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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第一章 異世界編

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不穏の影

前回のあらすじ


 オークの拠点を目指し、追跡を始める晴嵐。会話の時の態度や現状をまとめ、囚われの要人の可能性を考慮する。自前で出来ることを確かめ、状況次第では救出も考える晴嵐。足跡を見つけた彼は、確実にオークの拠点を目指していった。

 

 森の深部、オークの拠点周辺――

 夜、略奪した物資で酒盛りする集団を尻目に、二人だけが群れから離れていく。髪を持たない頭皮に、緑色の肌、隆起した全身の筋肉、下の犬歯が飛び出した厳つい強面……一般的なオークの面構えだ。

 まだ若い二人が群れを離れ、声を潜めて密談している。戦勝の後とは思えぬ辛気臭さで、静かな怒りを瞳に湛えていた。


「……お前の言い分がもっともだぜ、相棒。今までの待遇もだいぶアレだが、お前は良く堪えてきた。まぁもうちょい器用に生きてもいいと思うが」

「俺は、こういう生き方しか知らない」

「そりゃ知る機会がなきゃあ、な。だがそれ差っ引いても、今回の長は横暴だ。なーんも考え無しに従う群れの奴らだって、流石に違和感覚えてる。やるなら数日以内がベストだ」


 しばしの沈黙。その無骨なオークは既に覚悟を決めていた。たとえそれが、自分の生命と引き換えの行為だとしても。


「……明日、長に決闘を申し込む」


 この群れを率いる首領へ、彼は反逆の決意を口にした。腰に差した古いレイピアを抜き、透き通る青い金属の刃を胸に抱く。青白く閃く宝飾品のようなそれは、二人が奇妙な遺跡で手に入れた逸品だ。


「……よく言った、スーディア。今日はもう明日に備えて休んでおけ。悟られんなよ?」

「……努力する」

「あ、ダメそうだな」


 あっさりと見抜かれた「スーディア」は、渋い顔で肩を落とした。本人も取り繕えないのは承知しているが、こうも正面から指摘されるとぐうの音も出ない。


「……ラングレー」

「ハハハ! ホント分かりやすいな! でもまぁ安心しろ。最悪あの子だけは、逃がす算段を整えておく。お前が粘れば粘るほど、逃げ切れる可能性も上がる」

「勝算は?」

「逃がすだけなら100パー。逃げ切れるのが五割ってとこだな。お前の生存率は二割もないが」


 八割命を失うと聞いても、剣を握るオークの意志は揺るがない。


「それは考えなくていい。今が命の賭け時だ」

「ったく、このぶきっちょめ、頑固者め、大馬鹿野郎めっ」


 本気の罵倒と共に、覚悟を決めたオークの胸を何度も小突く。

 口惜しさを滲ませて、それでも意思を汲み取って、ただ背中を押してくれる友の存在に、スーディアは胸がつまった。


「……ありがとう。お前と会えてよかった」

「馬っ鹿! 気が早ぇよ! 全部終わってから言いやがれっ!」


 明日死地に赴く友へ、喝を入れるよう胸を叩く。鍛え上げられた胸板で受け止め、スーディアも軽くラングレーの胸を突いた。

 互いの心情を確かめ合い、決闘者は群れの中へ戻る。今でも露骨な表情に違いないが、姿を眩ませたままよりはマシだ。反逆の意志を胸に、彼は集団の中で雌伏の時を過ごすのだろう。

 ――もう一人の反抗者は、戻らない。

 しばしその場に留まり、誰の気配も感じなくなってから……「クソがっ!」と近場の木を殴りつけて、吐き捨てた。

 友を不安にさせまいと、抑えてた不満を爆発させる。彼も彼で限界が来ていた。スーディアほど待遇は悪くないが、ラングレーも随分前から今の集団に疑念を持っている。でなければ、跳ねっかえりの肩を持ったりしない。


「はーっ……オレもこの群れ、抜けちまおうかね……」


 孤立するスーディアと異なり、彼には知った顔もそこそこいる。後ろ髪を引かれはするが、スーディアよりずっと優先度は低い。商人と交渉経験もあるラングレーは、独立してやっていける自信はあった。

 計画の道筋を立てる彼の背から……ずっと気配を殺し続けた男がするりと這い寄る。一瞬でラングレーを羽交い絞めにし、口元を押さえつけた。

 完全な不意打ち。一瞬の抵抗すらできずに拘束され、オークの若者はパニックに陥った。


「! !?!?」

「騒ぐな」


 冷徹に厳粛に、襲撃者に命じられる。背筋の凍る男の言葉は、ラングレーの精神まで凍えさせた。暴れるのを控え、じっと次の言葉を待つ。


「質問に答えろ。余計な事をすれば、命はないと思え」


 喉元に鈍く光る刃を突き付け、腕を口から喉元へ降ろす。一連の動作はあまりに手慣れていて、ラングレーはただただ戦慄するばかりだった。


「貴様らのねぐらは? 軽く首を動かせ」

「……オレのほぼ真後ろ。距離はそう遠くない」


 先程別れたスーディアの方向を示し、素直に情報を敵へ伝えた。


「群れの規模と方針は?」

「80人前後……いや、この前の戦闘で減ったから、70ぐらいだな。怪我人もいるはずだし、今の実働数はもう少し低い。方針は……アホくさいほど脳筋。魔導さえ行使するのも少ない、今時相当アレな集団だな。魔術使えるのはオレともう一人ぐらいだ」


 脅されてるとはいえ、すらすらと軽く内情を吐きだすラングレー。自暴自棄だからか、オーク自身が思う以上に、軽薄な気持ちで内情を喋った。


「人質はおるか?」

「うん? 人質?」

「……攫った人員の数は?」


 奇妙な質問に、変更された問い。恐らく、先ほど戦った村で手にした戦利品の話なのだろう。スーディアが謀反の決意を固めた話題に、ラングレーの心臓が強く脈打った。


「……あの子のことか?」

「数を答えろ」

「……4、5人だ」


 やはり人間の事を気にしている。予感を確信に変え、ラングレーは慎重に言葉を練った。この状況、このタイミングは彼にとって……否、二人のオークにとって天の采配と言っていい。

 好機を手にできるかは、ここで男を口説き落とせるかだ。興味を引きつつ、かつこちらの目的へ誘導できれば、彼女だけは無事に帰れるかもしれない。


「……人質って言ってたな?」

「その話題は――」

「オレたちオークは、んな回りくどいことしない。適当に奴隷としてうっぱらうか、嫁にしちまうかだ。けどまぁ人間の感覚で言うなら……人質にできそうな子は、一人いる」


 男の静止を遮り、勢いで話題を誘導する。一歩間違えば喉元を掻き切られる危険もあるが、どっちにしろ用済みとなれば始末されるだろう。

 男の腕に力がこもる。余計な口を利くなと威圧する。この場は一度口をつぐみ、男――晴嵐の次の質問を待った。

スーディア


 群れからはぐれたオークの一人。どうやら待遇や取り分で不満を持ち、群れへの反逆を決意したようだ。


ラングレー


 スーディアを『相棒』と呼び、彼を支えるオーク。彼より世渡り上手な口ぶりだが、相当腹に抱え込んでいる物がある模様。

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