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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第四章 亜竜自治区編

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鎧との攻防

前回のあらすじ


 初手の不利を凌いだスーディアは、予選の乱戦に足を踏み入れた。高速で飛翔するトンファー使いに、大鎧の男と挟み込み攻めた。手ごたえは感じたものの脱出されてしまう。残された大鎧とスーディアは対峙する……

「あーっとスィマンス選手! 挟撃を受け、たまらず離脱しました! 上空へ飛び退き、別の敵目掛けて急降下!!」

「二対一だが完全に押していたな。もう一人……いや、もう一手あれば脱落も狙えたか?」

「スィマンス選手は風属性魔法に長けています。高機動からのヒット&アヴェイが持ち味ですね。予選突破率の高い方です。彼に賭けてる方も多いのではないでしょうか」

「それだけに、落とせれば番狂わせだったが……」


 トンファー使いが空を飛び、スーディアと鎧男の挟撃から脱出。話を聞くに、この亜竜種は有名な奴らしい。逃がした魚は大きいと騒ぐ解説陣を余所に……一時共闘した二人が、敵同士として切り結ぶ。


「さぁ、標的を見失った二人がやり合うぞ。えーっと、この二人は……」

「『イッシン・ホムラ』と『スーディア・イクス』……ですか。あれ? 二人とも初出場ですかね?」

「ホムラの方は聞いた気がする。が……あんな恰好なら、オレも忘れそうにないが」

「戦い方を変えたのでしょうか。っと、ホムラ選手が仕掛けた!」

「早いぞ!」


 全身鎧と大剣。重厚な外見に反し、踏み込みも剣戟も速い。鋭い初撃を『盾の腕甲』で弾くが、障壁越しに伝わる圧力が、スーディアの左手を軋ませる。レイピアで反撃しようにも、大鎧相手では通りそうにない。

 一撃の後、ゆったりと大鎧が構え直す。見た目相応の重い挙動に見えて、全く隙が伺えない。緩急をつけた剣筋は、スーディアが知る大剣使いとはまるで異なった。

 その緩慢な重厚な挙動から――攻めに転じる際は、一瞬で最高速に達する。未知の剣術に押され、練度の高さに戦慄を覚え、心臓が痛いほど脈打つ。なのに。

 なのに、スーディアは少しも怖くない。むしろ高揚感さえ覚えていた。


「ちぃえああああっ!!」


 圧のある叫び声。振りかざすは戦意と鉄の塊。静と動を使い分ける剣士の一撃を、スーディアは盾で受けなかった。

 圧倒的質量差に臆せず、青いレイピアを大剣に合わせ、絶妙な力加減で引き付ける。両断を狙った巨剣の一撃が、細い剣の上で滑った。

 今にも折れてしまいそうな、ガラス細工めいた鉄の線が

 鉄塊の脇腹を撫で、剣筋を逸らす。

 地面を強打する大剣に、驚く鎧男へ

 守りに用いる『盾の腕甲』を起動し、肋骨の下を全力で殴りつけた。

 最初のインパクトの瞬間、手ごたえを感じたが……余韻の振動を受ける内、何故か感触が霧散してしまう。


(……手ごたえが消えた?)


 地面を穿った大剣を引き、ゆるりと構え直す所作は、まるで効いた感触がない。実際に傷を負わない環境でも、今のは確かに有効打だった筈。

 思案する猶予はすぐに消えた。再び強烈な打ち込みがオークを攻める。十分危険な攻撃に見えるも、正面から受けるスーディアは変化を感じた。


(踏み込みが浅い。少しは効いたか)


 本気の圧を込めつつも、痛打を狙う一撃は用いない。じっくりと様子を伺い、隙あらば切りかかる構えに見える。

 が、となればスーディア側に形勢が傾くだろう。

 鎧の男は緩急をつけた動きで、消耗を抑えているが……剣も鎧も重量級の装備だ。対してスーディアの装備は、軽量のレイピアと魔法の盾。長く見合えば、消耗の度合いは相手が必ず大きくなる。

 この道理を悟れない……? そんな馬鹿な。空飛ぶ亜竜種の着地の隙を、逃さず攻め込んだ剣士が?

 何かある。裏を警戒したスーディアは、徹底して守勢に回った。有効打にならない攻防の中で、オークの瞳が剣士を観察する。

鎧で隠れた顔は、飄々と戦う姿勢と重なり、読む事が出来ない。

が、何かを隠す気配だけは感じ取れる。張りつめた緊張の中、大鎧が一度鋭く呼気を吐いた。


 何気なく上段から振り下ろす一撃の中に、圧縮された殺意がある。自分が砕け散る幻像ビジョンが視え、反射でスーディアは後方に飛び退いた。

 大剣が焦げ茶の鈍い光を発し

 地面に触れた瞬間、強烈な衝撃波が地表を抉る。

 抉れた岩と砂利の破片が、障壁と干渉しオークの肉体を押し込んだ。

 危険を凌いだ安堵の間もなく、重量級の敵が剣を向け突撃。

 すかさず盾の腕甲をかざすも、魔法の障壁に亀裂が入り――砕け散った。

 防御を破り迫る刃。急所を穿つ一撃に対し、上体を捻り大剣の腹をレイピアで押し込む。僅かに軌道が逸れ、突き刺さる刃が脇腹を抉った。

 歯を食いしばるスーディアは、起動しない『盾の腕甲』を装着した左手で殴る。破れかぶれの一撃でも、このまま一方的に潰される展開は避けたい。顔面にブチ込んだ一発が、ちょうど顎の下付近に直撃した。


「ぬぉぉっ!?」


 ぐわんと兜を揺らされ、たまらず頭を押さえ数歩仰け反る男。しかしスーディアも動けない。走る痛覚に冷や汗を流し、切られた部位に手を触れた。

 破れた着衣と出血のない肌。実戦のクセで負傷部位を確認し、競技中と思い出す。改めて敵を見据えた瞬間、武人祭の洗礼が大鎧を襲った。

 怯んだ剣士の背後から、別の参加者が大槌を振り下ろす。弱った隙を狙われた剣士は、煩わしそうに大剣で払った。

 同時に、スーディアの背にも冷気が迫る。背面を向く彼が見たのは、鋭く飛翔する氷柱の刃。砕かれ不安定な防壁は用いず、体捌きと剣で凌ぐ。


(くそ、横槍か!)


 予選は一対一の場ではない。周りの輩は全員敵で、弱り目や隙を作れば攻め込まれる。正面の敵へ注力しすぎれば、漁夫の利を狙って殺到する事は当然の流れだ。

 まだ痛みの残る腹を庇い、レイピア一本で凌ぐスーディア。

 じりじりと後退を続ける彼の背に、鎧の背中が軽く触れた。

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