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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第四章 亜竜自治区編

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アースレイジ

前回のあらすじ


 漁夫の利狙いに囲まれる、スーディアと大鎧の男。軽口を交わしながらも、生き残る為に一時共闘戦線を張る。積極的に身を晒す大鎧の男の大剣は光を帯び、スーディアは彼の狙いを察した。

「スーディア選手とイッシン選手、三名の選手に包囲されてしまいましたが……」

「共闘で凌いでいるな。両名とも疲弊は大丈夫そうだ。早い段階で連携を始めた事が、功を奏した形か」


 戦士が背中を守り合い、敵の攻撃を凌いでいく二人。大剣、大鎧、盾の腕甲できっちりと防衛線を敷く。一応盤面は拮抗しているが、迎撃と防御が多いために、反撃は薄く攻撃頻度で劣っている。

 そして――反撃や危険が少ないとなれば、攻め手側は攻撃を激しくする。ノーリスク・ローリスクと知れば、人間はより攻撃的になるもの。纏う鎧に凹みが増え、スーディアの肩も少し息が上がっていく。


「ちぃと実力を見せ過ぎたか……」

「と言いますと?」

「予選勝ち上がりは四名。だが強敵ならトーナメントを勝ち上がり、どこかで対決する事になる。だから手ごわそうな奴、自分の武器と相性が悪そうな奴を狙って、先んじて脱落させちまえってムーブだ」

「なるほど。既に本戦も見据えてですか。しかし上手くいくでしょうか?」

「自分が生き残れなければ意味が無くなっちまう……ってか? ま、そこも見どころの一つってもんさ。武人祭予選中盤は……各選手の戦略が見物だぜ?」


 徒党を組んで強敵の脱落を狙うのも、敵対者同士で背を預けるのも戦略。最後の四人として生き残るために、そして生き残った後のために、個々の選手がどう考えどう戦うのか……


「スーディア選手、イッシン選手も良く戦っていますが、いかんせん手数が足りない! かといって深追いは出来ません。突出し集中攻撃を受ければアウトです」

「エルフ側は欲張らず、二名のミス待ちだな。変に反撃を受け体勢を崩せば、他の選手に狙われる。無難にじりじりと追い込む戦略か……堅実なやり方だ」


 派手さのない、地道で基本的な戦略。見どころも薄い戦い方だが、参加者は本気で勝ちに来ているのだ。見世物の側面があるとしても、勝利を掴むために着実な手は必要であろう。

 何よりこの『着実な手』は、やられる側は非常に困る。いずれ追い込まれる展開を察せても、危険の低い戦略を崩す事は難しい。

 よく耐えているが、それだけだ。アクシデントや、別の漁夫の利狙いの介入がない限り……この二名は脱落だろう。誰もがそう考える中、敗色濃厚の戦士二名は抗う。

 大鎧と大剣が守りに徹し、レイピアと魔法の盾で応戦する。破れない包囲に、被弾の増える鎧。じりじりと追い込まれる気配の中、遂に盤面が動いた。

 スーディアに組み付いた一人が、彼の刺突をギリギリで避けた。がしかし体勢が崩れてしまい、後方から追撃を試みた共闘者が足を止める。最後の一人がすかさず前面に躍り出て、態勢を整えるまでのカバーに入った。

『鎧の腕甲』……魔法による全方位防御を用いて、時間を稼ぐエルフ。オーク側の連撃は激しく、二刀流のエルフ剣士は守りに徹した。

 けれど必ずしも、この状況は不利を意味しない。しばらく粘れば後方の二人も復帰するだろう。ここで一人疲弊しても、二人が前線に戻れば数的同数は維持できる。盾となったエルフはそう考えた。

 その計算は間違っていない。加えてオークと大鎧側は、常に二人で戦闘を続けている。休憩を挟まない戦闘は、肉体も精神も倍々で消耗が積み重なっていく。人数が多い側は、時間を味方に出来るのだ。

 しかし忘れてはならない。堅実な一手、確実な計算に基づいた行動は……相手に容易に読まれやすい事に。

 復帰する後方の二名と、鎧の腕甲を使う二刀流が入れ替わる。

 レイピア使いのオークもまた、大鎧の男と前衛後衛をスイッチ。

 二人の戦士が片刃剣を鎧に振り下ろし……片方は鎧に、片方は大剣と干渉する。

 ――甲高い音が鳴ったのは、鎧だけだった。


「……!?」


 大剣と接触したが、手ごたえがまるで無い。不自然な反響音の低さに、大剣が保持する魔法効果の正体を察知したのだ。


「おい、まさか――」

「ぬかったな……!」


 大鎧が気迫を込めると、巨大な剣に魔力がほとばしる。

 焦げ茶色の鈍い輝きを放ち『アースレイジ』の魔法が大剣から発動した。

『アースレイジ』の魔法効力は二つ。

『受けた衝撃を吸収、蓄積する』効果と

『蓄積した衝撃を解き放つ』効果。

 今まで守勢に回っていた大鎧の男は、積極的にスーディアを守ると同時に、反撃の一手を育てていたのだ。今までの鬱憤うっぷんを晴らすが如く、上段から大剣一閃すると、大地を砕き衝撃波が荒れ狂う!

 大鎧に組み付いた二名は、波動の直撃を受け即座に吹き飛んだ。実戦であれば、四肢がバラバラにされていただろう。転送され消えていく人影から、低く鋭くスーディアが攻め入った。

 後方に引いた一人、辛くも直撃を逃れた一人は動転中。仲間を失った隙をレイピアに突かれ、三人で連携し迫るエルフたちを撃破した。


「――お見事!」

「そちらこそ!」


 軽口はその一度だけにして、再び互いの背を守る陣形に戻る。しかし徐々に、周りがスーディアと大鎧を避け始めた。眉根を潜めるオークの戦士に、鎧男が耳打ちする。


「ふむ……我らに怖気づいたか」

「何?」

「倒しやすい敵から倒す。手ごわい敵を取り囲んで殴る。だが自分は脱落したくないとなれば……リスクのある敵より、楽な相手を狙うわな」


 波状攻撃や数的不利も凌ぐ相手に、数も二人となれば仕掛けづらい。仮にスーディアと大鎧が勝ち上がりを決めても、まだ予選突破枠は二つある。他の参戦者たちが執着する理由は低い。

 白けた空気を感じ取ったスーディアは、警戒心を残したまま、背に負った鎧の男に提案した。


「交代で軽く休まないか? 終盤に備えたい」

「ふふ、其方そなたもようやくそれがしを信ずる気になったか」

「……お互いに生き残る為だ。一息つくだけでも違う」

「一理ある」


 静かに軽く気を抜いて、鎧の男が呼吸を整える。

 いずれ訪れる終盤に備え、互いに背を守り合いながら英気を養った。

用語解説


アースレイジ


輝金属に付与できる魔法の一種。効果は二つで

『受けた衝撃を吸収、蓄積する』と

『溜めた衝撃を、術者の任意で開放する』効果。

 少し前の回で、スーディアが打撃を食らわせても、手ごたえを感じない理由はコレだった。

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