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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第四章 亜竜自治区編

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対亜竜種の演習

前回のあらすじ


 己の改革を目指し、闘争をまじまじと眺めてみるが、いまいちピンとこない晴嵐。考え込むところに、亜竜種の一人に闘争を誘われた。体験から得られる事もあるだろうと、彼はオレンジ色の鱗を亜竜種の誘いに乗った。

 ポートから少し離れ、さらに十分程歩いただろうか。

 遊具のおかれていない公園、手入れされた芝に覆われた地の一角に、金属製の箱が配置されている。所々配置された箱の近くで、何組か闘争に勤しむ人々の姿があった。


「こっちも混んでるな……」

「それでも大丈夫、空きはありそウ」


 頷いて同意する晴嵐。都市部ではどこも満席に近い状況だが、緑地部ではぽつぽつと空きがある。中央から離れれば、施設に空白が生まれるのも道理か。

 ただ、もう少し空いている予想をしていた。寝坊して日が高い事を抜きにしても、結構な人数が『闘技場』を利用している。適当に観察する晴嵐にオレンジ鱗の亜竜種が「そういえバ」と立ち止まった。


「アナタの名前を聞いていなかっタ。名を聞いてモ?」

「セイラン・オオヒラ。ただの流浪人じゃよ。お前さんは?」

「クレセント・コラージュ……ワタシもただの一兵卒ダ」


 今更ながらの名乗りを終えた所で、眼前の亜竜種……クレセントが草原の一角、ぽつりと不自然に佇む『闘技場』の金属箱に手を触れる。薄いドーム状の光の膜が『闘技場』の輝金属中心に広がる。ふわりと一定距離まで展開した後、視覚から静かに消滅した。


「……これでいいのか? なんか、随分とあっけないな」

「みんな最初はそう思うサ。試しに軽く傷をつけてミ。出血しないはずダ」

「そうする」


 晴嵐はおもむろに刃物を取り出し、小指に軽く当てて構える。薄く出血する深さに刃を触れさせ、思い切りよくナイフを振った。

 ぴりっと、小さな電流が走るような痛みが左手に走る。何度も味わって来た、皮膚が裂ける感触だ。けれどナイフにも小指にも、一切の血が付いていない。魔法の原理はさっぱりわからないが――全く大したものと感心した。

『闘技場』の効力を確かめた晴嵐は、ナイフを握った手をだらりと下げる。素手の左手で外套をなびかせ、堂々と背を伸ばし宣言した。


「待たせた。わしはいつでも良い。お主も得物を抜け」

「では失礼しテ」


 両膝の鞘……いやホルスターから亜竜種が武器を引き抜く。オレンジ色の鱗の両腕に、長い鋼鉄状の棒が握られた。武人祭予選でも見かけて武器――トンファーだ。拳を顎まで引き、木漏れ日が金属棒に触れて静かに反射する。細かく呼吸を繰り返し、軽快なステップをその場で刻む。十分に相手の体が温まった所で――晴嵐も意識を戦闘用に切り替えた。

 すっと精神の温度が下がり、敵を敵として認識する。殺す相手について思いを巡らせる事はない。愛する者、殺されれば泣く者、祈る者がいる事を無視する。氷柱つららのような冷気の瞳を受けても……戦士は決して怯まなかった。


「行くぞッ!」


 晴嵐の殺意やみを切り裂いて、猛然とクレセントが突撃。構えを冷徹に観察する男に対して、全く踏み込みを緩めなかった。殴りつけて来るかと思いきや、祈るように両肘と拳を合わせてたまま足を止めない……!

 晴嵐から見れば、体の中心線を隠した体当たり。迎撃は難しく、食らえばトラックに撥ねられるような衝撃を受けそうだ。限界ギリギリまで引き付けた上で、闘牛士の如くすり抜ける。即座にナイフを逆手で握り、その背中にねじ込もうと企む。無防備に見えた相手から、ぶわりと危険な予感を察知した。

 尻尾だ。亜竜種の尻尾が跳ね上がり、太い筋肉質の鞭が胸部を狙う。両手で隠したのは急所だけじゃ無かった。大気を押しのけて飛ぶ死角からの一撃を、反射的にナイフで身を守った。

 受けれる。と構えた晴嵐の手首に、骨身に響く一撃が加えられる。ミシミシと軋む音を立てる一撃に、両足でどうにか晴嵐は踏ん張る。反撃で素手で尻尾を殴り返したが、逆に拳全体に強烈な痛苦が走った。

 どう例えれば良いのだろうか……おろし金などの金具で、自分の手を削ってしまったような痛みに近い。反射的に手を見つめたが『闘技場』の効果で傷はつかない。一体何が起きたか知らないが、尻尾は迂闊に殴らない方が良いのか……?


「しゃぁッ!!」


 怯んだ男。吠える亜竜種。往復ビンタの如く尻尾を連打し、苦しい時間が晴嵐に続く。細身のナイフ一本で捌くも、あからさまに押されている。崩される前に懐から、投擲用のナイフを背中に投げつけた。

 しかしやはり、簡単にはやらせてくれない。尻尾を攻撃から防御へ、器用に柄部分を弾いて飛ばす。が、何とか敵の間合いから脱出し、痺れる右手首を軽く摩った。


(厄介な尻尾だな……!)


 初見の攻撃に苦戦する。本で読んでいたが、ここまで脅威度が高いとは想像外だ。

 体幹の補佐と、せいぜい攻撃部位が一つ増えた程度と考えていた。とんでもない勘違いだ。彼らの尻尾の破壊力は蹴りに近い。足と同じく、体重を支える部位もあって、上質な筋肉で構成されている……!


(おまけに足より間合いが広い。経験しておいて良かったかもしれんな)


 いきなり実戦で対峙していたら、確実に初見殺しを食らっていただろう。後の危険を避けた安堵は……残念ながら全くない。

 体験の戦闘は終わっていない。まだまだやる気の亜竜種から、晴嵐はどう戦うのか……

用語解説


クレセント・コラージュ


 オレンジ色の鱗を持つ亜竜種。メイン武器はトンファーだが、尻尾使いも巧み。武人祭に触発され晴嵐を誘った模様。

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