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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第四章 亜竜自治区編

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男二人酒場にて

前回のあらすじ


 予選の終えた武人祭の面々は、控室で過ごしていた。最終戦まで進んだ現状を、戦いを終えたスーディアと、彼に技を伝授した亜竜種、ムーランド・マンバが眺める。近況を軽く語らうと、オークの彼に顔を見せに来た人物がいるという。呼び出したセイランは今晩奢ると告げた。

 予選一回戦を見終えた晴嵐は、すぐにコロシアム近辺まで足を運んだ。

 周辺は警備が厳しく、彼でも潜入は難しい。人の良さそうな見張りを見つけて、素直に言伝を頼んだ。あのオークの若者がどう暮らしていたかは知らないが、平気でライバルに背を預ける戦い方を見るに、恐らく性根は変わっていまい。

 予選終了の歓声の後、彼はすぐに晴嵐の下へ歩いてきた。気安く軽口を叩いて『奢りたいから店を教えろ』と、晴嵐はスーディアへ要求した。

 そうして若いオークが連れてきたのは……大量の客で賑わう一つの酒場。いかにも大衆憩いの場の空気が漂う、酒気と笑い声が絶えない愉快な場所だ。


「ふむ……悪くないな。いつ知った?」

「ここでしばらく世話になった時に。他にもいくつか良い店を知っています」

「後で教えてくれ」

「いいですとも」


 ありがたい。土地勘のない晴嵐にとって、知人からの情報は非常に頼りになる。関係としては浅いが、素直な性根のスーディアなら信用してもいいだろう。何か危険な気配があれば、逃げ切れる自信もある。そのための出費として……一食分の奢りで済むなら安いものだ。

 打算を頭に浮かべる彼に、ちょうどスーディアがその事を尋ねた。


「そういえば、俺のお蔭て儲かったと……どういう意味です?」

「誰が勝ち上がるかで賭けててな。お前さんに一口入れてたんだよ……なんじゃその顔は。わしのガラじゃないと?」

「えぇまぁ……徹底して危険を避ける人と感じていたので」

「不要な危険は冒さんよ。さっきも言ったが賭けたのは一口じゃ。そうだな……ここで軽くメシを食える程度の金額じゃよ。外れても支障ないし、当たればそこそこデカいオッズじゃった。お前さんの腕は知っておったし……は悪くないと踏んだ」

「へぇ……」


 そうして得た勝ち金が外食費になるのだから、悪い事ではあるまい。談笑を交えて待っていると、二人のテーブルに食事が運ばれた。

 香ばしく焼け色のついた照り焼きチキン。周辺を鮮やかに彩る野菜。泡を立てる発泡酒と、カリッカリに焼けた長細いパンが並ぶ。木製のコップを互いに手に取って掲げた。


「それじゃあ……再会を祝して」

「ああ。それとお前さんの勝利に」

「「乾杯」」


 木製のコップが軽快に触れる。揺れる中身に口をつけて、くっと一杯飲料を煽る。キンキンに冷えた液体が喉を鳴らし、二人の身体に染みていく。深く深く呼気を吐いて、ゆっくりと目を合わせて笑った。

 山盛りのメシに食器を伸ばし、存分に空き腹を満たしていく。陽気につられて次々と口に運び、時々手を止めて会話を挟んだ。


「別れた後、確かセイランは緑の国へ行ったんですよね?」

「あぁ」

「どうでした? 噂だとオークに厳しいと……」

「その通りじゃったな。中で色々と調べたが……あの国は歴史の問題からか、かなりオークへの憎しみが強い。お前さんが悪い訳じゃないが、テティの言う通り避けて正解じゃろう」


 少々顔を渋くして、晴嵐は『緑の国』を思い出す。

 威圧的な城壁都市。過去にあったオークの侵攻記録。長寿命から生まれた『世代断層』問題に、政治的な理由で隠された真実。

 複数の要素が悪い意味でかみ合い、鬱屈とした空気を常に漂わせていた。貧困街の様子も含めると、風通しの悪さは否めない。


「少しだけ聞いた事があります。千年前の問題を引きずっていると……」

「厄介なのはそこよな。わしらにとっちゃ遠い昔の話じゃが……長寿命のエルフは、当事者が生きておるんじゃよ。長生きも考えようよな」


 しみじみと感想を漏らす晴嵐。他意は無かったのだが、勘違いしたスーディアが声色を下げて言った。


「それは……今のあなたの事ですか?」

「いきなり何を……あぁ、そういやお前は、わしの中身を知っておったな」


 この男、スーディア・イクスは妙な技能を持っている。人の姿勢を見て、中身を察知できるらしい。にわかには信じがたいが……晴嵐ともう一人の中身を見抜いた実績もある。変に気を回す彼が面白く、意地悪く老人は笑った。


「今でも不思議に思っておるよ。あのまま死んで、二度と目を覚まさずとも良かったのじゃがな」

「……死ぬことは怖くないと?」

「向こうでやり残したことも、後悔も山ほどある。じゃが自分の最後には納得していた。わしに与えられた最後の時間を、きっちり自分の望みの為に使えた。クソジジイの最後としては、上等と感じておったよ」

「なら……今ここで生きているのは、その活動の報酬なんじゃないですか?」

「それは無いな。わしより努力した輩も、わしより善人な輩もおった。わしがその……『善行を積んだから蘇って良い』と言うなら、わしよりも良く生きようとした奴も、蘇ってなきゃ道理が合わん」


 口を開けば皮肉ばかりが口をつく。少なくともスーディアの意見は論外だ。「生き直してそのひん曲がった性根を矯正しろ」と言われた方が、まだ納得できる。

 斜に構える晴嵐。けれどスーディアは引き下がらない。まるで慰めるかのような口調で、語り続けた。


「どうでしょう……俺はあなた自身が思う程、あなたを悪人と思えませんよ」

「オイオイ……」


 お前に何がわかる。言い返したくなる気持ちを抑えて、晴嵐は飲料で喉を潤す。悩みながら言葉を探す若い男は、晴嵐自身が知らない部分を、じっと覗いてくるような気がした。

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