心に響いていない様子だ。

 その後も特に付かず離れずの距離を保ったまま、クレセントと晴嵐は中継映像を眺めていた。どうやら晴嵐の意見は、受け入れがたい物らしい。それもまた仕方ない。一日二日でコロコロと変われる人間の方が珍しいし、この亜竜種の真剣さは、手合わせた晴嵐も良く知る所だ。

 それに……簡単に主義主張を曲げるような人間の方が、信用が置けないとも言える。生き残るために柔軟に立ち回って生きてきた、晴嵐が言うのだから間違いない。まぁ彼は、非難する資格のない人間だと言えなくもないが。

 しばらく冷めた空気が流れていたが、何試合か後に出てきた選手を見た途端、クレセントの目つきが変わった。待っていたと言わんばかりに食い入り、同時に周りから歓声が上がった。


 その声色は、明らかに場違いな物に思えてならなかった。今までこの周辺を包んでいた空気と言えば、闘争と競技への熱意熱気であり、良く言えば「男気に溢れた」悪く言えば「むさ苦しい」空気に満ちていたと思う。しかし歓声を上げた亜竜種集団は発するのは……アイドルが出て来た時のような、黄色い歓声だ。

 やはり周囲の観客も気になるのだろう。場違い感のある面々に、一瞬だけ目線が集中する。晴嵐もその一人だったが、隣の亜竜種は一瞥もくれないまま、かなり態度悪く舌打ちを一つ。あからさま過ぎる威圧に、関係悪化も承知で晴嵐は咎めた。


「何が気に入らんのか知らんが、落ち着け」

「……チッ」

「愉しみ方は人それぞれだろう? 変にガンを飛ばしてどうにかなるのか?」

「チッ」


 誰がどう見ても嫌っている。一目でわかる不機嫌に、トラブルの気配を感じて晴嵐は宥めた。反省の色は見られないが、必要以上に騒ぎも起こしていないから良しとしよう。しかし一体何事なのだろうか? 気を取り直して中継に視線を戻すと、トンファー使いの亜竜種――スーディアが予選で当たった奴だ……が入場中だ。片手を上げて愛想を振りまくと、もう一度黄色い歓声が沸き上がる。もう一度深い嘆息が聞こえて所で、ようやく晴嵐も原因を察した。


「まるでスターだな。それが気に入らんのか」

「師匠はお考えあっての事だかラ、別に気にしなイ。踊らされている阿呆が嫌いなだけヨ。ルックスばかりに目を向けテ……」

「異種のわしにはよくわからんが……亜竜種的には『カッコ良い』のか?」

「うン。前に突き出た唇、鍛え上げられた全身の筋肉と尻尾、そして光沢美しいしなやかな鱗……十人中九人が振り向く美男子に違いなイ。私も惹かれはするヨ」

「ふぅん……」


 異種族の美醜感覚は分からないが、どうやら亜竜種的には「美男子」らしい人物を見つめる。なるほど観察すれば、クレセントの指摘したような特徴を備えていた。惚れるかどうかはともかく、相応に引き締まった身体つきな事は、素人の晴嵐にも感じ取れる。

 有名大会に出る、容姿の優れた男性……黄色い声援が飛ぶわけだ。そしてクレセントが毛嫌いする理由も納得できる。純粋な闘争を良しとし、それを観察し楽しみとする気質では悪態の一つも吐きたくなるだろう。けれど追っかけを嫌うのはともかく、当人を嫌っている気配はない。軽く晴嵐が仄めかすと、クレセントは自分の得物を取り出して言った。


「あの人の下で学ばせてもらったかラ……実力の方も申し分ないシ」

「同じトンファーでも、戦い方が違い過ぎないか?」


 質問したのだが、しばらく返ってこなかった。

 それもそのはず、遂に試合が始まり、クレセントの瞳がぎゅっと細められている。集中し、少しでも学び取ろうと目を皿にしているのだ。あまりしつこく質問攻めにするのも気が引け、晴嵐も中継映像に目を向ける。相手のヒューマンが持つ武器は……あまり見ない武器の二刀流だ。半月を描く様に曲がった奇妙な剣である。あれでちゃんと戦えるのか? 素人の感想を浮かべる傍らで、唇を苦く歪める亜竜種が言う。


「ショーテル……面倒な武器ヲ」


 何がどう面倒なのかは、戦闘が進むほど晴嵐の目にも止まる。厳密には視点や角度が違うから、同じ感想かは分からないが……

 内側に曲がった奇妙な剣は、トンファーでの防御が難しい。曲面を持つ剣は中心で受けようとすると、背中側を引っ掻く様に切られてしまう。ギャラリーがやかましく悲鳴を上げたが、傷はかなり浅く戦闘に支障はない。騒ぐほどの負傷ではないだろう。確かに面倒そうだが、晴嵐はふと思いついたことを口にする。


「……飛べば良いのでは?」

「いヤ……間合いの不利は解消されないだろウ。あの曲刀は意外と長いのダ」

「ぬぅ……確かに面倒な武器だな……」


 間合いが読みずらく、防御も難しい剣か。近接格闘に特化した亜竜種には辛い武器だろう。本大会に備えて対策し、練習し身に着けたのかもしれない。少なくとも今まで目にしたことのない武器だ。

 が、やはり本戦まで生き残る選手は違った。亜竜種の戦士は踏み込みをあえて浅くし、防御に徹した。読みずらく防御の難しい剣を、注意すべき点を絞ることで見事に受ける。きゃあきゃあと騒ぐ者が煩わしいが、攻防の意味が分かる者にはさほど焦る局面でもなかった。

 しかし逆転の手があるのだろうか? ただでさえ得物で間合いに不利がついているのに、距離を取っては一方的に潰されてしまう。クレセントに僅かに滲んた汗は、晴嵐の感想と同じに思えた。

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