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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第四章 亜竜自治区編

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熱心な戯れ

前回のあらすじ


 うろこ状に展開した鎧の腕甲を見抜かれ、肝を冷やす亜竜種の戦士、クレセント。

 油断ならぬと構え、戦闘を続行する両者。意外な反応の対峙を繰り返し、最後セイランが特殊な投げ技を放つ。地面に寝そべる男と対照的に、クレセントは宙に投げ飛ばされた。

 やはり通常の投げは効果が低い。最初に組み付いた時点で晴嵐は感づいた。

 トンファーと打ち合い、相手が一番深く踏み込んだ所で仕掛けたのだが、全く投げれる気がしない。相手が直立二足歩行なら、ほぼ確実に行けるタイミングだったが……恐ろしく強靭な体幹だ。

 まるで巨木を引き抜こうとするが如く。決して力業を用いていないのに、これではテコでも動きそうにない。通常の体術では効果が低いと判断し、晴嵐は別の投げ技を試した。

 押してダメなら引いてみろ。自重も利用した投げ技「巴投げ」は、転がってしまう分リスクが高い。その後の状況が大変よろしくなく、敵の数が多いと使えない。今はタイマンの鍛錬中故に、物は試しと試みる。

 結果は……何とか決まったとしか言えない。

 完全に対応が遅れていた。相手が油断していたから、決まった感触がある。中空に放り投げられたオレンジの鱗が、驚愕の色に染まっていた。上下逆さの視界で見送る晴嵐。すぐには立てない体勢の中で、今度は彼が驚かされた。


 崩れたはずの体勢から、くるりと背と尻尾を丸める。飛ばされた勢いのままぐるぐると回りはじめ、そのまま球体のように着地。慣性のまま地面を転がって衝撃を分散した。

 まるでアルマジロだ。多少リスクを負ってでも、状況はイーブンと予測していたのに……クレセントは勢いを利用して、転がって晴嵐に突撃してくる。

 地に仰向けの晴嵐は、逃げる事も出来ず見つめるしかない。

 猛然と転がる球体状の亜竜種に、晴嵐は潰されてしまった……


***


「アー……大丈夫? 起きれるル?」

「正直しんどい……全く……」

「カエルが潰れたような声だったネ」

「言わんでくれ恥ずかしい」


 ローリングした亜竜種に潰されて、完全に晴嵐はノックアウト。ギリギリ気絶せずに済んだけれど、全体重を乗せた回転攻撃は全身に響いた。こちらが地面に倒れていた事もあり、最大威力で食らったようなものだ。すべての手を用いてはいないが、本気で戦った事には間違いない。

 男に手を伸ばす亜竜種からは、戦意が完全に消えていた。勝負の後は恨みっこなし。スポーツマンシップを想起させる行動だ。

 腹黒い本性の晴嵐には、少々理解できない発想だが……ここは亜竜自治区の流儀におとなしく従っておくことにする。好意に甘えさせてもらい、そっと手を取り立ち上がった。


「悪いな」

「気にしないデ。ワタシも少しムキになっタ。同族以外に投げを食らうなんテ……」


 少し恥じるように額を掻く。あの一撃は亜竜種にとっても想定外らしい。含むような口調を察した晴嵐は、最初は謙虚に応じた。


「投げたはいいが、その後に綺麗に立て直されてはな……それどころか逆襲されとる。意外ではあったろうが、意味はなかったの」

「いやいヤ、投げただけ大したものヨ。もう一度投げて欲しイ」

「……は?」


 思わず聞き返してしまった。完全に想像外の提案である。ぽかんとする晴嵐に、亜竜種は目玉をぱちくりさせた。


「何か変な事でモ?」

「いや投げてくれて……何か? わしがもう一度お前さんを投げろと?」

「そウ」

「ちょっと何を言ってるかわからん」


 相手に嬲られる趣味でもあるのか? 晴嵐の目つきが不審者を見るソレに変わると、ようやく誤解されてる事に気が付いて、慌ててクレセントが両手を広げ釈明した。


「ス、すまなイ、誤解しないで欲しイ。検証のためダ」

「検証? 検証て……あー……もう一度体験したいと」

「そうそウ」

「…………真面目じゃのぅ」


 鉄は熱いうちに打てと言う。興味の出た事、感じた事は、すぐに自分に焼き付けなければ身につかぬ。かくいう晴嵐がこの闘争に興じたのも、否定的な自分を変えるためだった。

 いつもなら絶対に断った事を、今日の晴嵐は応じる事にしている。まずはルーチンを変える事から始めなければ。

「構えろ」と男がクレセントに告げると、嬉々として投げられた時と同じ構えを取った。

 首を軽く振ってから、鮮やかにもう一度胸倉を掴む。今度は抵抗も少ないから、程よく肩から力を抜いて『巴投げ』を繰り出した。

 相手も心得ているから、受け身の移行も滑らかだ。くるりと一回転して着地したかと思えば、またしても「もう一度!」と駆け寄って来る。

 なんだが微妙な心持ちになり、晴嵐はこんなことを思ってしまった。


(遊具に夢中になる子供みたいじゃのー……)


 宙に舞うアトラクションを楽しむような、大きな子供のように見えてしまった。いやこれは言い過ぎな感想かもしれないが、にしたってやり合った相手と、積極的にじゃれつく神経は本当にわからない。

 わからないが……純粋な眼差しは晴嵐に痛い。結局その後も数回投げ飛ばした後、今度はクレセントからこんなことを抜かした。


「よシ! 大体わかっタ!」

「満足できたか? そいつは良かっ――」

「今度はセイランを投げさせてくレ!」

「……えぇ?」


 まだ解放されないのか、自分は。ついていけないノリに、晴嵐はがっくりと肩を落とす。

 しかしここまで付き合ったのだ。中途半端で投げ出すのも後味が悪い。真剣な闘争を終えた後の、検証と称した戯れに彼は暫し付き合った。

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