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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第四章 亜竜自治区編

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本戦開始!

前回のあらすじ


 朝早く起きた晴嵐はクレセントと合流し、防壁の魔法の応用技を覚える。朝早く起きた二人は、そのまま武人祭の放送を眺めに行く。互いに感想を言い合いながら……知人のオークの戦いを晴嵐は見つめていた。

 ついに上がった、武人祭本戦の舞台。予選の時もこの場に立ったスーディアだが、空気の違いをひしひしと感じていた。

 まず人の密度が違う。予選は多数の人間の乱戦だったが、今は自分と対面のドワーフの男のみ。百人以上が争えるコロシアムに、たったの二人が立つだけなら、広く感じるのも当然だろう。

 加えて観客の熱気も違った。人数も全然違うかもしれない。目線の熱量がまるで違い、スーディアは初めて、大舞台に上がる緊張を味わった。


「さぁー皆さま、お待たせしました! これより武人祭本戦、第一試合を開始いたします!!」


 場内に響く実況者の声につられ、観客が一斉に歓声を上げた。胸を昂らせる高揚感は、戦意だけじゃない。人々が発する洪水のような熱が、若い彼にも伝播していく。恐らくは目の前に立つ、対戦相手のドワーフも同じだろう。このドワーフはスーディアの予選にいた、四人組最後の生き残りだった。


「さて、本戦の方ですが……予選と一つ違う点がございます! それは『骨折や出血などを、持続的なダメージも疑似的に再現している』のです! 本当に死なない点は同じですのでご安心を。ですがら……より実践に近い環境で、競技を行う事が出来るのです!」


 この仕様は予選突破者全員に、事前に説明は行われている。アナウンスは観客向けのものだろう。別の解説者が補足する。


「これは大闘技場『ディノクス』限定の仕様だ。外の『闘技場』では採用されてないから、る奴は注意してくれよ。

……ところで誰かこう思わなかったか?『予選でもやれ』って。残念だがコレ、魔力の消費が激しくてな……二人に使うぐらいなら平気でも、何十人も同時に発動するには難しんだ。予選を勝ち上がった奴の特典って奴さ」


 俗っぽい言い回しで、もう一人の解説者が語る。特別な舞台に上がった実感が、今更ながら戦士たちの胸を熱くさせた。はやる気持ちがあったのだろう。闘志を燃やす二人の視線が合い、早くこの男と勝負がしたいとせがんだが、止められてしまう。


「さて両選手……それ以上は接近しないように! 距離をそのまま、武器を抜いて合図まで待機してください」

「おーおーやる気あるねー……まぁ落ち着けよ。猛っちまうのもわかるけどな」


事務的な前者の言い回しに対し、俗っぽい方は不思議と参加者を……つまりスーディアや対戦者に、寄り添ったような言い方だ。微かに引かれた興味の答えは、もう一人の解説者の苦笑で明かされる。


「やはり本戦の空気は違いますか……ミスター・ナトックも、かなり気が立ってましたものね」

「まぁな……四回以上前の事だが、それでもここの……真剣勝負を楽しめる空気はたまらねぇ」

「興奮して乱入しないで下さいよ?」

「ハハ。流石にそれはしねぇよ。まぁ気に入った奴は、後で『闘技場』に呼び出すけどな」

「血の気は多いんですね……」

「うるせぇ、ここにいる奴は大体そうだろうが」


 剛毅な声でガハハと笑う。以前舞台に上がった戦士は、経験を買われて実況席にいるのだろう。大まかに予想を終えたスーディアは、それを最後に正面の相手に集中した。

 相手は自分より小柄で、珍しい事に金属鎧を着こんでいる。装備した盾も物理盾で、『盾の腕甲』や『鎧の腕甲』を使わないスタイルだろうか? 右手に装備した武器は小型のメイス。一目では効力が分からない。

 対してスーディアは左手に『盾の腕甲』と、右手に透き通る青いレイピアを引き抜く。程よく力を抜いた自然体で、静かに呼吸を整えていた。

 彼の様につられて、ドワーフの戦士も高々とメイスを掲げる。交差する視線と緊張感に、第三者の声が答えた。


「それでは第一試合――スーディア・イクスVSモルガル・ヴィッド……試合始め!」


 大歓声がコロシアムを包むが――二人の戦士には聞こえていない。聞こえていても、意識に入っていなかった。

 初手でスーディアが踏み込む。脱力からの急加速。先手必勝と青い刺突が眼球を狙った。

 が、それで決まるほど甘くはない。左手の盾が刺突を防ぎ、反撃の鉄槌がスーディアの頭部を狙う。盾の腕甲で対応し、両者は近距離戦で組みあう。

 相手の呼吸、足音、敵の全てに全神経を集中させ、盾と武器が、武器と盾が激突する。数手の攻防の後に距離を放し、にらみ合う両者の心象は似通っていた。


「なんと……構えはほぼ同じですか? これは……」

「片手に武器を持ち、片手には盾……メイスとレイピアの違いはあるが、スタイルはかなり近いものがあるな。スーディア側は通りが悪いが、モルガル側は装備が重い。さぁてどうなるか……」


 そう。誰が見ても明らかな所だ。魔法による防壁を用いればいいのに、相手はわざわざ装備重量を上げている。その後も何度か小競り合いを進め、スーディアはじっくりと攻め手を重ねる。

 急所は防具に覆われ、僅かな箇所も盾で防がれるが、彼は決して焦っていなかった。時間は確実にこちらの味方だ。質量武器を食らえば危険だが、スタミナ切れを狙い、不規則に断続的に攻め、圧をかければ徐々にスーディアが有利になる。だか彼は油断しなかった。予選を勝ち上がった選手が、そんな初歩的なミスを犯すと思えない。細心の注意を払ったまま、彼は初動からじっくりと攻め続けた。

用語解説


大闘技場・ディノクスの仕様


本来「闘技場」の魔法で再現できない、出血や骨折などのダメージも反映できる。エネルギーの消耗が激しいので、乱闘での発動は難しい。

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