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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第四章 亜竜自治区編

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挑戦への一歩

前回のあらすじ


 亜竜自治区を見つめる晴嵐は、気楽に外部を見つめることが出来なかった。気が付けば固っ苦しい思考に囚われ、自らの変革の困難を知る。ともすれば元の場所に戻ろうとする己に、何とか変えてみようと努力を続けた。

 と……意識を変えてみるために、真摯に『闘技場』を利用し、闘争に明け暮れる者たちを眺めたのだが……どうにもやはり晴嵐にはわからなかった。

 理解できないものを、下らないと吐き捨てはしない。それは晴嵐個人の感想であって、熱中し、真剣に何かに取り組む者にとっては……全く見えているモノも、感じているモノも、一人一人違なっている。少なくとも対峙する戦士同士では、何か通じる空気や熱量、感情が生まれていたと思う。辛うじて晴嵐が感じられたのは、それぐらいだ。

 敵は敵であり、相手を理解する必要も、共感する必要も感じない。戦闘や殺害は対応手段の一つと、終末を生き抜いた男は割り切っていた。初見殺しの必殺を隠すのも、効果がなくなる危険や逆用を嫌った側面が大きい。


 だから……本当に素直にわからなかった。なぜ手段に過ぎない戦闘行為を楽しめるのか。さらに言うなら多くの場合、闘争を終えた直後互いを称え合う姿が見られた。

 完全にスポーツ感覚……崩壊前の地球に例えるなら、ボクシングや総合格闘技、フェンシングなどの光景が近いだろうか? 一つ気になるのは競技の場合『○○級』のように、重量で階級分けがされていた気がする。こっちには区分けがないのか?

 分からぬ、分からぬと唸る晴嵐。じっと考え続ける彼に、軽く肩に触れる誰かがいた。


「もシ……そこの御人」

「む……」


 振り向くと鮮やかなオレンジの鱗を持つ亜竜種が、晴嵐に話しかけていた。もちろん初対面の他人である。普段なら適当にあしらい終わらせるが、今日の彼は少し心持が違った。警戒心を最低限残して、晴嵐は亜竜種と話してみる。


「わしに何か?」

「先ほどからずっと見に回っておられル。良ければワタクシと一手どうカ」

「あー……」


 異種族であろうとも、たまに『闘技場』での戦闘に誘われる事があると、亜竜自治区内の診療所で耳にした気がする。あの時男は病み上がりで、治療担当の人物が釘を刺す意味で警告をされたと思う。闘争の中で相手の性根を知る……それが亜竜種の文化だと、書物に書かれていた記憶もあった。

 どうしたものか、晴嵐は迷った。以前の流儀なら絶対に断るだろう。しかし依然と同じ立ち位置に戻るのも、己の為によろしくない。

 それに――頭でっかちで考えるよりも、試しに飛び込んで体験を挟めば、何か新しく得られるかもしれぬ。老いていようが若者だろうが、日々新しいものに触れて学ぶ姿勢は大事だ。

 一応、失礼に当たるかもしれないので……晴嵐は先んじて予防線を張っておく。


「わしの戦い方は綺麗な物ではないぞ。正面からの切り合いがしたいなら、他をあたった方が良いと思うが……」

「むしロ、是非お願いしたイ」

「むぅ……」


 目つきは真剣なまま、真っすぐに晴嵐を見つめて来る亜竜種。やめろそんな純粋な目で見るな。否応なしにスーディアの顔が浮かぶではないか。

 なんだか断るのも悪い気がしてくる。頼み込まれて断れないような善人じゃないが、ここは新しい挑戦に身を投じるのも良いだろう。

 念には念を入れて、晴嵐は相手の亜竜種に確認した。


「……わしはこの『闘技場』を初めて使うのじゃが、仕様は『武人祭』の物と同じか?」

「気絶回りが違うワ。どこかに転送される事はないシ、普通に意識が途切れるヨ」

「おいおい、それじゃ身ぐるみ剥ぎ放題じゃないか」

「使用履歴が残るからすぐにバレるヨ。昔はそういう愚か者もいたらしイ。何よりこの往来で見つからずにやれないワ」


 悪党の考える事は同じか。実際に被害が起こり、晴嵐が指摘した危険は対策済み。とりあえず納得した男は、全面的に相手に任せてみる。


「なるほど。『闘技場』を動かすのも頼めるか」

「任せて欲しイ。床はどうすル? ここ以外にも芝の所もあるガ」

「む……土や石材以外の場所もあるのか」

「少し距離はあるけド、どうする?」

「任せよう」


 この周辺の『闘技場』は、道の延長で石を組んで舗装されている。晴嵐の戦い方においては、あまり床材に左右されない。投げ技で地面に叩きつけた時に、より硬い方が威力が出るが……亜竜種は体幹が強いと本で読んだ。実際に試さねばわからないが、もし強靭であるならば、有効打になるとは思えない。逆に自分が投げられて、痛い目を見る危険性の方が高いだろう。

 相手に任せる事で出方を伺ったが……オレンジの鱗の亜竜種は、全く別の視点で判断したようだ。


「この周辺は混んでいるナ……芝の方に行こウ」

「言われてみれば……」


 ポートから少し歩いただけなので、まだ町や建造物が多い空間だ。地面は石材で覆われているか、むき出しの地面が『闘技場』の場となっている。


「こんなに混むもんか? わしが来た直後は、普通に空きがあったが……」

「『武人祭』の影響だろうネ。このタイミングだと……予選で脱落した者が復習していル」

「なるほどね。もしやお前さんも?」

「いヤ、今回ワタシは見送っタ。けれど近い武器の使い手かラ、思いついた事があル。それを確かめたイ」


 ――成程。

 この亜竜種の戦士もまた、起きた現実に影響を受け、すぐに実践に移そうとする人種だったか。

 偶然出会ったオレンジ色の背中に、微かな共感を胸についていった。

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